*朝倉彫塑館 | 美術館巡りの小さな旅

美術館巡りの小さな旅

カメラ片手に美術館を巡るお出かけや旅行をArtripと呼んで、ご紹介しています*


年末年始のご挨拶ができないままに、年が明けて早2週間。

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
そして、旧年中はお世話になりました。

2015年は6月にブログ開設1年を迎え、沢山の方とコメントやメッセージで交流できたり、素敵な出会いが沢山あったりした年でした。

私の拙いブログをご覧になってくださったり、いいね!や読者登録をしてくださった方々に、感謝してもしきれません…*

年末年始は帰省等でバタバタしたり、色々と整理がつかないことなどもあり、ブログに向き合う時間がほとんどとれず…
(展覧会、美術館へはできる限り足を運んではいましたが…)

皆様のところへご挨拶に伺うこともできず、大変失礼致しました。

やっと本来のペースを取り戻しつつあるので、こうして記事を書けることを嬉しく思っています^^*

本年も、何卒、宜しくお願い致します。
皆様のところへも、これから少しずつお邪魔させてください…*


それでは、早速2016年ひとつめのArtripです♪
(本当は年末に訪れた美術館等もご紹介せねばなのですが…!)


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「雰囲気がとてもいい」
「あたたかな午後がいい」

そんな評判を聞いてから、ずっと気になっていた場所。

日暮里駅を出て緩やかな坂をのぼり、谷中らしい昔ながらのお煎餅屋さんを横目に進む。
左に折れて、行列のできるたいやき屋さんを越えた先。

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館内撮影禁止。
建物保護のため、スリッパ使用禁止、靴下必須。

…事前に得ていたそんな情報から、少しドキドキしながら入館したその建物。
ひっそりとした入口の風情からは、中の世界は一切想像がつかなかった。

雰囲気がいい、ということも、あたたかな午後がいいということも、そこに足を踏み入れたら、全て合点がいった。

作品、建物、庭、植物、書籍、窓から燦々と差し込む陽光。
ふとよぎる在りし日の主の面影に、つい息をひそめて周る複雑な館内。

それら全てが織りなす穏やかな空気感に、きっと何度でも訪れたくなる。

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今回は、谷中にある朝倉彫塑館について、ご紹介させてください…*


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1月の三連休中日。
ずっと気になっていながら、なかなか足を運ぶことのなかったこの場所へ、ようやく訪れることができた。

朝倉文夫は、日本の彫刻界に多大な功績を遺した明治~昭和期の彫刻家。

「東洋のロダン」とも評された写実彫刻家であった彼は、アトリエを改装し朝倉彫塑塾を開き後進を育成。
自らが設計したその建物が、現在の朝倉彫塑館となっている。

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音声ガイドを聞きながら、まず最初の展示室に足を踏み入れる。
(建物や作品の紹介が丁寧なので、こちらの音声ガイド(¥200)はお勧めです^^)

ドアを開けた瞬間、あぁ、この空気…と静かな感動に包まれた。

こじんまりした玄関からは想像もつかなかった、8.5メートルもの天井高のある空間。
入ってすぐ右手は全面が窓になっていて、高い位置から午後の陽光が燦々と降り注ぐ。

光の中に、空気中をわずかに舞う塵までもが照らされるような、そんな静けさに満ちた瞬間。

窓枠の影とともに、その陽光が木造の床に落ちる。
その穏やかさに、あたたかさに、初めて訪れる場所でありながらふっと気持ちが溶けゆくようなまどろみを感じる。

それだけでもう、ここへ来てよかったという充足感に満ちて行く。

光の先には、柔らかく微笑む老夫の彫像…朝倉文夫の代表作そして最高傑作とも言われる彫刻作品「墓守」である。
(※展示作品や配置は変わる可能性もあります)

皺のたたまれた顔、後ろに組んだ自然な腕。
暖かな日差しに照らされて微笑むこの人物は、こんな場所で過ごせてなんと幸せなのだろうかと思う。

「よく来たね」と言うのか、
「今日は暖かいね」と言うのか、
何も言わず笑みを投げかけるのか…

目の前で彼が話しかけて来んとばかりに、穏やかな、けれど確かな存在感を放つ。

写実彫刻を極めた朝倉文夫の再現力、技術はもちろん、その彫刻にかける想いが結実したのがこうした作品なのだろう。
その姿にただただ圧倒されて、まじまじと作品を見つめる。

先ほど記載したように、天井高8.5メートルのこの大きな空間は、もともと彫刻制作のために十分なスペースを確保すべく作られた。
(私が訪れた際には、その天井高を存分に使って巨大な小村壽太郎像も展示されていた)

ひんやりした雰囲気はまったくなく、暖色系の、モルタルっぽい質感の素材で覆われたカーブを描く天井。
多くの人が歩き(もちろん、朝倉文夫自身も)、時を刻んできた飴色の木の床。

そこに点在する彫刻達は、ここを終の棲家として静かにここで「暮らして」いる。
その自然なあり方に、すっと気持ちが落ち着いていく。


次に進んだ部屋は、洋風の書斎。

天井まである本棚が壁をなし、無数の書籍(美術書)がひしめく。

これらの本は朝倉文夫の恩師が所有していたもので、恩師の死後散逸しそうになっていたところを彼が自宅を抵当に入れてまで買い戻して集めたものだそう。

その実直な人柄は、実物に即して制作された彫刻作品に十分に滲んでいて、蔵書を見上げながらほっこりした気持ちになる。

書斎を抜けて少し進めば、洋の雰囲気は一変。

この館の魅力のひとつである、和風の中庭が姿を現す。

四方をこの屋敷に囲まれた中庭のほとんどは水面となっており、そこに岩や石が配置されている。

今いた建物以外の三面は全て和風の家屋で、畳の部屋や廊下、本来の正面玄関などを巡る。

2階、3階からは中庭とこの屋敷全体を、そして屋上菜園からは谷中の下町風情溢れる街を見下ろせる。

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内部の装飾や調度品、家具には朝倉文夫のこだわりが光り、主の息遣いを感じながら、階段を登ったり、窓から景色を眺めたり、その面白い造りに迷い込む。

不思議な色や柄のドア、階段を上った先の真っ白な自然採光の展示室、かつて蘭を育てていたというサンルーム(今は猫の彫刻でいっぱい!)…

次々と個性豊かな部屋が現れて、その構造の面白さに、見知らぬお家を探検しているような気持ちになって。

ところどころに置かれた作品と見つめあったり、窓からふと見上げたら、屋根の上に作品がいたり。

色んな方が、この場所の空気感や、建物、中庭を褒めていた意味がわかる。
そんな”発見”と”納得”の溢れた家。


建物を隅から隅まで周って彫塑館をあとにしたら、なんだかとても暖かくて、穏やかな気持ちになっていた。

…そのまま谷中の街をぷらぷら。

人気のかき氷屋さんには、真冬だというのに大行列ができていて。
かと思えば、温かいスムージーやさんなんてのもあって。

谷中銀座の周りは食べ歩きをする人たちでごった返していて、少し面食らう。
でもみんな、色んなものを食べながら、幸せそう。


有名な階段「夕やけ だんだん」を見てから、もう一カ所、美術関連の場所へ。

美術に触れるなかで、忘れてはいけない、岡倉天心ゆかりの場所。

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横山大観らと共に創設した、日本美術院跡に作られた「岡倉天心記念公園」。

とても小さな公園だけれど、この六角堂の中を覗くと、金に輝く天心先生(平櫛田中作)がいらっしゃった。


そのまま、思い付きで根津方面まで歩いて、やってきたのは根津神社。

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数年前に谷根千周辺を散策をしていてたまたま辿り着いたことを思い出しながら、「あの時は誰と来たかな」とか「ここで写真を撮ったな」とか、懐かしみながら並び立つ鳥居をくぐる。

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鮮やかで立派なお社にお参りして、帰途へ。

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昨年から引き続き、悩むこと、考えることは多いけれど。

こうしてあたたかな午後の光を浴びながら、作品に向き合ったり、素敵な建物を歩き回ったり、街を散策したり…

そうしていると、どこかすっきりする自分がいる。

”心の平穏が欲しい”というのが数年来の口癖となってしまった自分に、いつ本当の平穏が訪れるかはわからないけれど。
今年もまた、美術に触れて、作家の想いに触れて、建物に触れて。

心の栄養になるArtripがたくさんできるといいな。

そしてそんなArtripや美術館を、変わらずたくさんご紹介していけたらいいなと思います^^*

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今年1回目の更新でご紹介できたのが、このあたたかな陽光に包まれた朝倉彫塑館で良かった、そう思いながら。

改めまして、本年も宜しくお願い致します^^*


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いつも、美術館めぐり―Artripをご覧頂き、有難うございます♪

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