uncle-jamのミュージック・ファクトリーというと、中にはジャムおじさんのパン工場みたいなものを想像する人もいるかもしれない。黒沢君と僕がuncle-jamを立ち上げた頃に、ということは銀次さんがジャムおじさんで,黒沢君がバタコさんですね、といわれたことがあった。確かに年齢の感じではそうであっても、このユニットの名前は「アンパンマン」にちなんでつけられたものではない。いつかその名前の由来についてはゆっくりと話そう。ちょっとややこしいので。

uncle-jamのミュージック・ファクトリー、なんのことはない。それはギターを抱えた二人がまるで高校生のように、ああーでもないこーでもないと、アイデアを出し合いながら曲を形にして行く、シンプルで古典的な作曲行程のことを指すのであった。


昨今「プリプロ」といって、コンピューターを使って作曲するミュージシャンが多い中、僕たちは、uncle-jamにかぎってそのような作り方をあえてしない。
初期ビートルズのレノン&マッカートニーのような、アイデアのキャッチボールをベーシックとする、伝統的ソング・ライティングの形を踏襲している。

その場で唇にのせて口ずさみ歌いながら作るほうが、僕たちもリスナーも歌いたくなる歌ができるようなそんな気がするからである。

もちろんドラムやベースもプラスした最終型のデモテープまで仕上げる場合は、アレンジの一環としてコンピューターを使うが、純粋な曲作りの段階ではコンピュータは一切使わない。

かっては僕もプロ・トゥールズを操ってエンジニアまがいなことを毎日のように試していたこともあったが、今はそのこと自体にはあまり興味がなくなった。
逆にそこを通り過ぎてきたせいか、昔よりも数百倍、数千倍、ギターを弾くことや歌うことの喜びや大切さがわかったような気がする。やっぱ最後は人間力だろう。

曲作りのときの僕たちは、ちょっとしたレノン&マッカートニー気取り。
たぶんP. F.スローンとスティーヴ・バリも同じような気分で,数々の名曲を作ってきたのではないかと思う。



向かって左がバリ。右がスローン。すごくビートルズっぽい曲でしょう?



さて本題の「帽子」の歌のその後。
風知空知でひらめいたスケッチとアイデアを、勇んで僕たちのファクトリーに持ち込んだものの、なんと黒沢君からいきなり、「シャンソンは僕にはまったく未知の領域ですね。」の驚きのひとこと。そうか!まったく気づかなかったよ。
シャンソンやカンツォーネが日本で人気があったのは1960代のこと。1970年生まれの黒沢秀樹くんにはまったくの未体験ゾーンというわけだ。しかもロック誕生以前の音楽ジャンルでもある。ひらめきとは言え、とんでもないところに漂着してしまったものだ。黒沢君、スマンの涙です。
ここは責任を持って、僕がリードしていくのでどうかフォローよろしく。



シャンソンというよりフレンチ・ポップスだけど、このあたりなら黒沢君も聞いたことあるかも?


風知空知でのスケッチを起点にメロディがつぎつぎと紡ぎ出され、僕たちが「スクリーン・ジェイムス転調」と勝手に呼んでいる転調も入れながら構成を組み上げていくと、なんとなくつぎのような形になってきた。


A トゥルル トゥルル トゥルーール  トゥルル トゥルル トゥルーール
トゥルル トゥルル トゥルールール トゥルル Right from my heart

A' トゥルル トゥルル トゥルーール  トゥルル トゥルル トゥルーール
トゥルル トゥルル トゥルールール トゥルル Right from my heart

B ルー ルルル ルールールー   ルー ルルル ルールールー
ルー ルルル ルールールー   シャバダバ・ドゥビ シャバダバ・ドゥヴィ
シャバダバ ・ドゥヴィヤー

A'' トゥルル トゥルル トゥルーール  トゥルル トゥルル トゥルーール
トゥルル トゥルル トゥルールール トゥルル Right from my heart


昔からメロ先に曲を作るときは、こうしたスキャットやでたらめな英語で作ることが多かった。
何年も曲を作ってくるとわかってくることだが、その曲をその曲だと認知することができる一番の要因は、メロディーの上り下がりよりも、メロディ群がどんな位置にあって、どんなリズムの形をなしているかにあるように思う。

たとえばビートルズでいうなら「A Hard Day's Night」の♪タタタ ターン ターン ターン。この基本のメロの位置とかたちで,僕たちは「A Hard Day's Night」を唯一の曲として、知らずに認知しているように思う。
それに該当する「帽子」の歌のキモは、連続して現れる「トゥルル」だろう。少なくとも僕が知るかぎりで、こんなに連続して「トゥルル」が登場する曲にはお目にかかったことがない。
詞がついてないのに、この「トゥルル」の連呼が、この曲のアイデンティティーをすでに主張している。

なぜか「Right from my heart」のとこだけメロに英詞がついて出てきていた。これも無意識の領域の産物。詞のストーリー展開次第ではそのまま残って使われたりすることもあるが、さてこの「Right from my heart」の運命やいかに?

全体の構成は、いわゆる A - A" - B - A" という古典的ポップスの造り。
スキーター・デイヴィスのこの曲なんかもその典型である。





最近のJ-Popの主流であり定番は、もっぱら A - B - C という構成である。
C とはいわゆる「大サビ」。我田引水、身近な例でいうならば、シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」での♪DOWN TOWN へくりだそう の部分だ。
僕たちuncle-jamは、そのJ-Popの王道にこだわらないで、自由な発想で作ろうと決めてユニットを始めた。

もちろんCが絶対に必要なときにはCを登場させるけれど、AとBだけで行けちゃう場合はなるべくそれだけで行こうと。「 ... でなければならない」という固定観念から一度開放されてみようというのが,僕たちのモットーであった。
それが僕たちが大好きなパブ・ロックやビートルズの初期にあった「ボディーソニック」感を生み出すカギではないかと思うのだ。

Bメロの最後の「シャバダバ・ドゥビ」は、そこまで続いてきた3拍子の振り子のような気持ちよさを、いったん崩したくて意図的に入れてみたもの。フランシス・レイやイレブンPMのような、ダバダバダバの仲間である。





珍しく今回はイントロにもこだわった。椎名誠さん風に言うと、やっぱりシャンソンだかんな。
ジュリエット・グレコの「パリの空の下」で使われているようなアコーディオンの響きが聞こえてきて、どうしても入れたくなった。
だけど残念ながら黒沢君も僕もアコーディオンを弾けないし持ってもいない。
では、何かアコーディオンのように、切なくてロマンチックに音が伸びて、僕たちにも演奏できるものは他にないものか? そうだ!ハーモニカがあったじゃないか!


僕らのオリジナル曲「Heroes」で、いつもハーモニカをご披露してきた。
だがこれはブルース・スタイルの吹きかた。まるでサックスのようなブラス・セクションのような、荒々しい響き。今回の曲調には合わない。

アコーディオンのような雰囲気を出すとなると、ここはスティーヴィ・ワンダーやトゥーツ・シールマンズのようなエレガントな吹きかたしかない。作りかけてたメロのキーがBbで、探してみたら家にもBbのハーモニカがあった。ラッキー!! トゥーツ・シールマンズ・スタイルはかなりムズいけど、この方向で行くしかない。





それだけで済むと思ってたら、途中から半音転調することになったので、新たにBのハーモニカを渋谷のイケベ楽器に買いに行かなければならなくなった。しょうがない。曲のためならエンヤコラである。
結果、僕は「Heroes」でのAのハーモニカも入れると3本ものハーモニカを持って、風知空知入りすることになった。

いつも風知でuncle-jamを演るときは、ピックやカポなどの小物をおくために、僕の右側に台を用意してもらっている。いつもは余裕のよっちゃんのその台の上のスペースが、この日はいきなりハーモニカ過密地域と化してしまった。
しかもケースにちゃんと入れておかないと、どれがどのハーモニカだかわかんなくなってしまうので、要注意だった。なにしろ半音ずつちがうのでまちがえて吹くととんでもないことになる。


ハーモニカは入ったものの、残念なことに、当日までに詞は完成せず、全編スキャットでお届けするしかなかった。いやはや悔しい結果に。

ちゃんと詞曲そろった形で発表できなかった「いたらなさ」をカバーするつもりで、ときどき、藤村有弘さんのような、ハナモゲラ的でたらめフランス語を散りばめながら歌ったおかげか、思いのほか好評だったのが何よりだった。



「上を向いて歩こう」を、仏・伊・独・中、各国語で歌い分けています。もちろんでたらめ。天才です。


杉真理君も6日に見に来てくれて、この「なんちゃってシャンソン」をすごく気に入ってくれたみたいだ。6月10日の、uncle-jamとBOXの対バン・ライヴの楽屋で、「楽しみにしてますよ。早く完成させてくださいね」と、やんわりやさしく催促しながらエールを送ってくれた。


$伊藤銀次 オフィシャルブログ 「SUNDAY GINJI」 Powered by Ameba


さてさてどんな曲なのか? ここまで説明しても聞いたことがなければさっぱりわからないよね。
どんな曲か確かめたい方は、こちらでライヴCDをゲットしてどうかチェキラ !!

http://www.hoyhoy-records.com/


ハーモニカのおかげでなんとかカッコがついた、uncle-jamの「なんちゃってシャンソン」。
次回への期待を残しつつ、風知空知ライヴの場面は一転、ストレートなロックンロール・ナンバーの「僕たちのキャンドル」へと。
この曲も苦戦しながら「お題から作曲」コーナーで作ったもの。
あたりまえだが、もしこのコーナーをやってなければこの世に存在しなかった曲である。


05) Paris Hat (仮題 : 帽子の歌)

06) 僕たちのキャンドル
07) 5/5 : Burn ~ Highway Star
(ディプ・パープルのカバー・メドレー:Instrumental)  
5/6 :  Whole Lotta Love  ~ Purple Haze
(ツフェッペリン、ジミヘンのカバー・メドレー:Instrumental)  


今回の風知空知はなんとなく3部構成。1部の最後は、これまたuncle-jamの十八番、ロックの名曲のまさかのアンプラグド・インスト。両日来てくださってる方達へのサービスのつもりで、5日と6日で曲目を日替わりすることにした。

やっと本編に戻ったところで、つづく。