真夜中を過ぎても
その黒いサングラス。
「面倒な人なんだろうな」って思った。
――当たってた。
あなたの家の近くを
何度も何度も歩いた。
あの頃のあなたは
私の名前なんて知らない。
…というより、
私なんて見えてすらいなかった。
あなたは
小さな恋心を集めては
振り返りもしないで
置き去りにしていく人だった。
私もその中の一人。
あなたにとっては
名前もない通行人。
それが今さら――
「初めまして」なんて顔をする。
振られるって、
人をずいぶん勉強させるんだね。
今度はあなたが
私の家の前に立っている。
薔薇の花束と
「ごめん」を抱えて。
住所はちゃんと見つけられたんだ。
私には
気づけなかったくせに。
……ありがとう。
きれいな薔薇だね。
でもね。
夕焼けも
きれいでしょう?
だからって
持ち帰ったりはしない。
その薔薇も、
その謝罪も、
全部持って帰って。
“使い回しの気持ち”には
ちょっとアレルギーだから。
やっと私の名前を覚えたんだね。
私はもう、
あなたの名前を忘れたあとだけど。
相変わらず
その黒いサングラス。
何か隠してるつもり?
残念。
隠れてないよ。
安っぽい若作りが。
全身タトゥー。
高そうなレザージャケット。
「ミステリアス」を演じたいんだろうけど、
遠くから見ると
本気で自分に酔ってる
ちょっと悲しいピエロ。
背だって
私のタイプよりずっと低かった。
それでも好きだった。
恋って、
現実より幻想を
見せるのが上手だから。
私が追いかけていたのは
幻。
あなたが追いかけていたのは
注目。
違うようで
結末は同じ。
今度はカーネーションを持ってきて
「反省してます」って顔の練習までして。
でもね。
私はもう、
誰かに価値を教えられてから
謝りに来る男を
ロマンチックだなんて
思わない。
だから薔薇は持って帰って。
ちゃんと育ててくれる人のところへ。
謝罪も持って帰って。
きっと次に並んでる誰かには
効くんじゃない?
私は
あなたが好きだった。
あなたは
選べる立場でいたかった。
そして今さら
私が欲しい?
……かわいいね。
でも、
もう興味ない。
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