ではではキャスト話についての続きです。
素敵なキャストが多すぎて書くこといっぱい…終るだろうか?笑

◯紅島弓矢役・楠世蓮さん
世蓮ちゃんは元々紅島役の候補ではなかったのですよ。最初に面接をさせてもらった時に少し台本を読んでもらったんですが「あ、紅島だ」と思い、すぐに紅島に決めました。普段の彼女はキュートな女の子なのですが、こと芝居となるとなんとも言えない迫力に包まれるんです。紅島はヤンキーという設定なのですが、世蓮ちゃんの演じた紅島はヤンキーとかそういうカテゴリーで縛ってしまうのはもったいない!とにかく怖くて迫力のある人。そして何と言っても実は仲間思いのいいやつ。そういう雰囲気がもの凄く自然に出ていました。ビヨンドの前にやった役の影響で最初は少しデフォルメされたヤンキーを演じていたのですが、稽古終わりに少しそれを指摘したら、次の稽古ではすぐに皆さんが観た感じの紅島にシフトチェンジしてきました。このレスポンスの早さ!彼女が稽古以外でももの凄く芝居に時間を割いているのだと言うことが良くわかったエピソードでした。私はそういう役者さんが大好きなんです。僕自身もテンション上がりました。彼女の演技の最大の魅力は「強さの中に潜む弱さ、寂しさ」。彼女の演技がすごく生っぽいのはそのためだと思います。ヒーローになってしまいがちなこの紅島というキャラクターが非常に人間っぽかったのは、世蓮ちゃんの功績です。どんなに強がっていてもやはり迫り来る「死」というものを心の底で恐れている。それを常に忘れずに演じてくれていたこと、私はそこが世蓮ちゃん版の紅島の最大の魅力だと思いました。ノブとユウを置いて屋上を出て行く時の彼女の表情には様々な感情や思いが詰め込まれ、非常に複雑な表情をしていました。あの表情は本当に最高でした!どんな時でも単純な感情ではなく複雑な感情で紅島という役をそしてその時の舞台上の雰囲気を作ってくれた世蓮ちゃん。間違いなくこの作品の最大の功労者の1人です。プロ意識も高いですし、本当に一緒に作品作りが出来て楽しかった。また是非ご一緒したい!

◯青池和麿役・大蔵愛さん
愛ちゃんは最初紅島候補だったのですが、面接でお会いした時に「うわ~、なんて物腰の柔らかい素敵なお嬢さんなんだ!」と感じ、本当に紅島か?と思いました。ところが紅島を読んでもらった時はドスの利いた素晴らしい芝居で「あ、紅島イケる」と思ったのですが、直感で会長を試しに読んでもらったところ「こっち!絶対こっち!」となり和麿役に決めました。本人も和麿みたいな役を今までやったことがないと言っておりましたが、最初の読みで「この和麿は絶対面白い和麿になる!」という確信がありました。彼女は強い役が多いとのことでしたが、何と言うか「滲み出る優しさと真面目さ、心の広さ」を私は感じました。凄く大人だなあと。こういう人が天然ボケしたら面白くなるだろうと。案の定、和麿は爆笑王でした!毎回ちゃんとセリフ通りなのにしっかり笑いを取る。それは彼女の役の作り方、間とかフリとかが抜群に上手いというのもありますが、やはり彼女の滲み出るパーソナルな部分も大きいと思います。和麿が笑いを取ってくれるのは本当に有り難かった。特に中盤、みんなが夢を語ったりするところ。あそこではみんな笑って、観てるお客様も笑って、一瞬でも危機的な状況下にいることを忘れて欲しかった。和麿が毎回しっかり狼煙を上げてみんなに繋げてくれたので本当に助かった!もちろん笑いだけではなく、締めるところは締めるし、情感を出す時はしっかり出すし、本当に話の流れやその場の雰囲気を敏感に感じ取る役者さんだなあと感心しておりました。会長が最後に自ら死を選ぶシーンでは、最初から良い芝居をしておりましたが、初舞台組である静役の2人が舞台にも慣れて芝居がドンドン良くなっていくとそれに伴って愛ちゃんの芝居も更に上がって行って、本当に相手の芝居を受けるのが上手い!そして、相手もどうやればやりやすいかとかもしっかり考えてやってくれる。大人です。
また、芝居に少し悩んだりしたらすぐに相談をしてくれるのですが、その時アドバイスをすると次にやる時には必ず自分なりのアレンジも入れてやるんです!その辺りのセレクトセンスとかも抜群に光りましたね。声が低いからということで同じような役をすることが多いらしいですが、そんなの勿体無い!絶対に色んな役で輝ける人です。今回の和麿をきっかけにドンドン新しいタイプの役ができるようになればいいなあ。今後の活躍が楽しみな役者さんです!

◯氷鏡庵役・民本しょうこさん
言わずと知れた我が劇団ボブジャックシアターの看板女優。今回も彼女に出てもらって良かった。最初は氷鏡役をやってもらう予定ではなかったのですが、結果的に大正解でした。完全にというわけではありませんが、氷鏡が一人でこの作品の根底に横たわる『多世界、ループ』を表現しなければなりません(ビヨンドでは他のキャラもそれを匂わすことは言いますが)。なので確実な演技力、そして場を制圧する爆発力が氷鏡には必要でした。まあ、やはり彼女の氷鏡は抜群でしたね。
話は少し逸れますが、このアリスインデッドリースクールシリーズの企画として面白いところは『伏線を張るだけ張って回収しない』というところ。これによっていくらでも想像ができる。多くの感想にもありました「ハッピーエンドのデッドリーが観たい」というご要望にお応えしたデッドリーもできるかもしれません。多世界、ループというワードを入れることで色んな可能性を観客に想像させる。次の話はどうなるのだと。しかし、ここが脚本・麻草郁氏の巧妙なところ。多世界、ループというのは氷鏡の戯言かもしれないんです。だってなんの証拠もない。伏線を回収してませんからどこにも明確な答えは示されてない。なのでビヨンドは今までの作品の改訂版なだけかもしれないし、別のループ、世界の話かもしれない。いつの間にかループ、多世界というのが当たり前に語られてますが、そんな話はどこにもないかもしれない。そう、全ては可能性の話。麻草郁氏のみぞ知る世界。このなんとも捉えどころのない世界こそまさにデッドリーワールドな訳です。この世界を壊さないためにも民本には説明セリフをわかりやすく丁寧に言わなくて良いと伝えました。そこよりも「私は気付いた!この世界のカラクリを!」という興奮をメインに芝居を構築してもらいました。なのであれは説明セリフではなく、氷鏡の感情セリフなのです。皆さん、氷鏡を信用しない方がいいかもしれませんよ笑
てことで、流石は民本という良い塩梅で演じてくれました。

◯橙沼霧子役・さいとう雅子さん
まぁこは、私のお気に入りの役者さんの一人です。以前観た舞台で惚れ込んで、アリスさんに頼み込み、うちの劇団の舞台『幸福レコード』に出演してもらいました。彼女の突き抜けた太陽のような明るさ、嫌味のなさがとても好きです。当時と比べてお芝居が上手くなったというか物凄く幅が広がったというか表現が豊かになったと思います。半年ぐらい充電期間を持った彼女ですが、それが本当に良い方向に作用したんだなあと。色んな刺激を受けて色々考えたりしたのでしょう。ひと回りもふた回りも大きくなった!栞菜ちゃんもそうですけど、一緒にやるたびにこちらが驚くほど色々変化していく。嬉しい限りです。すでに次ご一緒するのが楽しみ!
さてキリコですが、明るく元気で作品に陽のエネルギーを存分に注入してくれたと思います。まぁこのやる明るいキャラは本当にキラキラしてていいですよね~。まぁこの凄いところは役にとにかく没頭するところ。そしてその没頭していることが役にとんでもないエネルギーを注ぎ込む。『生きてる』んですよ!まぁこの演じるキャラは!だからいきなり変なテンションになったり変な動きをしても何の違和感も感じさせない。そして、0から100、100から0へ何の苦もなく変化できる。表情も醸し出す雰囲気も気持ちいいくらいクルクル変わっていく。変幻自在です。本当に彼女の芝居は観てて飽きません。惹きつけられます。
キラキラ輝いてると思ったら、場をグッと締めるところはバシーー!っと締めてくれる。最初の「なんすか、あれ?なんすか、あれ!!」の切り替えは抜群でしたね。本当に底が知れません。
そして今回の舞台のテーマである『狭い空間で如何に無理なく全員その場にいれるか』を果たすためにキリコの存在は大きかった。キリコは無理なく色々動けるキャラ。そしてまぁこも無理なく色々動ける役者。彼女が所狭しと動き回ってくれたおかげで、ともすれば停滞しがちな舞台上の動きをいつも滑らかな空間にしてくれてました。あまり目立たない功績かもしれませんが、私にとってはとても重要な役割でした。感情表現もぐっと豊かになって今後が益々楽しみなまぁこさんです!

◯辻井水貴役・持田千妃来さん
ちーちゃんは2年前に同じくアリスインさんの舞台『トラブルブックマーカー』で主演を演じてくれました。当時まだ高校1年生で、「この若さでよくもここまでしっかり演じられるなあ」と驚いたものです。あれから2年、とんでもなく良い役者さんに成長しておりました!見た目は幼いままだと思いますが笑。もう芝居の説得力が格段にパワーアップしておりました。この水貴という役、「ツンデレ」というキーワードがあり、どうしてもデフォルメして演じてしまいがちなキャラクターだと思うんです。でもちーちゃんの水貴は本当に自然でした。自然にさらりと皆を凍り付かせるような台詞を言ってしまう。台詞を押し付けすぎず、かといって流しすぎず。実に心地よい塩梅で例の長ゼリフを言ってました。皆も凍り付きやすかったと思います笑。だってあんなひねくれた台詞が自然なんですもん!皆さんの感想でも「水貴が良かった!」という意見が多かったですが納得ですね。ツンとデレのバランスも見事でした。頭が下がります。
そんなちーちゃんですが、自分でも「感情を爆発させたりするのは苦手」と言っていました。凄く頭のいい子なので感情的なシーンも頭で考えてしまう所があったのかもしれません。ところが今回の作品で本番をどんどん重ねて行くうちに、感情が爆発し、時にぶれてしまうような芝居に変化していってました。おそらく周りの演技にどんどん影響を受けていったのでしょう。何度か「おお~!これはニュータイプちーちゃんに覚醒か!?」と1人うなっておりました。今回掴んだであろうこの感覚をどんどん伸ばしていって欲しいですね。役者として更に一段階も二段階も駆け上がっていくことになるはずです。稽古場を通じてもほぼ噛んだりミスをしたことがないパーフェクトな演技力に、ブレや自分でも制御できない感覚が伴ってくれば本当にとんでもない役者さんになると思います。今後益々目が離せないですよ!

◯堂本千十合役・中原ありすさん
今作品が舞台2作品目だったありすちゃん。いや~驚きですね。堂々と堂本を演じ切っておりました。なんとも言えない淑やかさ、かと思えば他人の心にズカズカと土足で入り込んでいく天真爛漫さ、彼女も変幻自在の魅力を思う存分発揮してくれました。普段はかなりふにゃ~とした子なんですが、良いスイッチを持ってます。なかなか上手く言えない言葉があったり、特定の台詞でなぜか声が小さくなったりと苦戦していたところもありましたが、私のアドバイスをしっかり聞き、常にまっすぐに前を見て取り組んでいた姿勢には本当に感心させられました。舞台2回目とは思えない感情表現の豊かさにも驚かされましたね。もっと沢山の経験を積んでいけば更に素晴らしい女優さんになっていくと思います。度胸もいいんですよ、彼女は!一度舞台で大切な小道具を持って来るのを忘れた回がありましたが、普通に取りに戻ったところになんとも言えないスケールを感じました。私があんな目にあったら舞台上でオロオロしてしまうと思いますもん。
そして水貴役のちーちゃんとのコンビ感は本当に素晴らしかった。あの2人の関係性が、今回のビヨンドの『群像劇感』を醸し出すのに多大な貢献をしておりました。目立たない所であの2人は色んなことしてましたからね。聞いたところによりますと、しばらく舞台は出れないかもとのことでしたが、そんなのもったいない!役者としての才能があるんだから是非芝居を続けて、演劇界を盛り上げていってほしいところです。稽古始まってから本番を終えるまでで一番成長した子の内の1人であったことも最後に言っておきたいと思います。

◯高森朝代役・小泉理恵さん
彼女は自分の演技だけではなく、私に色々意見を言ってくれる子で、本当に今回の座組には欠かせない存在でした。彼女のお陰で気づけたところもありますし、本当に感謝しています。凄く周りを見てくれているし、演出サイド目線で提案をしてくれる子でした。男の子の現場ではそういう役者さんは結構いるのですが、女の子の現場でそういった立場でいてくれる子は初めてかも知れません。非常に助かりました。
もちろん、自身の演技の方もバッチリでしたね。彼女はどちらかというとスロースタターで最初は普通にやっていたのですが、どんどん稽古場でもボルテージが上がっていき、通しをやるころには大迫力の演技をしてくれていました。ところが恐ろしいことに本番でもまだまだ上がっていく。どこまで行ってしまうんじゃい!と毎回驚いていました。「今日の高森良かったよ!」と褒めた次の日にさらに上回る演技をして来る。どん欲です。この満足しない感じ、非常にいいですね。
とにかく作品としての見え方、あり方をとても考えてくれる子で、自分がやっている影芝居が周りの芝居の邪魔をしていないか?などいつも細かいところまで気を配り、本当に繊細な感覚の持ち主でした。なので彼女の芝居は、出て来るところと出て来ないところの緩急が素晴らしい。映画のカット割りのように、観たい時にさっと画面に表れると言うか。観ていて気持ちよかったですね。また、自分では演技に納得できない回があった時も「あ~、紅島にいいパスを送れなかった…」と周りを気にしていたエピソードは彼女の役者としての哲学をよく表していると思います。小泉さんがこの座組にいてくれて本当に良かった!そう素直に思える役者さんでした。ナイス小泉!!

ではでは今日はこの辺で。次でおそらくラストです!たぶん…。