そして、今回忘れてはいけないのはキャスト陣です。本当に素晴らしいメンバーが集まってくれたと思います。とにかく皆、作品をいいものにするぞ!という気持ちがすごく強かった!稽古場のテンションは最初からかなり高めでした!私が決めたプランや方向性をしっかり理解し、まさに「一丸となって」取り組んでくれていました。今回が舞台初めてという子たちにとっても非常に有意義な現場だったと思います。メインのキャストたちの芝居に対する真摯な気持ちが全体にヒシヒシと伝わり、現場は良い緊張感に包まれていました。私と作品作りをしたことがある栞菜ちゃんやまあこ、民本などが適度に私をいじってくれたため、固すぎる現場ではなく和やかな雰囲気もあり非常にメリハリの利いた稽古場になりました。
ではでは、それぞれのキャストについて。

◯墨尾優役:栞菜さん/百村信子役:船岡咲さん
この二人を語るには個人個人ではなく同時に語った方が良いと思います。それほど抜群の相性でした。2人で1人。しかし1人でもそれぞれが立っている。とにかく素晴らしかった!
私が今回演出をやらせてもらうとなった時に一番こだわったのがこの2役のキャスティングです。とにかく2人とも同じくらい実力のある役者を配置して欲しいと。この2人の関係性は非常に難しい。どうしても「ユウ>ノブ」もしくは「ユウ<ノブ」になってしまいがち。ユウはとにかくめちゃくちゃで空気も読めなくてバンバン面白いことをしてしまう。そこが目立ちすぎると「ユウ>ノブ」になってしまい、後半の方でノブがユウを励ますところをやりすぎてしまうと「ユウ<ノブ」になってしまう。もちろん、それぞれの演技力の差などでも「ユウ>ノブ」「ユウ<ノブ」になる可能性もあります。とにかくこの2人は「ユウ=ノブ」でないといけない。で、この「=」というのはただ対等というわけではなく「ユウはノブがいるからこそユウでいられる」「ノブはユウがいるからこそノブでいられる」という「=」の関係性。「ユウはノブがいるからこそユウでいられる」は具体的に「ユウはノブが転校して来るまでいじめられていた」というエピソードがあるからある程度表現はしやすいのですが「ノブはユウがいるからこそノブでいられる」は具体的なエピソードがありません。もう感覚の世界です。その辺はさきっちょが上手く演じていたと思います。噛まれて屋上に戻って来た時に「ボケてくれなきゃツッコめないよ」という台詞を言いますが、私は『相手がユウだからこういう台詞を言えたんだ』と感じましたし、最後の2人の別れのシーンで元気にユウを励ました後、後ろ姿で泣き「ユウを励まさなきゃ。でもやっぱりユウと離れたくない。」と想像させる彼女の背中にもそれを感じました。でもこの辺りの感覚はやはりお互いに信頼関係があったからこそできたことなんだと思うんですよね。私はよく稽古中に「相手がいるんだから相手と芝居を作るように。それをやらなければ複数で芝居をやる意味がない」と言いますが、本当にその見本となるような2人の演技、関係性でした。
さて、それではなぜユウを栞菜ちゃん、ノブをさきっちょにしたかというと…、確かにボケツッコミの属性だけで言えば逆だったかもしれませんが、2人の演技の仕方というか魅力的な要素を見ると私的にはユウ・栞菜、ノブ・船岡の方がしっくりきたのです。ここからはあくまで私の個人的所感ですのでもし違う意見のある方は、またそれも彼女たちの魅力だと考えてください。
栞菜ちゃんと言えば、どんな役でもしっかりこなすその確実な演技力です。台詞はほぼ噛まないし(演出サイドからはこれ非常に重要)、強い役、弱い役、普通の役でも何でもこなせる幅の広い演技力は本当に色んな役をやらせてみたいと思わせる女優さんだと思います。そんな彼女の演技の中で私が特に魅力を感じるのが「嘘を付けない」という部分です。喜怒哀楽が表情や体の雰囲気に気持ちよく表れ、舞台上で様相がクルクルと変わる。私はそんな彼女を見るのが大好きなんです。そして圧倒的な感情の量。彼女は「嘘を付けない」のですがそれでもギリギリまで「感情を隠そうとする」。でもそれは隠し切れていない。しかし、本人は隠そうとしているので内に押さえ込もうとしている感情がグングン増していきます。「嘘を付けない」彼女の感情は「その感情がどんどん増えていく」様子も「増えすぎて溢れる」様子も感じ取ることが出来る。故に刺さる。感情移入がしやすい。この独特な感情表現が彼女の最大の魅力だと私は思っております。
それとは逆にさきっちょは「嘘を付ける」というか、どんなときでも「ブレない。動じない」というイメージがありました。これはステージ上での彼女の演技を見て抱いた印象です。今回まで実際にご一緒したことはなかったし、彼女が出演している作品を沢山見ていた訳ではないのであくまでイメージですが、私はそういう彼女の演技に魅力を感じていました。どんな状況下でも無理なく明るくできる、人を励ましたりできる、そんな演技ができる女優さんだなと。嫌味なくそういう演技をするのってじつは非常に難しいんです。どうしてもわざとらしさが出てしまうというか「本当は私も辛いんだよ」というのを知らず知らずのうちに滲み出させてしまう芝居をする人が多い。でもさきっちょにはそういうところが全くない!本人はもしかしたらそういう部分に気がついていないかもしれませんが、それほどナチュラルにやってのけるわけです。そして、「こういう子が最後の最後にブレブレになったりしたら凄いことになるだろうな」という新たな期待もありました。まさにその期待通りというかさらに想像を超えた演技をしてくれたわけですが。
つまり、私がそれぞれに魅力を感じる部分が、実は真逆な2人だった訳です。もちろん2人とも演技力が凄いので、逆も出来るのだとは思いますが、私は2人のそういった部分を見たかった。だからこそ、ユウ・栞菜、ノブ・船岡 だったわけです。このキャスティングが今回の私の演出における一番のファインプレーだったと今でも思ってます。本編における2人の漫才にもそういった部分が非常に良く出ていて、ただのボケツッコミで終らなかったことも非常に良かったなと。
とはいうものの、そこはやはり2人が培って来た間柄に非常に助けられた部分は大きいです。この2人だからこそ、私が狙っていた部分が惜しげもなく出て来たんだろうなと。とにかく2人には絶大な信頼を寄せていました。ですから、最後の方の2人のシーンはほぼ演出を付けていません。演出を付けると言っても「どうされたら切ない?」「どうされたら心に刺さる?」と2人の意見を取り入れ、それぞれがそれぞれにどうされたらどう感じるかを尊重して細かい演出を付けた程度です。抜きでの稽古もほとんどしておりません。とにかく素晴らしいコンビでした。それぞれどう演じるかではなく2人でどう演じるか?それをここまでやり切ったところに私から1人スタンディングオベーションを送りたいと思います。2人のシーンは稽古場から私は涙なしには見られませんでした。もう刺さりまくって大変なことになってました。恥ずかしい…笑

栞菜ちゃんがユウで良かった!さきっちょがノブで良かった!2人がノビューンで本当に良かった!最高のコンビ!

おっと、2人だけでこんなに長くなってしまった…。まだまだ書きたいことはあるのですがとりあえずこの辺で。