今回は「魔法少女まどか☆マギカ 」について検討してみたいと思います。


1 ストーリー等(ウィキペディアより転載)


1-1 あらすじ


見滝原中学校に通う普通の中学2年生、鹿目まどかは、ある日少女が魔法で戦う異世界にいる夢を見た。その時正体不明の生物に「僕と契約して魔法少女になってほしい」と告げられる。起きた日、学校に行くとその少女、暁美ほむらが転校してくる。彼女は「魔法少女になってはならない」と警告する。


放課後、親友の美樹さやかとCDショップに行くとまどかを呼ぶ声が聞こえる。声のある場所に行くと夢の中で見た生物がケガをして倒れており、さらにそこには夢の中で見た姿のほむらがいた。戸惑うまどかとさやかはいつしか異世界に迷い込むが、そこには同じ中学の3年で、生物=キュゥべえと既に契約した魔法少女、巴マミがいた。マミによって助けられた2人は改めてキュゥべえに「魔法少女になってほしい」と告げられる…。


1-2 登場人物


鹿目 まどか(かなめ まどか)
声 - 悠木碧
本作の主人公。見滝原中学校に通う中学2年生の少女。10月3日生まれ、身長は150cm以下、靴のサイズは22、視力は両目とも1.5。家族構成は母・父・弟の4人家族。心優しく友達想いの性格をしている。平凡な日常を送っていたが、ある日見た夢がきっかけとなり、それが一変するようになる。キュゥべえによれば比類のない魔法少女としての素質を持つという。イメージカラーは桃色。


美樹 さやか(みき さやか)
声 - 喜多村英梨
まどかの同級生にして親友。気が強く明朗快活で単純な性格の持ち主。人よりケガなどの回復力が高い癒しの祈りを得る契約で魔法少女となる。
武器はサーベル。目にも留まらぬ素早さで移動し敵を切り刻むほか、マミのように無数に剣を召喚し投擲することもできる。イメージカラーは青色。
キュゥべえと関わった事でテレパシーでの会話が出来るようになった。静養している幼馴染みの恭介に恋愛感情を抱いており、恭介の苦しみを間近で見てきたため「幸せ」である自分に願いを叶えるチャンスが訪れたことを疑問に考えていた。


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↑ 左が美樹さやか(以下、「さやか」とする)、右が鹿目まどか(以下、「まどか」とする)



キュゥべえ
声 - 加藤英美里
魔法の使者。まどかが夢の中で出会った謎の生物で、普通の人間には見えない。その後現実でもさやかと共に再び出会うことになる。契約することで少女を魔法少女にする代わりに願いを一つだけ叶えてくれる(代償として魔女と戦う使命を課せられる)。自身の役目は、願いを叶えた少女の魂を抜き取ってソウルジェムに変える事と穢れ過ぎたグリーフシードを取り込む事。常に無表情で、口は物を食べる時にしか開かない(漫画版では表情が豊かになっている)。テレパシー能力を持ち、マミやまどかやさやかとの会話が出来る上、他の魔法少女のテレパシーを中継する存在でもある。性別は雄。
基本的に自分と契約した魔法少女、または契約しようとする魔法少女といつも一緒にいる。

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↑ キュゥべえ

上條 恭介(かみじょう きょうすけ)
声 - 吉田聖子
さやかの幼なじみ。将来有望なヴァイオリニストだったが、事故で指が動かなくなったことで演奏が出来なくなり、病院でリハビリをしていた。絶望から次第に自暴自棄になっていったが、それを見かねて魔法少女になったさやかの癒しの祈りで指を動かせるようになる。
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↑ 上條恭介(以下、「恭介」とする)


きららフォワードからのアニメということで


一見すると、どこにでもありそうな魔法少女ものかと思いきや


初期の段階で、メインヒロインのマミが殺されるし(ただ、何らかの形で生き返るとは思う。もっとも、第1話で主人公が死んだという話は少ないが存在する)


おおよそ中学生女子らしからぬ大人びて、それでいて、なんともいえない複雑な心理状況。


マスコット的キャラと思われたキュゥべえがあまりにドライすぎるし。

→マミが死んでも屁とも思っていないのだろう。


小生の周りでも、「重い」という声がちらほら聞こえてきます。


このアニメはいったいどこに向かおうとしているのか。


現在第6話まで観ていますが、正直、複雑な思いです。


2 法律問題


某ブログで、キュゥべえと魔法少女契約をした場合、これをなかったことにできるのか、ということで話題になりました。


まあ、結論としては未成年者取消権(民法第4条、第5条第2項、)を行使したほうがいいと言うことで落ち着いたようです。

→取消し主張者としては、自分が契約当時未成年者であったことだけを主張立証すればいいので、おそらくこれが一番楽なのでしょう。詐術(民法第21条)や取消権の時効(民法第126条)、取消原因消滅後の追認(民法第122条本文)といった事情は取消権の不存在を主張する(今回はキュゥべえ)の抗弁事由となります。


問題は、取消権を行使した後の処理です。


たとえば、さやかが魔法少女になるにあたって、対価として癒しの祈りの力を得て、それで恭介の指を動かせるようにしたのですが、この場合、指はどうなるのでしょうか


さやかが取消権を行使すると、契約は遡及的に消滅するのが原則です(民法第121条本文)。


はじめから契約がなかったことになるので、双務契約上の一方の履行は原状回復として相手方に返還しなければなりません。


もっとも、制限行為能力者(未成年者も含む)による取消の場合の返還義務は、現存利益に限られます(民法第121条ただし書き)。


現存利益にしてもなんにしても、さやかは受けた利益の返還義務を負うわけですが。


さやかの受けた利益ってなんでしょうか。


また、誰がどうやって返還するのでしょうか。


この2点が問題となります。


2-1 さやかの受けた利益とは?


実はさやかは何も利益を受けていません。


利益を受けたのは、恭介なんですよね。

→癒しの祈りの力を受けた、ということはできますが。恭介の指の治癒ということに限定すると、さやかはなんら利益を受けていない。


そうすると、これは第三者のためにする契約ということができます(民法第537条)。

→受益者は恭介、諾約者はキュゥべえ、要約者はさやかということになります。


しかし、恭介はさやかによって指が治ったことを知らないため、恭介による受益の意思表示がないと評価できます。

→民法第538条反対解釈により、取消権行使は自由にできる。


ただ、第三者(恭介)の受益の意思表示は契約の成立要件ではないため、さやかとキュゥべえとの契約それ自体は恭介の意思とは無関係に成立し、取消しができます。


もっとも、第三者の受益の意思表示があってはじめて受益者は諾約者に対して契約上の権利を有するわけですから(民法第537条第2項)、キュゥべえの治癒行為(事実関係とはやや異なるかもしれませんが、便宜上、キュゥべえが治したことにしておきます)は法的義務に基づかないものであるといえます


法的義務がないのに、治癒行為をしたということは、いわゆる事務管理ということになりそうです(民法第697条)。

→受益の意思表示によってはじめて受益者に権利が発生する(民法第537条第2項)のだから、受益の意思表示の前は、第三者と諾約者の関係ではなんら法律関係にない。契約関係にあるのはあくまで要約者と諾約者。


さやかとの関係では現存利益が存在しないので、キュゥべえはさやかに対しては何らの請求はできない。しかし、恭介は法律上の原因なくして、指の治療行為を受けているので、恭介に対して治療費相当額の不当利得返還請求権(民法第703条)を有することになりましょう。

→事務管理に基づく有益費償還請求権(民法第702条)ということも考えましたが、不当利得でいけるのであれば不当利得のほうがいいのだろうと思います。


2-2 返還方法


キュゥべえの治療行為を金銭的評価が可能でキュゥべえの行為を損失といえるのであれば、金銭賠償で解決することに問題はないと思います。

→まさか、再びキュゥべえが恭介の指をへし折りにいくことはない。


実は、ここで若干引っかかっていたことがあり


たとえば、恭介の治療費がブラックジャックでないと治せないような代物であり、治療費に10億円かかったとします。

→そんなバカなことはありえないが。


さやかが契約を取消さず、一生、魔法少女として過ごしたならば、単純にサラリーマンの生涯平均賃金2~3億円、生活費等々さっぴいて1億円程度を逸失利益として計上できた場合(かなりアバウトな計算です)。


実は、取消したほうがかえって損をするという事態になってしまいます。

→ひたらくいうと、100円の物Aと1万円の物Bを交換したとき(交換契約)、Bを受け取った者が契約取り消しをした場合、Bの返還義務が発生し、かえって損をするということになる。現存利益といっても、B自体は現存しているので、返還義務はある。


どういうことかというと、さやかが契約を取消すと、恭介に莫大な治療費債務を負担してしまうのではないかということになります。

→治療費のみか、あるいはその後のヴァイオリニストとしての功績が認められた場合の利益等も含むのか、どこまでが現存利益か不明ですが。


特に、恭介は受益の意思表示をしていないのだから、いきなり恭介に治療費債務を負わすのは酷ともいえます。


かといって、治療費債務を恭介に負担させないと、「やらずぼったくり」を認めてしまうことになります。

→未成年取り消しの趣旨が思慮分別能力のない未成年者の保護にあるからといって、やらずぼったくりを認めるわけにはいかない。


それに、現実問題として、恭介自身は指が動くようになったのですから、この場合に事務管理の費用償還請求権(民法第702条)が認められることとの関係上、恭介に治療費債務を負担させても問題はないように思えます。

→仮に、恭介が治療を望まなかったとしても、同条第3項で治療費請求はできると思います(現存利益の中に治療費も含まれうる)。


このとき、恭介がさやかに対して、損害賠償請求(不法行為?)ができるかのようにもみえますが


これを認めてしまうと、未成年者取消権を認めた意義が失われてしまうので、違法性が阻却され、かかる損害賠償請求は認められないでしょう。


2-3 結論


キュゥべえは恭介に対して治療費相当額を請求できることになります。


○ 2011年2月20日 追加


事務管理の費用償還請求権は、あくまで「費用」の償還であり、報酬請求まで認めていません。


また、不当利得としても現存利益の返還しか認められませんので、治療費相当額といっても、目ン玉飛び出るような莫大な金額になることはないと思いますが、恭介の指は本来治らない(あるいは相当困難)代物であったことから考えると、かなりの額になってもおかしくはないと思います。


また、特商法との関係から、返還義務を否定する見解があります。これにつきましては、「2011-02-18 魔法少女契約の解消~キャンセルなんて できっこない!? 」で、詳細に検討されていますので、そちらに譲ることにいたします。
→改正法や判例、近時の議論を踏まえて、かなり詳細に検討されていて、本件を考察するに当たっては非常に有益であろうかと思いますので、ぜひ、ご覧ください。


最後に追記の形で申し訳ありませんが、議論のきっかけをくださり、実務的観点からの考察をなされた「ふくのブログ 」様、本件について詳細に解説くださった「アホヲタ元法学部生の日常 」様、この場を借りてお礼申し上げます。


<<参照条文>>


民法



(成年)
第四条  年齢二十歳をもって、成年とする。


(未成年者の法律行為)
第五条  未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2  前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3  第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。


(制限行為能力者の詐術)
第二十一条  制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。


(取消しの効果)
第百二十一条  取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。


(取り消すことができる行為の追認)
第百二十二条  取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。


(取消権の期間の制限)
第百二十六条  取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。


(第三者のためにする契約)
第五百三十七条  契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2  前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。


(第三者の権利の確定)
第五百三十八条  前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。


(事務管理)
第六百九十七条  義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
2  管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。


(管理者による費用の償還請求等)
第七百二条  管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。
2  第六百五十条第二項の規定は、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。
3  管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。

   
(不当利得の返還義務)
第七百三条  法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。