さて、本日は作品に彩りを与えてくれたキャスト陣について書きたいと思います。まずはゲストキャストの皆様について。

◯中山不二人役:小野一貴くん
小野くんとは『ラズベリーボーイ』という私が外部で演出したプロデュース公演で2回ご一緒しました。その頃から「真っすぐな嘘のない演技をする役者さんだなあ」と惚れ惚れしておりました。今回の演目である『この世の果てまで』の不二人を是非やってもらいたいと前々から思っていたのですが、まさか本当に出演を快諾してくれるとは思ってもいませんでした。普段は忍たま乱太郎ミュージカルとかもっと大きな作品に出演とかしているので、本当にまさかでした。
今回の作品が初主演で稽古当初はかなりプレッシャーがあったようですが、そんなそぶりは微塵も見せず黙々と稽古に打ち込んでいましたね。背中で皆を引っ張るタイプの座長。引っ張るというかみんなにイジられて場の空気を和ませ、結果皆が一つになるといいますか…そんな感じでした笑
彼の魅力はとにかく真っすぐで嘘のない芝居。気持ちがビンビン伝わって来る。そして滲み出る大らかさ。本当にはまり役だったのではないでしょうか。今回は群像劇だったため様々な役にスポットが当たりましたが、やはり作品全体の雰囲気を作っていたのは彼だったと思います。「優しく暖かいお話だった」というご意見を沢山頂きましたが、それは脚本や演出の力だけではなくカンパニー全体のそしてその中心にいた小野くんの醸し出すものが大きく影響したのだと思っております。
お芝居については、今回はただ気持ちを全面に押し出すだけではなく、感情を抑えたり繊細な芝居もしてほしいと思っておりましたのでその辺りを中心に芝居を付けていったのですが、稽古中に衝撃を受けたことがありました。
虹子とのラストシーン、最初稽古した時はお世辞にも良い演技とは言えなかった。ところが私が「虹子から一切目をそらさないで虹子のために台詞を言って」と演出を付けたところ、驚く程お芝居がガラッと変わりました。これ、本当に衝撃でした。こんなこと初体験です。私が言ったことを100%信じてそれに思い切って乗ってみる…そしてそれによって感じたこと、心の中から湧き出たものを素直に表現する…こんなにも素直にお芝居が出来る人がいるのか?と、ちょっと鳥肌が立ちました。これはもしかしたら希有な才能なのかもしれません。もっともっと色んな役の小野くんを演出してみたい!と思わされたまさに「事件」でした。
小野くんが不二人で本当に良かった。本人は「座長」という言葉に最後まで違和感を感じていたようですが、私にとっては最高の座長でした。今はただ「お疲れ様でした」と言いたい。そしてまた是非一緒に作品作りをしたいと思っております。

◯加世田虹子役:高橋明日香さん
4年越しの恋が実った女優さんです。まだ彼女がそこまで大きな役をやっていなかった頃に彼女のお芝居を舞台上で観て惚れ込みました。しかし、なかなかご一緒する機会に恵まれず、彼女はドンドン引っ張りだこの女優さんになっていき、益々ご一緒することが難しくなっていきました。そして今回何とかスケジュールも合いご出演頂けました。わかってはいましたが、やはり素晴らしい女優さんでした。感情の表現、台詞の発し方、表情、間の使い方…とにかくすべてが美しい。しかし、4年間も待ちこがれた女優さんです。稽古当初からすでに素敵な演技をしていたのですが、もっとディープなところまでやらせたかった。これはあくまで私の勝手な思い込みかもしれませんが、とにかく毎月のように舞台に立っている女優さんなのでおそらく知らず知らずのうちに「型」が出来上がっていたのかもしれません。そうでないと毎月のようにやって来る「役」をこなしていくことは出来ないはずです。また、最近エキセントリック?な役が多かったようなのでそうなってくると「型」がとても大切になってきます。今回はその「型」を脱いで欲しかった。彼女は非常に頭のいい女優さんです。おそらくパッと台本を読んだだけで役のなんたるかをかなりの精度で掴めてしまう。だから、少し混乱してもらいたかった。自分でもあまり理解できないような状態で役に挑んでもらいたかった。そこで対面する共演者と一緒に役を深めてもらいたかった。なので彼女にはほぼ言いがかりに近いような難しい演出を付けました。しかも結構曖昧な言葉で。稽古を見ていた劇団員の丸山から「扇田さん、とんでもなく難しい演出してましたね」と言われちゃいましたから。しかし、さすがは高橋さん。稽古中盤くらいからどんどん芝居が輝きを増していきました。彼女の中に実に複雑な感情が生まれて来ているのが良くわかりました。そして驚くことにその複雑な状態を彼女は最終的に「型」にまで昇華させていました。とんでもなく高次元の「型」です。だから本番ではほぼぶれることなく複雑な感情を表現しておりました(まあ本人的にはブレがあったのかも知れませんが、観ている側にはわからないレベルです)。いやはやとんでもない女優さんです。私なんかの想像のずっと先を行かれてしまいました。最高です!益々惚れ込んでしまいました。また是非ご一緒したいです!

◯中山泰三役:小西成弥くん
成弥くんは、小野くんと同じく『ラズベリーボーイ』という舞台でご一緒させて頂きました。この『ラズベリーボーイ』という舞台はとにかくアドリブや日替わりネタが多いハチャメチャな舞台でして、林明寛くんというモンスターのような役者さんたちが毎回暴れまくる作品なのですが、当時座組最年少だった成弥くんがそんな彼らを制御してしっかりとお話に戻すという役どころを好演してくれました。私の中では「舞台上にいるととてつもなく安心できる」役者さんです。
そして、彼は「ツンデレ」な男の子をやらせたらピカイチです。今回も泰三という役の「ツン」と「デレ」を絶妙に表現してくれました。そして舞台上の安定剤、本番中に何度か舞台上で起こってしまったミスを彼がなんなくフォローしてくれました。また、今回の座組では自身のパートナーである橋本瑠果ちゃんからの芝居の相談にのってくれたり、練習をしてくれたり本当に頼もしかった。座組のムードメーカー的な役割もしてくれ非常に助かりました。お芝居同様、稽古場にはなくてはならない存在でした。
今回、2年ぶりくらいにご一緒したのですが、メチャクチャお芝居も上手くなってました。表現が非常に豊かになったというか色々な色を出せるようになっていたのは驚きでした。台詞の言い方とか表現の仕方が生っぽいんですよね~。私、そういうの大好きなんです。人って普段会話する時、その場その場で次にしゃべることを考えてしゃべるのでそんなに澱みなく話せないものなんです。ところが芝居になれば台詞が決められているので澱みなく話せてしまう。もちろん人にお見せするものなので台詞は澱みなく話した方がいいのですが、時に澱みのある話し方を挟み込むと台詞っぽさが消えるんですよね。成弥くんはそれを上手く使っているんです。そこまで意識してやっているのかは聞いたことがないので分かりませんが、感覚的に似たようなことを感じて自然とやっているのだと思います。
まだまだ若いですが、本当にいい役者です。劇団の公演にまた出てもらいたいし、『ラズベリーボーイ』にも是非戻って来て欲しい!

◯袴田樹里役:橋本瑠果さん
瑠果ちゃんは、半年前にアリスインプロジェクトというプロデュース団体さんの『ラストホリデイ2015』でご一緒させて頂きました。当時初舞台初演技でいきなり主演という離れ業をやった子なのですが、今回も沢山のベテラン役者さんに囲まれても一切物怖じせず、堂々と演じておりましたね。半年前からかなりお芝居も上手くなっていましたが、この稽古期間中もメキメキ成長しておりましたね。彼女の最大の魅力は、とにかく素直でその初々しさに全くの嫌味がないところ。稽古場でも皆のエンジェルでした。彼女のハツラツとした演技を観ていると自然と笑顔になってしまう。天に与えられた才能ですね。今回の稽古では色々と課題を与えていきましたが、しっかりとそして確実に乗り越えていく彼女を見るのがとても楽しかった。今後もドンドン色んなことを吸収しメキメキ成長していくこと間違いなしです。何よりお芝居を楽しんでやってくれているのがとても好印象。私ども長年お芝居に携わってきた者たちが忘れてしまいがちなものを思い出させてくれる…そんな存在でした。地声も強いし、思い切って芝居もできるし素晴らしいですね。もちろんまだまだ課題はありますが、そんなことは通り越して、今回もビッカビカに輝いていたと思います。
歌も本当に頑張って練習してくれていました。瑠果ちゃんは最近解散した「アイドリング!!!」というアイドルグループに所属していたため歌うことには慣れていたと思いますが、今回はライブステージでの歌い方とは異なり、お芝居での歌い方をしてもらわなくてはいけませんでした。最初は染み付いたものがなかなか拭い去れず苦労をしておりましたが、本番では透き通るような歌声を披露してくれました。劇場入りして初めて聞いた彼女の歌声に、私は涙を流してしまいました。優しくもピュアな歌。本当に素晴らしかった。今後の彼女に是非是非注目してください!!

◯石渡美月役:古野あきほさん
ここ最近、劇団の公演に連続して出演してくれている常連さん。私的には今回の役がベストアクトだと思っています。もちろん、今までの役も素晴らしかったのですが、今回の美月は素晴らしいというかただただ凄かった。古野さん演じた美月、実は結構出番が少なかったんです。にもかかわらず皆様の書いて頂いたアンケートには「美月が良かった」という意見が本当に多かった。いや、でもそのご意見も納得のお芝居でした。出て来るたびに、なんらかの強烈な印象を与えていたのでしょうね。さすがの存在感でした。そしてラストシーンの美月。もうとにかく素晴らしかった!いつも鳥肌立ってました。あの一言でこの実は救いようのない物語が救われたのだとさえ思っています。
そして、今回はコメディエンヌとしての才能も遺憾なく発揮してくれていましたね。日替わりネタをぶち込んだり素晴らしかった。
ボブジャックシアターではいわゆる群像劇の演目が多いのですが、群像劇はもちろん出番の多い少ないがあるものの、全員が主役級の輝きを見せなければいけません。私もその辺りにかなり気を使って作品作りをします。古野さん演じてくれた美月はその最上級のキャラクターと言っていいでしょう。こういう役の膨らませ方をしてくれると本当に物語が豊かになる。本当にありがたかったです。出会った当初から非常に上手な女優さんでしたが、演技に若干のフィルターがかかっている部分がありました。古野さんにはその点をよく指摘してきましたが、今回はそんなものどっかに飛んでいってしまいましたね。登場しては色々な表情や感情を見せてくれ、まあなんというか演技に凄みが出てきました。もはやボブジャックシアターには欠かせない女優さんです。次もその次も是非是非ご出演願いたいと思っております。

長くなってしまったので、本日はこの辺で。