「遅くなる」って言うだけで 私の顔も見ない

鍵をいつもみたいに 無造作に置いて

手元ばかり気にして ネクタイを直してる

目を合わせる気なんて 最初からないんでしょ


加藤さんが あの作り笑いで

「最近ずっと残業みたいよ」って

「そうなんだ、頑張ってるね」って笑って

帰ってから 少しだけ綺麗な地獄を選んだ


泣いてるわけじゃない ただ退屈なだけ

浮気くらい もう少し上手くやればいいのに


ベラドンナ、ねえ ただ静かなことなの

叫び声も 指輪もいらない

お皿の上に 嘘を並べて

あなたが食べて 私は見てる それだけで終わり


Nさんは理由なんて聞かない

私が泣かないところが いいんだって

車の後部座席 安いワイン

境界線なんて 最初からなかったみたいに越える


彼はあなたの名前を 冗談みたいに口にする

たぶん見たら あなた壊れるでしょうね

私がどうやって

“誰でもない誰か”に寄りかかってるか


あなたには彼女 私には彼

お互い そういうの慣れてたみたい


ベラドンナ、ねえ あなたの好きな味で

ちゃんと現実に感じる?

あの駆け引きも その魅力も

こんな終わり方するなんてね


嫌いなわけじゃない それが皮肉で

ただ 一緒にはいられなかった

あなたの“真実”とやらと

同じ場所には立てなかった


Nさんはドアのところで待ってる

もう どうでもいいこと

「君ってほんと変わってるよね」って

「よく言われる」って答えた


もっと上手く嘘つけばよかったのに。


ベラドンナ、ねえ 別に恨みじゃない

あなたが永遠を軽くしただけ

だから今は ただ静かなものの一部

窓辺に置かれたものと 同じくらいの存在


皿はもう洗ってある テレビはついたまま

日常はそのまま続いていく

Nさんが「泊まる?」って聞く

「一人じゃないほうがいいの」って答える


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