「…はい、初めまして。・・・、こちらこそ。」
と至極常識的なあいさつから始まり、店までの道順の説明をした後、
「了解! じゃ、私は、ユンホ君が来るまで、
ジェジュンが、かっさらわれないように、
重石のっけて見張っておくから、迎えにきてちょうだいな。」
と、機嫌よく言って、電話を切った。
「なぁ~~に、優しい感じの人じゃな~い。
丁寧だし、きちんとしてて、
こんな人、どこで見つけたのよ~!」
余計なことを言い出しはしないかと不安な顔をして
私とユノが話す様子を食い入るようにジッと見つめていたジェジュンに、
にやにやしながら冷やかすように言うと、
そんな冷やかしなど耳にも入らなかった様子で、
「そんなこといいから、ユノ、どうするって?!
迎えにくるって?」
カウンターから身を乗り出して
ユノの返事を聞きだそうとするジェジュン。
「今から、迎えに来るってぇ~~。」
「えーー!こんなところに!」
「ちょっと、失礼ね!
こんなところ、とは何よ!」
「だって、何度も夢見てうなされたくらいなのに…!
こんなとこに…、ユノが…、ユノが……、ああーーー」
* * *
ジェジュンは、ソワソワと落ち着かなくなった。
ユノが来るまでの間、しきりに自分の身なりや、顔が気になり、
何度もトイレに行っては鏡でおかしいところはないかと確認した。
ユノには「酔ってない」と言ったものの多少は酔っている自覚があるので、
なんだか自分の自己管理能力に自信が持てない。
さっきは、髭とか吹き出物が出てないかなと、顔はしっかり見た気がするけど、
服のよれよれ度とか見たっけ?と不安になった。
4度目のトイレに行こうとして立ち上がった時、
心配したチャルママに、「気分が悪いの?」と聞かれた。
「オレ、おかしくない?
酔っ払い顔でドロ~ンってしてない?
ちゃんとした顔してる?
崩れてない?
さっき見てきた時は、前より良くなってたから大丈夫と思ったけど、
やっぱり、もう1回確認してくる…。」
「ちょっと、ジェジュン!
あんた、そんなに彼にダラシナイとこ見られたくないの?
おかしいわよ、今までそんなことしたことないじゃない。」
「だから!
ユノは、違うんだって!
他の奴と一緒じゃないんだから!」
「もう、あんたって…。
どんだけ、そいつに夢中になってんのよ…。
…大丈夫よ。
顔も格好も崩れてないから。
落ち着いて座って待ってないさいよ。」
「だって…」
ジェジュンは、仕方なく言われるままに、おとなしくスツールに腰をおろすと、
ユノのことを思った。
だって、ユノには、
“酔っていてもジェジュンは、かわいい、”とか、
“酔うとなんか色っぽくってきれいだ”とか言われたい。(言ってくれるけど)
『ひどいな…』なんて言われて呆れられたりしたら、
ショックで、落ち込む…、いや…、死ぬ…。
ユノには秘密にしているけれど、
ヒゲが伸びてきたユノに、
『肌にあたるとチクチクするから、ヒゲはちゃんと剃れ』って、
じゃれ合いながらイヤイヤと首振って注意することはあるけど、
自分は、ユノに会う前やユノが目を覚ます前にきれいに剃っていた。
自分も男だからヒゲが伸びることは否定しない。
それに、ユノみたいに、ぐんぐん伸びる方でもないし。
だけど、自分がユノから『ヒゲ伸びてるよ。剃ったら』なんて、
指摘されたくない! 絶対!
そんなことを1人思いながら、
不安いっぱいの顔をして、チャルママの顔を見返せば、
チャルママは、ジェジュンの薄っすらと赤くなった頬を大きな両手で挟むと、
ゴリゴリと頬を揉んで目を覚まさせるように言い聞かせた。
「本当に、あのジェジュンなの?
酔ってても小生意気な子だったのに。
そりゃ、酔えば、良く笑うし愛想が良くなってかわいくはあったし、
ノリも良くなって付き合いやすくなる子じゃあったけど、
こんな、かわいいことを言い出す子だった~?!
『何してたの~?』なんて、聞いてるこっちが喉掻きむしりたくなるような
甘えた声出しちゃって、もう、びっくりよー!
近づく男に、「あっそ!」とか「ふ~ん。」とか、
つまらなさそうに突っ返して、高飛車な態度のあんたしか見たことなかったのに。
長生きはするものね~~。
こんな面白いもの見られる日が来ると思わなかったわ。」
「ああ~~!もう、うるさいな!」
チャルママの腕を払いのけると、
携帯をポケットから取り出し、電話をかけようと両手で握りしめた。
「もう1回、ユノに電話して、“迎えに来なくていい”って言おう!
こんな店、やっぱ、見せられない!」
「はあぁ↗。
ジェジュン、あんた、往生際が悪いわよ。
『こんな店』っていうのも聞き捨てならないし~!
携帯、没収!!
大人しく、そこで待ってなさい。」
「あっ!」
抗議する間もなく、ジェジュンの手から
すばやく携帯が取り上がられてしまった。
つづく