今回は
TIL療法
(ティーアイエル)
の話です
自由診療でTIL療法を行っている
クリニックを検索したところ
数件しかありませんでした
前回のCTL療法の場合には
弱点が多く効果が弱いから
行っている施設が少ない
というお話をしましたが
TIL療法も同じ理由なのでしょうか?
TIL療法は日本語では
腫瘍浸潤T細胞療法
(しゅようしんじゅん)
と言います
腫瘍に浸潤??
なんじゃそりゃって思いませんか
TIL療法のやり方を見てみると
がんを手術で切除
↓
がんの周辺に存在している
(がんに浸潤している)
T細胞だけを採取する
↓
T細胞を大量に培養する
↓
体内に戻す
腫瘍浸潤の意味が分かりますね
がん(腫瘍)に浸潤しているT細胞
=がんとまさに今戦っているT細胞
これをうまく大量に培養できれば
非常に高い効果が期待できるはずです
2009年に発表された、TIL療法で
悪性黒色腫が劇的に改善した症例は
本当に衝撃的でした
がんと戦っている最中のT細胞を
体外で増やして戻すという
効率が良さそうなTIL療法ですが
普及しないのには理由があります
①TILの培養が技術的に難しい
TILの培養は非常に高度な技術を要し
世界で約10施設しか培養できない
と言われています
それくらい難しい培養技術なのに
自由診療で行われているTIL療法は
ちゃんとしたTILなのか…
②培養に大量の血清が必要である
TILの培養は非常にデリケートなので
余計な刺激を与えないようにするために
細胞を刺激するような薬剤は使えません
ではどうするかというと
他人の血液を大量に使って培養します
(がん患者から大量に採取するのは難しいので)
現在、先進医療として行われている
進行子宮頸がんに対するTIL療法では
ひとりのTIL療法を行うために
3人のボランティアの血液を使います
自由診療で行われているTIL療法は
他人の血液を使用することなく
細胞の刺激薬を入れているようです…
③制御性T細胞の問題
これは前回のCTLと同じ問題です
培養したTILをそのまま体内に戻しても
制御性T細胞によって働けなくなります
先進医療として行われている
進行子宮頸がんに対するTIL療法でも
事前に抗がん剤を大量に投与して
骨髄抑制を起こさせる必要があります
と、まあ、なかなかハードルが高く
まともにやろうとすると
自由診療向けの治療ではないですね…
でも、③に関してだけ言えば
抗がん剤投与後10-14日目くらいの
白血球減少のタイミングで行えば
同じような効果があるのかも…
ちなみに
腫瘍周辺に存在するT細胞(TIL)は
がんの治療成績にも関わっていて
トリプルネガティブ乳がんの場合は
TILが多く存在するほど予後が良い
ということが分かっています
がんが免疫細胞に見つからないよう
PD-L1などの隠れ簑を持っている場合
つまり免疫細胞から逃れている状態では
TILはほとんど見られません
TILがほとんど見られない場合には
TIL療法を行うのはなかなか難しく
何とかできたとしても効果は低い
であろうと考えられています
残念ながら現在の病理検査では
TILについてまでは調べてくれません
手術後にTILが豊富な症例だと分かれば
がんが免疫細胞から逃れる力が弱い
もしくはT細胞の攻撃力が高いので
免疫療法を行う根拠になるのですが…
やってくれないかな…
どうでも良い話ですが
先日近所の道路に表示があって
「W浅野」って書いてある!!