2010年9月、30代の男性患者さんが永眠された・・
患者さんとの出会いは亡くなる数か月前のこと
築地のがん専門病院に入院中に、家族が相談にみえた・・
もうすぐ治療が無くなる・・
治療をしないということはつまり「死」を意味する・・
何らかの治療をしたい・・
という相談だったようである
三好Drと話をし、退院したら是非こちらで治療をお願いしたい・・と帰られた
それから少し経ち、退院日が決まったので、その日にそのまま立ち寄りたいと
連絡があった
退院日、患者さんが若い妻と仲良しの姉と一緒に来院された
「はじめまして」とあいさつをし、話し合いの結果、治療開始を翌週と決め、
自宅に帰られた
私の患者さんの印象は、繊細で、クールで、とがっている
「ガラスのハート」であった
思うようにならない現実に苛立っていた・・
当院への通院は残念ながらそう多くはなかった・・
通院がままならなくなり
訪問医師と訪問看護師による在宅医療を開始した
そして妻・姉・父が交代で24時間の介護を行い
私たちはメンタルサポートの役割をしていた
片時も夫のそばを離れない妻を
姉と父がその身を案じていた
刻々と変化していく状態を目の当たりにし
「家族はなにもできない・・」と泣きながらの電話もあった
そして、その日が来た・・
在宅医、看護師から、その時はこうなるであろうと事前に聞いていた
その通りに時が流れた・・
家族だけで看取ったと・・
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それから数か月経ったころ、妻が突然来院された
相談室に案内すると
こらえていたものを吐き出すように
涙が後から後から溢れ出る・・
すみません・・といいながら涙が止まらない
たくさん泣いていった
そして、「また来ていいですか?」と帰って行った
その後、数か月ごとに数回来院された
たくさんたくさん泣いた・・
最後に来院したときに、
「義理の姉夫婦と一緒にカフェをはじめます
本当は夫の療養も兼ね、自然のいっぱいあるところにしたんですが
間に合わなくて・・」と、カフェの案内をいただいた
「都心から2時間くらい、ホタルが生息するところです・・是非来てください」と
お店で提供する「キッシュ」を差入れにいただいた
それからパタリと来院されなくなった
ときどきお店のホームページをみては、元気そうな姿を想像していた
そして6月・・「ホタルが飛んでいます」とお店のホームページで見た
「カフェに来てください」 「行くね・・」と言った約束をまだ果たしていないことが
ずっと引っかかっていた
彼が亡くなり、3年弱・・
そしてカフェをはじめて2年弱
カフェの扉を開けると、あの時たくさん泣いた妻が満面の笑み迎えてくれた
なぜか私たちは両手で握手をしていた・・
続いて姉も出迎えてくれた・・
遠いところよく来てくださいました・・と、素敵な笑顔・・
すてきなカフェに、おいしいお料理、ほっとする空間
椅子もテーブルも、クッションカバーもみんな手作りと・・
夫が亡くなった1年後にカフェオープン
手作りで大変だったけど、やることがあってホントに良かったです・・と
何より私がうれしかったのは
接客している妻の顔が、自信に満ちた顔になっていたことである
その顔になるまでに、時間はかかったと思う・・
約束を果たし、素敵な笑顔に出会え、ホタルの幻想的な光を見ることが出来
私の心はあたたかさで満たされた