さてさて、アリスインデッドリースクール ビヨンドのブログの続きです。
準備は整った。でも色んな問題点がというお話で終わりましたかね?

まず第一に稽古期間が短かったことです。一応本番まで一ヶ月少し切ったあたりで始動したのですが、私が前の仕事の関係で合流できたのが3週間前でした。これは若い座組でのプロデュース公演としてはかなり短い。少し焦りました。なので稽古はかなりのハイペースで進めました。というのも私は抜きの稽古より通しの稽古を重要視しているからです。なるべく早く全シーンの段取り稽古や抜きの稽古を終え、とにかく通したい。作品はシーンの連続、シーンのバランス、強弱などやはり全体的な仕上がりが大切だと常々思ってます。そのシーンだけ見ると凄く良く感じるものでも、全体の中に投下するとあまり良くない、成立しないということがありますので。でもまあそれが芝居作りの醍醐味ではあるのですが。
とにかくハイペースで稽古を進めました。本当によく皆んなついてきてくれたなあと感心しております。役者陣に恵まれました。

そして、劇場であるシアターKASSAIの構造にも少し悩まされました。私は自分の劇団でもよくこの劇場を使うので凄く好きな劇場なのですが、今回のデッドリーのような作品には適さないかと思っていました。まずかなりの見下ろしであるということ。地下室とか最適でしょうが屋上となると何か工夫をしないといけない。でもそこは美術の青木さんのお知恵も拝借して乗り切りました。あとはやはりサイズです。デッドリーは17.8人がほぼ出ずっぱりの作品です。とにかくどこかが必ず被って見えなくなる。もしかしたらそこが一番苦労をしたかもしれません。柱の向こうまで舞台になってましたが、あれは観ている方に広さを感じさせるための工夫で、やはりアクティングエリアは基本的には柱の手前までなんです。しかし、前向きに考えると上手く配置できて「見えない!」とお客様にストレスを感じさせることがなければ、広い劇場より圧迫感や取り残された感じは更に出ます。もちろん、役者の熱も近い分バンバン伝えられます!…とはいうもののいやはや苦労はしました。微調整、微調整の連続でした。かなり先を読んで動きを考えないとどこかで必ず全く見えないところが出てくるんです。役者陣と話し合ったり知恵を出し合ったりしてなんとかここも乗り越えました。

とまあ、他にも色々あったのですがちょっと専門的で面白い話ではないので割愛します。

いやー、この舞台上の動線が固まってからはびっくりするくらいメキメキ作品が仕上がって行きました。まだ各シーンの反復練習をほとんどやっていない状態で一度流れを掴むためにざーっと流して最初から最後までやってみたのですが、みんなセリフはほとんど間違えないし、バンバン熱く演じてくれるし「え?これ初の荒通しだよね。いや荒々通しだよね?」と疑ってしまうくらいスムーズに行きました。今までの演出家人生で一番スムーズな荒通しだったのではないかと思います。みんなが稽古場以外でもしっかり自主稽古を積んでくれていたおかげですね。
なので、今回はそれぞれの演技ではなく、もっと細かい全体的な視点から丁寧に作品を作ることが出来ました。非常にありがたかった。
そして、稽古場では共通認識をしっかりと持てるように「こうしたい、あーしたい」「こういう流れに持っていきたい」「こういう演技や感情を見せて欲しい」と演出的なことをみんなに話しました。例えば「ヒーローになって欲しくない」「死ぬということをもっと怖がって欲しい」というのはつまり「良い意味で無様にやってほしい」ということ。この「無様な感情」こそが「生っぽい感情」だと私は思っています。人間は不完全な存在です。だからこそドラマチックと言うか…。誰かのために何かをしようと思うのだが、必ず我が入って来る。入ってしまう。失敗する。でも何とか成し遂げようとする。ましてや登場人物たちはみんな女子高生です。大いに未熟であって欲しい。ブレブレであって欲しい。彼女たちにそのような詳しい説明はしておりません。キーワードだけを伝えました。でも本当に勘のいい子が多くて私が思っていた以上の感情表現を見事にしてくれました。
自殺するシーンでブレブレの和麿を演じる大蔵愛ちゃん、ユウ達を置いて屋上を去る時の紅島演じるセレンちゃん、紅島に大声でメッセージを伝える高森演じる小泉ちゃん、ユウをしっかり元気づけてギリギリまで笑顔を見せるけど去り際に泣いてしまっているのがバレバレなノブ演じるさきっちょの背中、そしてノブが振り返った時に泣いていたのがバレバレなのにしっかりとノブを見つめ送り出そうとするユウ演じる栞菜ちゃん、他にもたくさんありますが、どれも良い意味で無様な本当に素晴らしい感情表現だったと思います。すごく人間ぽっかた!

あとは各々の影芝居ですかね。ここもある程度のルールは決めましたが、それぞれ自分たちで考えてやってくれました。今回は群像劇にしたかった。なので皆の影芝居は、それぞれの関係性や仲の良さ、距離感、関係性の変化を表現するとても大切なファクターでした。そして、台詞を言っている人だけではなく、その場にいる全員で場の雰囲気を作る、変える、氷付かせるなど一場ものなのにシーンが変わったくらいのエッジを出すというのも重要な共通認識でしたが、このあたりの皆の一体感は本当にすごかった。「舞台上では一瞬たりとも気を抜くな」このキーワードをしっかりと体現してくれました。

今回お客様より「演出がすごく丁寧で、すばらしかった!」とありがたい感想を沢山頂きましたが、それもこれもすべて役者陣の奮闘、きめ細やかさの貢献度が大です!
「アリスインデッドリースクール ビヨンド」という作品の細かい地図を脚本の麻草さんが書き、その地図を私や音響、照明さんが3次元にし、キャスト皆がそれに色を塗ってくれた…非常にお互いが刺激し合える環境で作品作りができ、私は幸せでした!

おっと、長くなってしまったので今日はこの辺で。次回はキャストの皆について書きたいと思います。書きたいこといっぱいあるのでまた長くなるかも…。