高級品の生産事情 | 銀座きものギャラリー泰三

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一度は袖を通したい着物がここにあります。きもの創作工房 (株)染の聚楽

先の写真のようなキモノを作るには1年以上の歳月がかかります。

加工中の在庫を仕掛在庫と言いますが、製造業全般で言えば製品在庫だけでなく仕掛在庫もできるだけ少なくすることが理想です。在庫で寝る金が少ないほうが良いのは常識です。


一頃有名だったトヨタの看板方式と言うのはまさにそれを狙った製造方式です。


しかし私の会社のもの作りは全く逆のことをしており、いつ出来上がるかさえわからないような長期にわたるもの作り(振袖の重い加工のものは優に2年以上)を親の代から続けて来ました。


こういう超回転の悪い殿様商売的な製造は、経営学的にはもっとも儲からないやり方です。

勿論できるだけの努力はしますが、手作りの高級品の製造で、仕事を急がせると確実に品質が落ちます。


もの作りの品質と経済的合理性を両立させるのはこの仕事では極めて難しい仕事で、一番頭が痛かったのは、もの作りが先行していくので非常にお金が必要だという事です。


販売してから入ってくる金はずっとあとになるので、銀行借入無くしてはやっていけないのです。

バブル期にとても良く売れた時期がありましたが、需要がたくさんあるので、当然増産しますが、そうすると余計に金が必要で、この頃の資金繰りは逆に大変でした。


それでも売れているときは良いのですが、売れると思って製造していたものが1年以上経って出来上がってきたときに市況が悪くなると大変です。


次々仕事は上がってくるのに、売り上げはそれに見合わないので、当然在庫が増えていきますし、加工賃の支払いは止まりませんから、資金繰りは多忙となります。当然冗費の削減に努めるなど、それなりの経営努力をするのは当然です。

一番難しいのは在庫が多いから減産はしても、完全に止めると、1年先には何も仕事が上がってきません。今度は必要だと思って作りはじめてもまた1年かかります。つまり苦しくても適度な量の生産は続けていかねばなりません。

良く売れているときはあれもこれも作れますが、そうでないとどんなものを作ればいいのかということが見えなくなってくるのです。

ですからやはり加工度の低い作りやすいもの、あまり金のかからないものづくりに走ります。

何を作って良いのかは正に消費者目線に立たなければできません。
普通のろくでもない流通う業者を使っていれば高級品は売れないと思ってしまって、ほとんど生産出来なくなります。


また現在の高級品の流通はほぼ全量委託販売、つまり小売店やデパートに貸しての商いということになっているので、作り手のリスクは余りにも大きく、その上とんでもないことですが不勉強な小売屋は自分で売れないから、作り手に来てもらって売ってもらっているありさまです。

私がアンテナショップを起ち上げた大きな理由は、余りにも拙劣で他

業界では考えられないほど程度の低い流通業者に見切りをつけ、より物を知り、キモノが好きで、伝統文化を知る私が前に出るほうが世のためになると思ったからに違いありません。

勿論論えり善さんのような真面目な流通先とは今でもお付き合いさせていただいております。

アンテナショップを開設したことで、高額であっても真の高級品への需要があることを確信しましたし、その中でどういうものを特に求められているのかと言うことも見えてきます。

本来専門店はそうした傾向を感じて仕入先や作り手に伝えるのが仕事です。


しかし現在では正に何でも売れればいいという状況となって自分の美意識を磨いている人に殆どお目にかかりません。


売手がそういう状況ですから、作り手も作り甲斐が無く勉強する者も本当に少なく物を知りません。


マーケティングやマーチャンダイジングも私に言わせると相当に間違っています。


若い連中は我々高齢者は成功体験に基づいてモノを言っているとバカにしていますが、確かに社会環境は違っても本物を求める嗜好は何ら変わることはありません。


良いものがそれなりにするのは誰もが理解しているのですから、それが手の届く範囲で求められたらと思っている人が殆どです。


そのためには流通を変えるしかありません。


あるいは作り手とともにリスクを張ってくれるしかいある流通業者と協同するしかありません。


ただ絶対忘れて行けないことは胸を張って良いものだといえる品質やセンスを有しているものづくりをすることなのです。


メーカーが勇気をもって、希望小売価格を設定することで飛んでもない不見識な業者を排除できますし、真に消費者目線の商いが構築できれば、本物の生産は維持可能かも知れません。


私は引退を65歳に設定していて、それなりの計画で縮小していましたが、全国的に良いものを置く小売店やデパートも少なく、地方から上物をお求めになる方が絶えません。


ですから世のためにも、もうじき67歳にもなりますが、お客さまの声が絶えるまではという覚悟でもう少し頑張りたいと思います。


私がいつまでやるかどうかはお客様次第です。

お誂えならまだ最高級品はギリギリ出来ます。


ここ数年がそうしたものの生産上のターニングポイントだろうと思っております。


長々とだらだらといつも言っているようなことを書き連ねましたが、正月に当たっての覚悟を改めて書いてみました。