「好きな人が出来たんだ」


3年付き合った彼は、
国際電話で今までにないハッキリした声で言った


それは、
やはりあの展覧会で会った年上の彼女だった

その人の顔も思い出せないけれど、その彼女に仕事の悩みを相談しているうちに想いが芽生えたらしい


やはり


だった・・・




正直言って、自分が汚れ者にならないとホッとした部分もある

キレイごとだけど、
あの頼りない彼がハッキリと声を震わさずに言えてる事実にも感じるものはあった


わたしは一通り、
「ヒドイよ」から「あなたが選んだ人なら仕方ない」まで言葉を発した

彼は
「ごめん」しか言えなかった

でも、
きっとこうまでして選んだ人を、彼はキチンと愛するだろうなと思った

頼りがいのある声で、ハッキリと愛を伝えるだろうな


わたしじゃない誰かに




肩の荷がおりた気がした


結局、
誰かの好きな人はわたしの好きな人にならないのかしらと思った


ううん

わたしたちがお互い、大好きだったのは本当

でも


どこか客観的に見てるところがあった


彼は

誰かの好きな人であって、わたしの好きな人じゃない

最初と最後はそう思う恋だった




おわり

アメリカに行った私は、
彼との連絡を更に取らないようになっていた


非現実的に過ぎてく毎日


楽しくて仕方なかった

彼の国際電話のせいだけじゃない、か細い自信のない声を聞くのは勘弁と思って、なるべく外出するようになってた

その内に、
隣の部屋に住む人と親密になった

特に彼のことを話したワケじゃない

隣の彼も神戸に疎遠になっている彼女がいたみたいだけど、特に話を聞いてたワケじゃない

私たちは、現地の仲間内でも知られぬ間に近づいていった

こうなると、
気は楽だった

私にも相手がいる

後は、彼から決定的な言葉を待つだけだった


そして、
そう思ってから遠くないある日、彼から大事な話があると電話があった


つづく

女の子は男の子よりも精神年齢が高いという


わたしは彼よりも少しだけ早く社会に出た



彼が仕事の悩みを抱えた時、


わたしは「それ知ってる」といつも感じていた


仕事の出来る男というのに幻想を抱いていたわたしは、まったく彼の悩みを聞こうとしなかった



いちど、

彼の仕事の付き合いで何かの展覧会に行ったことがある


インドの文化のようなものを集めたアートの催しだった


そこで、

ひとりの年上の女性を紹介された


その時はなんの印象もなかった



彼の仕事の悩みを聞かないわたしは、自分の仕事の話もせず、

仕事の忙しさもあり、会う時間も減り、会ってもこれといった会話もなくなっていった



このままではマズイと思い、

倦怠期の夫婦のような発想で、わたしは彼と共通の趣味を持とうとした


毎年彼の好きな沖縄に行っていたわたしたちは、スキューバダイビングのライセンスを取ろうとスクールに通いだした


そう

文字通り、バディになるために


カタチから入るわたしは、お揃いで必要な器具を買って、ウキウキしていた


彼は純粋に夢が叶うと嬉しそうだった


久しぶりに楽しいと思った


ふたりで笑った



でも、

笑顔はそう長くは続かなかった



プール講習のとき、

わたしは、すぐにリタイアした


潜水が出来なかった・・・



その前の年に沖縄で体験ダイビングをした時にも、わたしはすぐに海を上がっていた


嬉しさのあまりハシャギ過ぎて、わたしを置いてひとりでどんどん先に行ってしまう彼に、

ただ腹を立てスネただけだと自分でも思ってた



どうやら、ただ苦手だったようだ


すぐにスクールも辞めてしまった


それからも、

彼はスクールを続けライセンスを取ることができたが、

そんな話も面白くなく、ほとんど聞いてなかった




わたしはがんばった



それからすぐわたしは、

ひとりでアメリカ行きを決めてしまった



つづく