*三井記念美術館 | 美術館巡りの小さな旅

美術館巡りの小さな旅

カメラ片手に美術館を巡るお出かけや旅行をArtripと呼んで、ご紹介しています*


年末の空気が漂うビル街。

あちこちでツリーやイルミネーションが煌めき、一足早いセールも目に留まる。
お菓子屋さんはクリスマス商戦で賑わって、行きかう人々もどこかせわしない。

そんな都会のど真ん中で、落ち着いた空気の漂うその入口が、ひっそりと構えている。

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歴史ある重厚な空間と、その輝かしい所蔵品・旧蔵品の数々に静かに魅了される時間。

今回は、三井記念美術館について、ご紹介させてください…*


現在開催中の展示
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「三井文庫開設50周年・三井記念美術館開館10周年 記念特別展Ⅱ
 三井家伝世の至宝」
三井記念美術館
2015.11.14(土)~2016.1.23(土)
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三越前駅・A7出口を出て振り返れば、すぐにその入口はある。

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三井記念美術館は、三井家及び三井グループが、その長い歴史の中で収集した日本・東洋の美術品を所蔵する三井文庫別館がゆかりのある当地に移転し平成17年に開館。

コレクションは三井北家・新町家・室町家からの寄贈品を中心に構成され、茶道具をはじめとして絵画、中国古拓本、書跡、能面、刀剣そして13万点に及ぶ切手コレクションなど充実の内容を誇る(うち国宝6点、重要文化財73点、重要美術品4点)。
 

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入館すると、大きな吹き抜け空間が広がる。
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美術館のある「三井本館」は昭和初期に米トローブリッジ・アンド・リヴィングストン社が設計、1929年に竣工されたクラシカルな洋風建築(国指定重要文化財)だが、この入口や開放的な吹き抜け空間は、隣接する高層ビル「日本橋三井タワー」のアトリウム部分にあたる。

歴史的な建築と最新の高層ビルとの取り合わせも、三井家・グループのこれまでとこの先とを象徴的に体現するかのよう。

また、美術館内には三井家ゆかりの国宝茶室「如庵」(織田有楽斎が京都・建仁寺境内に1618年に建造。現在は愛知県犬山市に移築)の室内も再現されている。

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そのまま奥へ進み、美術館フロア直通エレベーターへ向かう。

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このクラシカルなエレベーターがまた素敵*
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美術館エントランス(7階)に到着。
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今季の展示は「三井家 伝世の至宝」。

三井文庫開設50周年、三井記念美術館開館10周年を記念して、春に行われた記念特別展Ⅰ「三井の文化と歴史」に続く、記念特別展Ⅱにあたるのがこの展覧会。

国宝や重要文化財を館蔵作品はもちろん、なんと現在は他の美術館や個人蔵となっている旧蔵品もカムバックして一堂に会するという、超豪華かつ太っ腹な展示だ。

(三井記念美術館マニアという訳でもなんでもないのに、旧蔵作品たちになぜか「おかえり!」と言ってまわりたい気分になるのはなぜだろう)

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ではさっそく、印象に残った作品を…*

まずは三井記念美術館の誇る焼き物たち。

●重要文化財 本阿弥光悦「黒楽茶碗 銘時雨」江戸時代・17世紀、北三井家旧蔵、名古屋市博物館蔵
●重要文化財 本阿弥光悦「黒楽茶碗 銘雨雲」江戸時代・17世紀、北三井家旧蔵、三井記念美術館蔵

先日の逸翁美術館の記事でも本阿弥光悦の茶碗を挙げたのが記憶に新しいけれど(記事はこちら)、黒楽茶碗2点が揃い踏み。

焼き物についてまったくの無知ながら、とにかくこのマットな黒と、ほどよくごつごつした朴訥な佇まいには心が穏やかになるというか、癒されるというか。

すっぽり両手に収めてみたい…と知識がなくてもいくらでも眺めていられる。

焼き物は難しいけれど、その魅力は感覚的なものでビシバシ伝わってくる。
ちゃんと焼き物を勉強して、知識と感覚とを良いバランスで楽しめるようになりたいなぁ…


●国宝 「油滴天目」南宋時代・12~13世紀、伊皿子三井家旧蔵、大阪市立東洋陶磁美術館蔵

さて、前回の静嘉堂文庫美術館の記事でもご紹介した油滴天目(記事はこちら)!
今度は大阪市東洋陶磁美術館の所蔵のもの。

第一印象は、ちょっと地味め…?
静嘉堂文庫美術館で観たものよりも、その油を水に散らしたような紋が細かいのである。

それでも、その異様な存在感と禍々しさには吸い込まれるような魅力があって、光の当たり加減や下の方に垂れた釉薬のあとを眺めていると、ふっと我を忘れそうになる。

静嘉堂文庫では悲しきかな隣に飾られていた「耀変天目」の人気の影に隠れてしまっていた「油滴天目」。
こちらの展示では焼き物のトリとして、がっつり主役級の輝きを放っておりましたので、ぜひご注目ください^^*


●重要文化財「東福門院入内図屏風」江戸時代・17世紀、北三井家旧蔵、三井記念美術館蔵
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画像だととても小さくなってしまうけれど、沢山の人物が丁寧に描きこまれたなんとも華やかな屏風!

入内の行列を描いたものなのだけれど、それぞれの身なり、色の合わせ方など、ランウェイでも見ているような感覚で眺めてしまった。

これは是非とも近くに寄って、じっくり眺めていただきたい作品です…!


●国宝 藤原定家「熊野御幸記」鎌倉時代・1201年、北三井家旧蔵、三井記念美術館蔵
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熊野へ御幸の始終を書き留めたもの。

何月何日にどこまで行って、どこで船に乗って、お昼をどこで食べて…と、つぶさに旅程が記されていて、当時の御一行の様子が目に浮かぶよう。

途中で紙が足りなくなり、終盤は裏面にまで記載が及んでいることが判明して、ちゃんと御幸にお供して記されたものであることがわかったとのこと。

そういったエピソードにも、なんだかかつての人々を近く感じられる気がしてくる、微笑ましい国宝。


●鳥居清長「駿河町越後屋正月風景図」江戸時代・18世紀、北三井家旧蔵、三井記念美術館蔵
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お正月をモチーフにした、この時期にぴったりの作品。
しかも、三井越後屋の風景…つまり、まさに今いるこの三井本館のある場所が描かれたものとあって、興味津々!

ざっとひらけた壮観な道の奥に構える富士。

けれどその姿はわざとらしくなく、薄くぼんやり、控えめな佇まいで描かれている。

作者のピントは富士ではなくあくまで手前の市井の人々の生活に合わせられていて、紺色の暖簾が続くさまはなんとも美しい。

新年を迎えて改まった気持ちや高揚感と、それでも慌ただしく進み始める日常とが微妙に混ざり合うお正月の空気感が、見事に、抑制的な色彩で表現されている。


●安藤緑山「染象牙果菜置物・貝尽置物」明治~昭和時代初期・20世紀、北三井家旧蔵、三井記念美術館蔵

今回の展示で、最も度肝を抜かれた作品!

昨今、粘土や樹脂などで作る「食品サンプル」や「フェイクスイーツ」がブームとなっていたけれど(かくいう私も数年前は粘土やフェルトなどでのフェイクスイーツ作りを趣味としていた)、明治~昭和にかけて、まさにその先駆けとも言えるこんなに精巧な置物が存在していたとは!!!

本物と見紛う(というか本物にしか見えない)野菜や貝の置物…
どんなに目を凝らしても観ても、本物と違うところが見当たらない。

しかも材料は、象牙!!
(なかなかリッチです)

象牙のどこをどうすればこんなにそれぞれの質感や形状に近づけられるのか…
全く以て私の理解を越えていた。

着色も巧みなのだけれど、その技法は緑山だけの秘密だったらしく、彼の死により永遠に葬られてしまったそう…

(惜しい気もするけれど、これだけの技術…自分だけの秘密にしておきたい気持ちもわからなくはないですね…!)


…そして、三井記念美術館といえば、能面コレクションも忘れてはいけない。
今回も約10点ほどの能面がずらりと並ぶさまは圧巻!

なかでも老いてからの小野小町を表現した能面はなんとも巧みと言うか、痩せこけた頬や少し落ちくぼんだ目など、本当にその能面自体が歳月を重ね歳をとってきたのではないかと思うほどの重みがあった。

「能面」と言われて一般的にイメージしやすいものもあれば、なかなかバラエティに富んだものもあるわけだけれど、1点だけ、失礼ながらどうしてもこちらを笑わせようと思っているとしか思えないユーモアセンスがありすぎる能面が…

●重要文化財 伝赤鶴「能面 牙癋見」室町時代・14~16世紀、北三井家旧蔵、三井記念美術館蔵

しかめっ面で遥か上を見上げる目と、異様に目立つ牙、鼻息荒い勢いが、なかなかの変顔っぷり(言葉で説明しても伝わらないのがもどかしい)!

他の能面にはにらめっこで勝てる自信があるが、この能面にだけは一瞬で負けると思う。

この作品が展示されているのは12月27日までなので、ご興味のある方はぜひ勝負を挑んで(?)みられてください…!


…そして最後はやっぱり、これを観ずして帰れない。
三井記念美術館の誇る雪景色。

●国宝 円山応挙「雪松図屏風」三井記念美術館蔵
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まず遠目で観て、ぼんやりした雪の幻想性に息をのむ。
少し近寄って、意外にも無骨に強く描かれた松の葉や幹に意表を突かれる。
傍で眺めて、雪の塗り残しの妙に驚嘆。
再び遠目で観て、すべての要素が合わさった美しさに圧倒される。

こんなに気品があって、こんなに落ち着いていて、こんなに柔らかな物腰でありながら人を惹きつける画面があるだろうかと、ただただ絵の前で、静かな感動に包まれる。

ぼんやりと繊細に雪が積った様子が描かれているかのように見えて、実際はその筆致はなかなかシンプルで、かなり思い切ったタッチの積み重ねで表現されている。

絶妙なバランス感覚で白く塗り残された部分が、離れて観るとどうしてこうも自ら発光せんとする雪に見えるのか。

近くで観たときと、離れて観たときとでは、全く別の絵のようにさえ感じてしまう。
キツネにつままれたような気持ちで、屏風の前で距離を変えて行ったり来たり。

松自体の絶妙な配置も、なにもかもが応挙の算段にはまったよう。
悔しいほどに美しい。

まさに「至宝」の展示の〆にふさわしい作品で、しっとりと穏やかな充足感に満たされて、展示室をあとにできた。


館内にはショップ、カフェも併設。
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美味しそうな和スイーツや食事が並んでいたので、お時間のある方はぜひ^^*


所蔵品もさることながら、やはり歴史ある建築の中で作品と対峙できる時間はとても貴重。

特に前半の展示室はモールディングの施された壁や暖炉等、シックでクラシカルな内装と照明が作品たちを引き立てて、展示室にいるだけでわくわくする。

そんな、都会のど真ん中でレトロな空間に迷い込める三井記念美術館。

ぜひ、旧蔵品も集まるこの機会に、足を運ばれてみてください…*


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「三井文庫開設50周年・三井記念美術館開館10周年 記念特別展Ⅱ
 三井家伝世の至宝」
三井記念美術館
2015.11.14(土)~2016.1.23(土)
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いつも、美術館めぐり―Artripをご覧頂き、有難うございます♪

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