大阪生まれで大阪育ちの僕が
70年代に東京に出てきて
まず驚いたのは
ずっと東京に住んでいるひとは意外と
つんつんとしてなくて
気さくでおおらかなこと。

大阪にいた頃、東京に出て行って
戻ってきた仲間たちがみな
東京の人間は冷たいと語っていたのとは
全然ちがっていました。

ただそれでいて他の都市と大きくちがったのは
日本の中心なので
ファッションや音楽など海外からの情報が
あたりまえのように入ってきて
それが特別なことでなく手に入る場所。
だからがつがつしてないところが
うらやましかった。

僕が出会った佐野君や山下君、細野さんや
大貫さんや佐藤奈々子さんはみなそうだった。

BUZZの東郷昌和君も
東京生まれで東京育ち。

ひとなつっこくて飾らない
庶民的なひととなり。

六本木ヒルズや再開発で
東京が別の街に変わっていこうとしている今
サザエさんのような
お笑い三人組のような
こういった本来東京に住んでいたひとたちの
気持ちはどんどん消えていっちゃうのかなあ

彼の初のソロ・アルバムの制作に入る前に
こんなことを東郷君と話し合っていうち
アルバムを通して
ずっと東京に住んでいた人の
本来のかざらない素朴さ、
おっとりとした感じをアルバムに盛り込めないかと思いました。
その感じを仮に「東京テイスト」と名付けて。
東郷君ならうってつけのキャラクターのような気がしたのです。

その時点で東郷君は
小路幸也さんの
「東京バンドワゴン」を知らなかった。

そこで彼にすすめてみたところ
なんとすぐにゲットして読んでくれ
びっくりするほど気に入ってくれたのでした。

その後、一気にこのシリーズを読破。
それに空き足らず
現在出版されているすべての小路作品を
読み切ってしまうほどのはまりよう。

僕はといえば
小路さんとお友達なのにずぼらをして
全部読んでなかった。
スマンの涙です。

次の打ち合わせに彼の家に
行った時
東郷君の口から出た

「まいったよ。ケンとメリーが出てくるんだから。」

の一言にほんとに驚きました。

ネタバレになるからあまりふれないけど
「東京バンドワゴン」シリーズの
「フロム・ミー・トゥー・ユー」の
「研人とメリーの愛の歌」というチャプターに
なんと研人(けんと)とその友達の芽莉依(メリー)ちゃんが
登場人物で出てきているんです。

しかも研人君の父親の紺が二人に
「ケンとメリーって知ってる?」ってたずねる台詞まである。





小路さんが、70年代日本のフォークやロックに
影響を受けていた作家だとはすでにわかっていたけれど
なんというシンクロニシティー!
これを因縁といわずになにが因縁と呼べるでしょうか。
縁を大切にするナイアガラの一人としては
もう黙っていられない。

そこでかねてからの「夢」を実現させることにしたのです。

つづく