思いもよらぬ展開。「パリの屋根の下」と「パリの空の下」のお話。
ライヴ・レポからこういう寄り道になるとは ... 。書いてる僕ですら予期せぬ出来事。
しかも似たタイトルのシャンソンが2曲もあるという、ややこしいお話。
実はネットの中でも、ジュリエット・グレコのヴァージョンで紹介した「Sous le ciel de Paris」に対して、この両方の邦題がごっちゃに使われていたりして、あいまい模糊・ビーバー&オリーブ、どっちかゆうたら、どっちやねんな状態と化しているようなのだ。

これは、昔この両者が訳された時代とその経緯を知る人がだんだん少なくなってきているからにちがいない。僕はこの件に関して何の関係も責任もない「普通の男」なのだが、真実を知ってしまった行きがかり上、こうなったら、あらためてしっかりと両者のちがいを正しておかないと気がすまなくなってきた。

まず、マイナー(短調)で、アコーディオンに象徴される曲のほうが、「Sous le ciel de Paris」で「パリの空の下」。
メジャー(長調)で、同名の映画音楽の主題歌が、「Sous les toits de Paris」、
こちらが正真正銘の「パリの屋根の下」なのです。
ああ、すっきりした。どうかくれぐれもおまちがえなきよう!!



さて、前回の「サンデー銀次」を読んでくださった Facebookフレンド、音楽評論家の小川真一さんが、僕の「シャンソン三拍子説」に共感してくださっていて、それがなんともうれしかった。
そのお礼といっては何だが、実は僕の「シャンソン三拍子説」の背中を押してくれた曲がまだもう1曲あったというお話を!

それは少年時代に親に連れられて見に行った、「素晴らしき風船旅行」という、やっぱりフランス映画のテーマ曲だった。
もうずっと昔に見たので、どんなストーリーだったかはっきりとは覚えてはいない。
主人公が少年で、おじいさんと気球に乗ってなにやらアルプスを超えたり、気球が下降してきて羊たちが逃げまどうシーンなど、断片的なものしか記憶にないのだが、たぶんメロディーが僕とチャンネルが合ったのだろう。頭にこびりついてずっとその後も離れることがなかった。



3秒から32秒あたりに流れるメロディ。ずっと覚えていました。


あれは、1983年のアルバム「STARDUST SYMPHONY」の最後を飾る、「パパラプドゥ・ピピラプドゥ」という曲のサビ、「エンジェルが消してく、街の灯りを ... 。」の部分を考えていたときだった。ふっとその風船旅行のメロみたいなのがいいんじゃないかとひらめいた。

もともとAメロはCaptain Sensibleの「Happy Talk」みたいな、4拍を八分音符3個、3個、2個で分けてアクセントをつけるアレンジで考えていた。そのまま半拍を1拍とした3拍子のサビにして「素晴らしき風船旅行」へのオマージュにしようと思った。



1分8秒あたりからそのサビ。風船旅行から受け取ったバトンが形になりました。


こうしてみると僕は自分でも気づかぬうちに、イギリスやアメリカからだけではなく、フランスからもいっぱい影響を受けているようだ。
この流れで書いていくと、このままフランス映画、そして敬愛するミッシェル・ルグランなどのフランスの音楽にまで手を伸ばすことになり、そんなことをしていると、肝心のuncle-jamのライヴ・レポがちーとも前に進まないので、そのあたりについてはまた別の機会に話すことに。


小川さんが「パリの屋根の下」の日本語訳詞に、西條八十のヴァージョンがあることも教えてくださった。訳詞と聞くと、つい最近、全曲洋楽のカバーという稲垣潤一さんのニュー・アルバムのために「ロシアより愛をこめて」と「恋はリズムにのせて」の2曲を訳詞をさせてもらった僕としては興味津々。
おお、これだ。なんと純で切ないラブソングに。





どうも西條八十は、原語の歌詞を直訳せず、若き日のパリ留学のおりに共に過ごした、若い日本人女性の画家との愛の思い出を、その訳詞の中に詠みこんだようだ。
きっと「パリの屋根の下」といえば彼にはその世界しか見えなかったにちがいない。
「帽子」のテーマから導きだされた詞の世界は、八十のものとはまったく異なるものになりそうだけど、uncle-jamなりに、この伝統的なロマンティシズムは受け継いでいきたいものだと思う。
話は思いもよらず「帽子」からパリ、パリからシャンソン、そして西条八十にまでつながってきた。



はじめに連想した「パリの屋根の下」だと思いこんでいた「パリの空の下」のメロディは、アコーディオンの哀愁感を伴った、マイナー・コード(短調)。
「帽子」の歌は、もう少し軽ろやかなラブソングにしたかった。
もう少しあとの時代の、フランシス・レイみたいなメジャー・コード(長調)で、思いつくままに歌ったスケッチをその叩き台として、uncle-jamのミュージック・ファクトリーへ持ち込むことにした。

次回、帽子の歌編・最終回へとつづく ... 。