9月17日(土)銀座5丁目にある「銀座ユニーク」さんで、第3回希少がん患者サミットの収録が行われ、無事に終了いたしました。
当日の先生方のご講演は後日オンデマンドにて公開予定です。
https://rarecancersjapan.org/summit2022/
準備が整うまでしばらくお待ち下さい。
希少がんにおけるドラッグ ラグの問題には非常に複雑な背景があり、解決までの道のりは険しく、簡単には開きません。ですので今回のサミットは言わば「kick off」という感じで、さらに意見交換の幅を広げながら立場を超えて皆さんと進んでいきたいと思います。
今回、こちらではGISTの治療薬を例に、ドラッグ ラグの現状と、新たに生まれた言葉「ドラッグ ロス」についてお話します。
GIST(消化管間質腫瘍)はもともと放射線治療や抗がん剤がほとんど効かない、超難治性肉腫の代表のような腫瘍でした。ところが1990年代後半、当時阪大におられた西田俊朗先生、廣田誠一先生らの研究グループが、GISTが「カハールの介在細胞(Interstitial cell of Cajal; ICC)」 由来の腫瘍であり、GIST腫瘍の発生・進展にc-kit 遺伝子が関与していることを発見したことから、イマチニブという薬剤で腫瘍細胞の増殖が抑えられることが分かり、一気に治療環境が改善されました。
ただ、このイマチニブという分子標的薬でGISTを完治させることは極々稀であり、約半数の患者さんは2年半~3年で効果が弱くなっていきます。続くスニチニブ、レゴラフェニブも同じで、しかも効果の持続期間は少しずつ短くなっていく傾向があるため、GIST患者さん達はイマチニブが登場した後も、外科治療やラジオ波治療などのオプションを挟みながら、3つの薬剤をうまくつないで治療を続けてきました。
2013年承認のレゴラフェニブ以降、新薬が途絶えていたGIST治療薬ですが、2020年に一気に2剤がアメリカで承認、その後ヨーロッパでも承認されました。
ですが、このAYVAKITとQINLOCKという名前の2剤、いまだに日本では使えません。
企業名も、おそらく皆さんが初めて見る名前だと思います。
今年に入って日本でのみ開発が続けられた「ジェセリ錠:ピミテスピブ」が承認され、なんとか日本のGIST患者さんも選択肢を増やすことができましたが、海外では使える有効な薬剤が、日本では未承認のため使えないという「ドラッグ ラグ」が再燃している事を身をもって感じる事態となっています。
ではこういった事は、GIST治療薬だけのことなのでしょうか?
上記の2剤が欧米で承認された2020年、他の抗悪性腫瘍剤が未承認となっている割合を調べてみました。
すると2020年末の時点で52品目の未承認薬があることが分かりましたが、そのうちの33品目はすでに承認に向けて治験などが進行中で、ドラッグラグであることには変わりありませんが、承認が見えている状態です。問題なのは「開発情報なし」とされている14品目です。こちらは海外の製薬企業が日本での開発をスルーしていった薬剤群で、先ほどのGIST治療薬2剤もこちらに入っていますが、承認時期は全く見えない状態です。こういった薬剤の事を最近では「薬剤の喪失=ドラッグ ロス」と呼ぶようになっています。
また、上の表からもわかる通り、抗悪性腫瘍剤は他の薬剤と比べても未承認となる割合が大きいように見受けられます。
ドラッグ ラグを解消するため、厚労省は「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を設置し、製薬企業に対しても開発を促し、承認へと繋げてきました。しかし今や世界の医薬品開発はほぼ創薬系のバイオベンチャー(EBP)と呼ばれる小規模の企業が担うようになっており、日本に代理店や支社がないために開発を促したり、日本へ治験を誘致することが非常に難しくなっています。
しかも、以前の創薬系ベンチャーは、開発の成果を大企業へ売却することを最終目的としていましたが、最近では複数の薬剤の製造・販売までを自社で行うビジネスモデルとなっており、先発発売の薬の利益で、さらに次の新薬開発を進めるというスタイルが一般的になってきていることから、最初の新薬開発計画での国際共同治験(ピボタル試験)に入れないと、それ以降の日本への治験誘致は非常に厳しいものとなってしまいます。次の新薬の開発で人的にも予算的にも手一杯になってしまい、販路を広げる事をしないからです。下の表からもわかる通り、日本は3番目に上市される医薬品の割合が65%を超えており、1番目、2番目の開発計画から外される傾向にあります。このままでは未上市(この時点で17.7%)となる割合は今後も増え続けることになると思います。
次回はドラッグロスの原因、そして対応策について考えてみたいと思います。