それでは前回の続きです。
この作品を彩ってくれた個性豊かなキャスト陣について諸々書かせて頂きます。みんな本当によく頑張ってました。すごく成長を感じられた座組。今後の彼女たちの益々の活躍を祈って。

◯南野麦子役:橋本瑠果さん
ご一緒したのは今回で3回目。今まで7本舞台をやっているそうなので半分近くを演出させて頂いたことになります。始めて瑠果ちゃんに会ったのが去年の3月くらい。考えてみればまだ1年も経ってないんですね。すでに懐かしい。初舞台となった『ラストホリデイ2015』で初舞台初演技にもかかわらずいきなりの主演!ラストホリデイでは稽古期間も短かったため、なんとか本番に間に合わせるのが精一杯でしたが、それでもグングン上手くなっていく彼女に驚かされたものです。2回目にご一緒した『この世の果てまで』ではベテランの出演陣の中でも負けないくらいの輝きを放ち、そして今回は堂々と座長を務め上げてくれました。人って1年でこんなにも成長するのか?とただただ驚愕。身長も会うたびに伸びてるし、心身ともに成長してるんですね。彼女の武器は何と言っても声の強さ、度胸、そして目で追ってしまう強烈な華。演技的に言えば体内時計の早さ。その他上げたらきりがないくらい、本当に才能に溢れています。ただ、感情を爆発させたり、想いを秘めたりなどまだまだ苦手な表現もありました。今回も稽古当初はその辺りで若干苦戦をしておりましたが、とにかく今回は「感情」というものをテーマに稽古に臨んでもらいました。彼女にもいつもそのことを伝え、本人も一生懸命に取り組んでおりました。そして今回のあのラストシーンになったわけです。彼女が放つ真っすぐな感情に私はいつも胸を打たれておりました。親友である千晴へ向けられた真っすぐな想い。そこには何の汚れもない。あまりの潔さ。天真爛漫で誰に対しても壁なく接する瑠果ちゃんだからこそできた表現ではないでしょうか。素晴らしかった!この先様々な感情表現をどんどん身につけていけば、末恐ろしい女優さんになることでしょう。まだ16歳ですからね。すごいの一言。その他、今回は軽いアクロバットにも挑戦していましたし、もう今後が楽しみで仕方がない。さすがに1年で3回一緒にやってますから目線が親戚のおじさんになってますね。またまたご一緒するときを楽しみに待ちたいと思います。瑠果ちゃんが麦子で良かった!ちなみに、瑠果ちゃんお
得意の「勝手に写真を撮る」いたずら、私も被害者の1人です笑。ほんと凄い子ですよ。

◯日比野千晴役:若林倫香さん
彼女も芝居をはじめてまだ1年経っていないらしいですが、これまたビックリ。昨年、私が『アリスインデッドリースクール ビヨンド』を演出した際に参考資料として名古屋版のデッドリーを少し観させて頂いたのですが、まるで別人でしたね。とんでもないスピードで上手くなっておりました。そしてとにかく瑠果ちゃんとの相性が抜群でした。演技的に2人は対称の属性。さっぱりとしっとり、速球派と制球派、元気娘と優等生。もうこの対称の段階で絶対にこのお芝居は上手く行くと確信したくらい。倫香ちゃんはとにかく表現が繊細。そして何より声色がものすごく魅力的。上演時間の関係上、後半を怒涛の展開にしたのですが、少し足りないかなあ(感情を持っていくには)と思っていた部分でも彼女がやるとなんだか納得できてしまう。その辺りの表現力は凄いなと思って毎回観ておりました。お芝居に対してもものすごく貪欲で、常にもっと良くするにはどうしたら良いかと考えていましたね。こういう子は今後も間違いなく伸びていきます。楽しみですね。
倫香ちゃんは自分でもよく話しておりますが「模範解答」を出してしまうとのこと。確かに稽古当初では悲しいところは悲しく楽しいところは楽しくと表現をしておりました。そのため悲しいセリフも頑張って明るく言おうとしてもらったり、また全てのセリフに色々な表現を込めてしまうのでわざと何でもないことのように言ってもらったりしました。普通は逆なんです。お芝居を始めて間もない人というのは込められなくて苦戦する。よく考えてみたらアリスさんで「込めないで」という演出したのは彼女が初めてかも。この辺りにも倫香ちゃんのお芝居に対する姿勢、まっすぐさが現れておりますね。そして彼女の素晴らしいところは、あるシーンやセリフに付けた演出を他のシーンやセリフにも反映させてしまう勘の良さ。飛躍的にお芝居が上手くなっていくのも納得です。本番中にもちょくちょくアドリブを入れたりと遊び心も度胸もGOOD。今回が初めましてでしたが、またまた凄い逸材がアリスさんに登場したなという思いです。普段は名古屋に住んでいるとのこと。東京での活動は期間が限られているみたいなので、倫香ちゃんが東京にいる間に東京圏の方は是非是非彼女の繊細で清らかなお芝居を目撃してください!

◯蘆屋満汐役:松原夏海さん
突然ですがこの作品を軍艦に例えるなら、船長は主演の2人、多くの方から怪演と称された栗生みなさんと民本しょうこは船から飛び立ち、敵を迎撃する独立型の爆撃機。他の出演陣も全員何らかのポジションをこなしてくれましたが、松原さんは間違いなくメインエンジンでした。彼女なしでは『陰陽よろず屋』号は進むことができなかったでしょう。それほど私にとっては重要な存在でした。芝居のテンポや熱量、切り替えなど彼女が担っていました。松原さんは4年前に私が演出した『幸福レコード』のときにご一緒したのですが、その時が舞台2回目。当時から芝居勘のすごい子だなあと思っていたのですが、いい女優さんになりましたね。私がどういう作品にしたかったのか?そのためにどういう意図で演出をしているのか?などを一番理解してくれていたのは彼女だと思います。稽古でも最初からバンバンやってくれて、まだおっかなびっくりの状態だったみんなを背中で引っ張ってくれました。みんなにも色々とアドバイスやネタを提供してくれていたみたいで本当に助かりました。やはりこういう人が座組に一人いてくれると芝居がぐっと締まったものになります。笑いを取る人、涙を誘う人に注目が行きがちですが、私の中ではビッカビカに輝いていました。スタートから今日はちょっと固いなあと思っていたときなどは「早く満汐出て来て~!」と心で祈っていたものです。彼女が出て来ると座組が加速しますから。千秋楽では色々とアドリブをぶっ込んでおりました。本当はもっと最初から色々やりたかったんでしょうが、今回はそういった自分の立ち位置を理解してメインエンジンに徹してくれていたのだと思います。彼女には本当に頭が上がりません。お芝居にMVPはないと思っておりますが、まさにMVP級の活躍をしてくれました。あなたが座組にいて良かった!

◯桔梗役:成田梨紗さん
まさかの配役笑。普段はものすごくフワフワした子で、桔梗とは真逆といった感じ。今回はその他のキャストとのバランスや本人の「自分とは違う役をやってみたい」といった意志など色々考慮して、配役を行いました。正直な話、稽古当初は「これはちょっと大変そうだぞ…」と思っておりました。しかし稽古で接していくうちに彼女の利点を見つけ「ああ、この子は最後には絶対に結果を出すぞ」と思うようになりました。成田さんは決して器用なタイプではないと思います。しかし、そんな自分をしっかり理解して歯を食いしばって前へ進むことが出来るというのが彼女の素晴らしいところ。とにかく必死に頑張っていました。稽古場でもずっと台本を読んでましたし、本当に徐々に徐々に桔梗という役を掴んでいってました。それと同時にお芝居全体も徐々に締まって行きました。その歩みはとどまることを知らず、本番でもどんどん良くなって行き、結果的に私の想像していた桔梗を越えた桔梗になってくれました。桔梗が最後の方で葛藤しながらも自分の役目を果たそうとするときの姿、「うわ!こんな表現方法があるんだ」と私が驚かされましたから。鬼気迫る素晴らしい演技だったと思います。こういうことが起きるのが演出をしている時の最上の喜びですね。稽古終盤、声が枯れそうになった時がありましたが、なんとか踏ん張って、本番でも力一杯演じていた姿に心打たれました。今は自信を持って言えます。成田さんを桔梗にして良かった。プレッシャーもあったと思いますが、ただただ拍手。次は主演の舞台が決まってるそうですが、今度はどんな彼女を見せてくれるのか?楽しみですね。

◯安倍晴良役:信岡ひかるさん
今回の座組で一番成長したと思うキャストの1人。稽古当初は、なかなか上手く演じることができていないと思っていたみたいで(そんなことはなかったのですが)、よく「どうやったらもっとうまく台詞を言えますか?」と質問されました。作品の質や役によっては「こういう台詞回しがいいよ」と言ってあげられるのですが、今回の役・作品はそういった台詞回しでなんとかなるものではありません。とにかく自分の役の肉声で話してもらうしかない。なのでどういう気持ちでこの台詞を言っているのか?そのあたりをしっかり考えて、本当にそう思って台詞を言えるようにしましょうとアドバイス。また、どうしても視線が泳いでしまうので相手をしっかり見て相手の台詞をしっかり聞いて、それに対するアンサーとして自分の台詞を言うようにとも伝えました。そのあとが驚きましたねえ。すぐに芝居が変わり始めたのです。非常に勘が良い。
あの可憐な見た目とは異なり、普段の彼女は晴良とは真逆の性格らしく、そのギャップに苦しんだようですが、なんのなんの。本番に近づくに連れて、どんどんあの弱々しさ全開の晴良になっていきました。本番に入ってからもどんどん良くなっていき、泣きそうな声で自分の弱さを訴え、そんな自分の弱さを恨んでいる感じがものすごく出ていたと思います。だからこその「私負けないから」の健気さ。素晴らしかった。彼女が良くなっていった過程にはもちろん彼女の努力もあったと思うのですが、やはり稽古が進むにつれ他のメンバーと打ち解け信頼していったからこそ思い切って芝居ができるようになったということもあると思います。リアル晴良の疑似体験といいますか。やはり芝居はチームワーク。それを如実に表していたのが彼女の成長にあると思いました。この陰陽よろず屋という作品は晴良の成長物語という側面で観ることも可能ですが、ひかるん(あ、信岡さんのあだ名です)が等身大の晴良をリアルに演じてくれたことがそれをより際立たせてくれたのだと思います。彼女は背も高いし、非常に舞台映えします。今後も是非芝居を続けてほしい逸材ですね。

◯書子役:山下春花さん
みなさんからも多くの驚きの感想がありましたが、彼女、初舞台だったんです。演技もほとんどしたことない。書子という役はものすごく難しい役。独白が多いので、相手との絡みで役を作るということができません。しかし、彼女の才能に賭けてみました。最初に本読みをしてもらった時に、とにかく声が聞き取りやすかったこと、声になんとも言えない優しさ暖かさがあったこと、そして見た目のマスコット感。脚本の守山はうっとおしいくらい「はるぴー(山下さんのあだ名)かわいい~」と連呼してました。
とにかくもの凄く芝居勘の良い子でした。独白なのである程度読み方なども指導しましたが、少ししただけでどんどん良くなっていく。修正してもすぐに対応できるし、いるんですね、こういう子が。今回の芝居の優しさや暖かさは彼女の貢献大です。独白だけではなく、相手との芝居のやり取りも素晴らしかった。最後に千晴に日記を読むように頼まれた時、千晴の「私のこと覚えててほしいから」の一言ですべてを理解し「わかった」と言う台詞、そのあとの「未来永劫」のなんとも言えない優しさ。私が凄いと思ったのは、普通芝居始めたばかりの子は絶対に千晴のテンションに飲み込まれて(倫香ちゃんが良い芝居をしていただけに)それに合わせた「未来永劫」の言い方になると思うんですよ!でも彼女はそんな千晴をもしっかり受け止めてただただ優しく「未来永劫」と言ってあげる!もうね、エクセレント!最初稽古場で聞いた時は鳥肌が立ちました。まあ、どこまで考えて彼女がそのように言ったかはわかりませんが笑。今回のビックサプライズの1人ではないでしょうか。もしこれから彼女が舞台に立ち続けるのであればグングン人気が出て行くでしょう。普段はアイドルグループで活動しているのですが、是非芝居も続けてほしいなあ。

◯白姫役:水月桃子さん
一目見た時から「白姫だ!」と思った子。色の白さ、顔、少しフワフワした感じ…まさにぴったりでした。すぐに白姫に配役。そして…、本当にフワフワしてました笑。稽古中もよく台詞が飛んだり間違えたり…おーい!ホントにフワフワしてどうないすんねーーん!と思っておりましたが、なんとも憎めないキャラクターの子。いつもニコニコして、非常に可愛らしい白姫さんでした。
しかしです。ラストシーンのドンドン色んなことが怒濤のごとく起こる辺り、稽古当初なかなかうまく行かず頭を抱えておりました。しかし、水月さんが突然ボロボロ泣き出して麦子とのお別れのシーンをやりだしたのです。そこら辺りからラストシーンがみんなも俄然良くなり始めました。なんという瞬発力!彼女のお陰だと私は勝手に思ってます笑。
彼女の最大の魅力は、いい意味で少し不幸そうな雰囲気があること。白姫がなんとも切ない。彼女の元々の魅力がそれをさらに加速させてくれたと思っております。本人にこんなこと言ったら「私、不幸じゃないですよ~。フワフワ~」と言われてしまいそうですが、彼女が今後芝居を続けていく上でこの上ない武器となっていくでしょう。持って生まれたもの、いわゆる才能というやつです。芝居は変えられますが、見た目は変えられませんから(まあメイクとかである程度は可能かもしれませんが)。面白いところは全力でやってくれ、切ないところはしっかりと情感を出して演じてくれる。ちょっとフワフワしてるけど頼もしい女優さんでした。これからアリスさんへの出演もどんどん増えるのではないでしょうか?楽しみですね。

◯ハガネ役:浅見怜美さん
彼女は所属しているグループの活動が忙しく、あまり稽古に参加できないことが多く、ちょっと1人作品に乗り遅れている感じがありました。こういう時の役者さんって針のむしろだと思うんです。別にみんなはそんな目で見てなくとも、本人がそう感じてしまうでしょう。なのでなんとか皆に追いついてもらうために、一度彼女に付きっきりで稽古をしたことがあります。とにかく体に台詞や芝居を叩き込んでもらおうと何度も何度も同じ台詞、同じシーンをリピート。さすがにそろそろ疲れて来たかなあと思って来た頃に「もう一度やらせてください」と私に訴え、その後も何度も繰り返し練習をしてくれました。「ガッツあるなあ」と関心すると同時に嬉しくもありました。最終的に私がバテてしまいましたが笑。決して器用なタイプではありませんが、とにかく下を向かない子。常に前を見て、力一杯声を出し続ける。そんな彼女が、桔梗に「ハガネがいるではありませんか?」と振られてポーズを取るシーン、本番中に「あそこのシーン、ポーズを色々変えてみてもいいですか?」と言ってくれた時には嬉しくて泣きそうになりました。こういう芝居に対する積極性、何よりも大切です。次の現場ではああいう前のめりな姿勢で最初から挑めれば、もっともっと上手くなるだろうし、もっともっと芝居の楽しさを味わえるようになると思います。思わず応援したくなるような何かが彼女にはあります。これも才能ですね。ある意味、一番難しいかもしれないハガネという役を力一杯演じてくれた怜美ちゃん。次ご一緒する時は更なる成長した彼女を是非見せてもらいたいです。楽しみ!


少し長くなったので今回はこの辺で!