ちょっと苦しいか、さすがに~。
今日のタイトル、「去年マリエンバードで」にかけたつもりだったのだが ... 。





おお、このシーン憶えてるよ。むかしむかし中野武蔵野館に、この映画と「彼女について知ってる2、3の事柄」とゴダールの「気狂いピエロ」の3本立てを見に行って、頭の中が迷路に迷い込んだまましばらく現世に戻って来れなかったことがあるのを。今度は1本ずつちゃんと見たいものだ。

一昨日は南青山マンダラで黒沢秀樹君、石田ショ-キチ君、藤井丈司君によるジョイント・ライヴがあった。これがなかなか言葉にいいつくせない、独特のおもむきのおもしろいライヴだった。

たとえるなら、大学の部活のOB会。これは主に藤井君が、ショーキチ君の在籍したスパイラル・ライフのプロデューサーだったということから醸し出てくるもので、とはいえ師弟関係というよりは、先輩・後輩的。
先輩お願いします、ああこちらこそお手柔らかにな、押忍、という会話が聞こえてくるような正しく体育会系な部室に、ひとり文科系の黒沢君がまぎれこんできたような、まるで青春学園ドラマをみているようなライヴだった。

まずとっぱしは藤井君からのライヴ。ああこちらこそお手柔らかになとほんとに言ったかどうかは定かではないが、いきなり持ち時間40分を20分もオーバーする、先輩ならではの門限破り。
そのあと後輩たちが先輩それはないっすよと心に思いつつも、きちんと体育会的ルールを遵守し、ぐっと寡黙に、実に大人になって時間を取り戻しにかかっていたのがなんとも微笑ましい光景だった。

ショーキチ君と黒沢君はギター1本でのシンガーソングライターらしい弾き語り。
藤井君のライヴは、あらかじめ録音してあったオケとピアニストのロケット松ちゃんとのライヴ。
シンガー・ソングライターというよりプローデューサー的な側面を全面に押し出した内容で、まるで音楽バラエティ番組のような面白さであった。こんなことを今頃言っても後の祭りだが、藤井君がトリでもよかったのではと思う。

ショーキチ君はあいかわらず、破れ傘刀舟か拝一刀のように「てめえらぶったぎってやる」とばかり、バッサバッサと曲を切り倒して行くさまが、実にいさぎよく歯切れよく心地よい。
ライヴ・タイトルが黒沢明さんの「隠し砦の三悪人」からとったものだからというわけでもないのだろうが、ことさらこの日はいちだんとバッサバッサと切りまくる。このいきおい。That's ショーキチ。
愛と情熱でぐいぐい押して来るね。



おお、これはどう見てもスターウォーズだ。


汗臭い部室にまぎれこんだ文科系の黒沢君。ここんところ失われたアーティストとしての時間を取り戻すかのように、連日ライヴを敢行。その成果がでてきたのであろうか、この日の歌にはみちがえるものがあって、うれしい驚きだった。
もともと天性の美声の持ち主なのに、どこかその場にそっとおいておくのでよかったらどうぞ的な遠慮深さが惜しいなと思っていた。

ところがどうだ、この日は彼の声、彼の歌が彼の肉体から羽ばたいて出て、その場をすっかり支配していたではないか。黒沢秀樹の存在がいつもより3歩前に出てきたような感じ。
これだこれ、黒沢君。頼むからそのまま一歩も下がらないでくれよな。むしろもっと前に出てきてもいいくらい。
その「華」のある場所こそがほんとの君のいるべき場所なんだから。ずんずん前に出てきてくれよ。

くれぐれもかんちがいしないでほしい。
これはけっして、ベテランをいいことにした「上から目線」の発言ではない。あえていうなら「叔父から目線」とか、年の離れた「兄から目線」のようなものだと思っていただければ ... 。

三人三様のバラエティあふれるライヴ、なんとかマキながら、最後は3人揃ってのアンコール。
なんとナイアガラの曲をやろうということで、ショーキチ君が聖子ちゃんの「「風立ちぬ」、藤井君が「君は天然色」という王道のカバーで来たかと思うと、黒沢君が選んだのはなんとしぶーく「こぬか雨」。

おいおい、それはナイアガラでも知るひとぞ知る曲。僕に気を使わなくていいから、ここはばーっと華のあるところで「恋するカレン」でも豪快に歌ってくれてもよかったのに。
なんとも義理堅いんだから ... なーんて思いつつも、内心Thank Youだったりして。
しかもこれがなかなか声と合っていた。

予告なしで自分の曲を歌われるだけでも、気持ちがゆらゆらしてくるのに、それがよかったもんだから、今度は「叔父から目線」とか「兄から目線」を通り越して、参観日で自分の子供があてられて正解を出したときの「父親」のような気分になってしまったよ。

藤井丈司君とはひさしぶりの再会。初めてお仕事したのは1985年のバブルガム・ブラザースの1stアルバム。タイトル曲の「Soul Spirit Part II」をのぞく全曲のドラムのプログラミングとシンセサイザーのマニピュレートをしていただいた。

「Soul Spirit Part II」は、ブラザー・コンと佐野元春が同級生だったことから実現した曲。まだ新宿ルイードに出ていた頃、よくコンちゃんはお菓子の差し入れとか持って遊びにきてくれていた。
その頃は当然バブルガム・ブラザースは存在してなくて、コンちゃんはコメディアンとして、あのねのねの番組とかに出ていた。その時点ではまさか、警官コントをやっていた小柳トムさんと、ブルース・ブラザースみたいなユニットを組み、しかも木崎賢治さんプロデュースで僕がアレンジをすることになるとは思いもしなかった。





「Soul Spirit Part II」は佐野君のデモテープにあった「Soul Man」の香りを、僕がアレンジでさらに強調したソウル・オマージュ。特にリズム・ギターのパターンは大好きなスティーヴ・クロッパーみたいにしたかった。

1985年の佐野君のビジターズ・ツアー・スペシャルで、バブルと僕がゲストでいっしょにまわったときに、この曲をいっしょにやったが、このパフォーマンスが実におもしろかった。

佐野君の紹介でステージに上がったバブルの二人が歌い終わってもステージをなかなか降りず、逆にステージを占拠しようとするのを、僕も入って止めようとするがはじき飛ばされる。
そうしているうちに、バブルの二人が佐野君をステージの端まで脅しながら追いつめていく。それに合わせてバックのサウンドが小さくなって行くのもおかしい。

負けじと彼らを追い返す佐野元春。だんだん音も大きくなって行くという顛末がおかしかった。
もちろんショーである。だけどお客さんたちは大喜び。これぞまさしくロックショー。
That's entertainment。こういうの大好きである。

この模様がYouTubeに上がっていたが残念ながら「リクエストによる埋め込み無効」となっていた。
これおもしろいから、興味あるひとはぜひともこちらをチェッキラ。


http://www.youtube.com/watch?v=ESuMWex4KnQ


バブルガム・ブラザースのデビュー当時は和製ブルース・ブラザースというのを売りにしていたので、
もともとソウルを想定せずに書かれたメロディでもそれをどうやってR&Bやソウル・ミュージックの香りをさせるかというのが僕の腕前のみせどころだった。

「下心もいとしさで」という曲は、ひらめいてアル・グリーンの「Let's Stay Together」でおなじみのハイリズムみたいなドラムで行こうと、藤井君にリン・ドラムのプログラムをお願いした。





いちおうのドラムの基本パターンが決まった。フェイドアウトにするつもりだったので、長さを多い目に作っておいてもらって、それに合わせて長岡道夫さんのベースと土方隆行君のギター、国吉さんのキーボードを同録することになった。仮歌は僕が。どうせ仮歌、あとで入れ直すので、調整卓の前で歌うことに。エンジニアや藤井君に近いので途中で指示を出すこともできるからね。

メロディにはあまりソウルの匂いはなかったのに、ドンドコドンドコというハイ・リズムのマジックで、今まで聞いたことのないジャパニーズ・ソウル・ミュージックが生まれつつあった。

事件はコーダに入ったときに起こった。
打ち込みのドラムがいきなりオカズを入れたのである。そんな馬鹿な。しかも続いてハイハットの裏打ちが 、スッチースッチー... 。

いったい何がおこったのだ? ふっと藤井君を見やると、ゲッ、踊りながら、鍵盤を叩いて、リアルタイムでオカズを入れているではないか。オーマイゴー。アンビリーバブルだ。

録音が終っても興奮がおさまらず、「すごいね。こんなの初めてだよ。」と賞賛すると、「いやー、ハイ・レコード大好きなもんで...。」
あんなファンキーなマニピュレーターは初めてだったし、それからも彼みたいなプログラマーには二度とお目にかかれなかった。

その後も何度かお世話になることがあったが、しばらく会う機会がなかった。
なにやらライヴを始めたということは風の便りに僕の耳にも届いていた。

一昨日、彼のライヴを生まれて初めて見たのにちっとも初めての感じがしなかったのは、あの日の藤井君を体験していたからだろう。そのときとちっとも変っていない、明るく音楽が大好きな藤井君のファンキーさの健在ぶりに、僕もしっかり元気をもらった。