ママにどんな本借りたの?ママに興味あるんですね。火の鳥とブラックジャックだよ。ふーん、読んでどうだった?作者を尊敬しちゃう。他の作品も凄いし、アイデアが豊富で驚いちゃう。あと、ワンピースなんかも好き。
まひろちゃんって勉強ばかりしてるわけじゃないんだね。勉強も嫌いじゃないけどね。
あっという間に日は暮れ、終わりにした。じゃ、来週ね、と言って階段を降りた。依頼人に娘の優秀さを告げ、丁寧に別れを告げた。家を離れ、振り返ると門では、真由美が二階の窓からはまひろが手を振っている。手を振り返して、上々の気分で駅に向かい、その足で本屋に行った。教え子の教科書に準拠した参考書と受験用の問題集を選んだ。教え子の能力を想定するといずれも高度な内容のものになった。次に訪れる日まで、大学の課題より真剣に、そして時間をかけて学習内容を検討した。
まひろちゃんどうしたの?この話最後まで読むと、どうしても涙が出ちゃう。
そう、母親の愛情がどんなものかよく分かるね。芥川さんも最後の方は泣きながら書いていたんだろうね。
先生って意地悪ね、知っててどうしたのって聞いたでしょう。
ごめんね。悪かったね。この子は勘も鋭いんだ、気を付けよう。言葉に表して謝り、心の中でも反省した。先生は、どんな本読んできたの?と、問い掛けられたので、太宰や漱石の受験生の必読書といえるような作品を列挙した。ふーんとうなずいたが、不満そうである。予期した通りにしか答えられないの?そんな顔であった。
少々癪だったので多少難解な作品を列挙した後、マンガやアニメも好きだよ、と付け足した。
ママもマンガは好きなんだよ。まひろは今、ママが読んでいたマンガを借りて読んでいるんだ、
少し懐かしい思いで教科書を読む傍ら、教え子の方に目をやると、国語の長文の問題文を読んでいる。芥川の杜子春のようである。教え子は全文を読み終え、目に涙を浮かべて設問に取り組み始めた。そうか、子を思う母の愛に感動しているんだ。