連休のある日、新幹線に乗るために東京駅に向かった

多くの人が行き交う中、車いすの人にふと目がいった・・


「東京駅」「車いす」の2つのキーワードが

ある患者さんの出来事を急に思い出させたのである



その方は、新幹線で通院していた

呼吸が苦しくなり、地元の病院に入院したと聞いていた

通院の距離もあるために、私たちは「もう通院できないかしら・・」と

思っていた


数週間前に入れていった予約日当日

私たちは、だぶん来れない・・と思っていた


その日は夏の暑い日だった、奥様から電話があった

「新幹線のホームで息が苦しくなり、休みながら行くので遅くなる」と

予約時間より遅れて、その方がクリニックに到着した

携帯用の酸素ボンベを使用していても、肩で息をし

苦しさで顔はゆがみ、会話もできないほどであった


すぐさま、看護師がバイタルをとり、医師に緊急を告げる

医師は胸部レントゲンをとり、すぐに点滴の指示・・


点滴を開始すると、奥様だけを診察室によんだ、私も同席した

奥様は半分泣きながら話し出した

「どうしても、三好先生から今の状態を聞きたいといって

地元の病院を退院してきた

家族は、もう東京までいけないと思っていたが

本人が何が何でもというので、予約日の今日、新幹線にのった

新幹線の中で苦しくなり、もう少し、もう少しだからと言いながら来た」と


医師は、奥様に厳しい現状を告げた

奥様は、そうですよね・・と言葉をおいた


点滴が終わったら新幹線で帰り、駅からそのまま地元の病院に入院する

今日帰さなかったら、帰れなくなる・・三好医師の判断であった

三好医師が地元の医師に電話を入れ、了解を得た


点滴が終わり、少し呼吸も楽になったと、その方は話す

また調子よくなったら来ますと言う・・

先生や他のスタッフも、また退院したら来てね・・と見送った

これが最後かも・・・と皆特別な想いで見送った・・


看護師が東京駅まで同行することになった

銀座からタクシーで東京駅に行き、東京駅で車いすを借りて新幹線に乗る、

新幹線にのるまで、看護師が同行・・


約10分後、看護師から電話が入った

「東京駅の車いすが全て出はらっていてありません・・

 でも、苦しくて歩かせられません・・」と


何がなんでも帰さなければ・・という想いが私たちにはあった

私が車いすを持って、タクシーで東京駅に向かった

夏の暑い日、駅前ロータリーに近づくと、

炎天下の中、看護師がピンクの白衣のまま立っているのが見えた

眼が合った。その場でタクシーを下り、車いすを出した


その方は、涼しいタクシーの中で奥様と待っていた

私たちが車いすで向かうと、新幹線の指定時間まであまり時間がないという・・


急がねば・・


ピンクの白衣を着た看護師と私、そしてその方と奥様の計4人

車いすを看護師が押し、動揺している奥様に私が付き、東京駅を猛ダッシュ・・

新幹線の改札にいくまでに、階段が数段(3~4段)ある、

スロープを迂回していたら時間がない・・どうしよう~~


突然車いすに乗っていたその方が「歩きますか・・」と言って立ち上がった

苦しくて歩けなかった方が、歩くという・・

看護師が酸素ボンベを持ち、イチニーイチニーとでも言うような見事な二人三脚・・・

そのあとを私が車いすを抱え上げ、階段上でその方のお尻の下に滑り込ませる・・

突然の出来事、見事なチームワークに奥様茫然・・


新幹線改札はもうすぐ・・

ピンクの白衣を着たすごい形相の私たちが改札の人に

「患者さんを送っていきます。時間がないのでこのまま入らせて」と詰め寄ると

あっさり通してくれた


看護師が車いすを押しエスカレーターに乗る

         (すごい角度だ、腕がプルプルしている)

私が荷物を持つ、奥様が指定席を確認する

車いすから指定席にその方を移し、それまで使用していた院内酸素ボンベを

本人持参の携帯酸素ボンベに交換する、奥様に説明が終わったと同時に

発車のベル・・・先に車内から出た私が看護師に早く出るように合図する・・


看護師が車外に出てすぐ、扉が閉まった・・

窓越しにその方が笑っている・・隣席の奥様も泣き笑いしている・・

ありがとう・・と言っている

1時間20分このまま過ごせますように・・・手を振って別れた


東京駅での珍道中は何とか終わった・・

ホームに残されたのは、ピンクの白衣を着た汗びっしょりの私たち2人と

院内から持ち出した大きな黒い酸素ボンベと、乗る人の居ない車いす・・

タクシーでクリニックに帰ると、医師が「ご苦労様、どうだった」と・・


到着時間を見計らい、地元病院に連絡すると

無事にたどり着き、入院されましたと・・


その方は、数日後その病院で永眠された・・・


「東京駅」「車いす」の2つのキーワードが、あの日の出来事を思い出させた


奥様は元気かしら・・・