ネットでなんでもモノが買える時代だと言うのに、僕はあいかわらずレコード屋さんへ行くのが好きだ。このことは、前にも「サンデー銀次」に書いた記憶がある。大好きなものがいっぱいあるところにいる、それだけでなんとも心地よいのだ。いまはレコード屋さんと言わず、CD屋さんというべきか ... 。

昨日、東芝EMIイヤーズの僕のアルバム・5タイトルのレコ発インストア・イベントが開かれた、渋谷のタワーレコードは、いまだに僕が定期的にのぞきに来るCD屋さんである。

1階から7階まである渋谷のタワーレコードのフロアの中で、僕がよくCDハンティングするのは、洋楽POP/ROCKの3階と、5階のJAZZ/BLUES/COUNTRYのフロアである。
近年はだんだん5階にいることが多くなった。若い時からジャズやカントリー、ブルーグラスとかは嫌いじゃなかったが、近年自分のポップスやロックと、それらの音楽がどういう関係にあるのかが見えてきてから、ますます積極的に聴くようになったからである。

このフロアにいると時が経つのを忘れてしまう。ロックのフロアに比べると、かかっている音楽のせいで、すっかり和んでしまうからだ。そこにいる間にかかるステキな音楽との出会いもまた楽しい。
ステーシー・ケントのアルバム「Breakfast on the Morning Tram」はこの5階でかかっていて、すっかり気に入って購入したもの。おや、これはフリートウッド.マックの「Landslide」? いったい誰がカバーしてるんだと、店内のモニター画面を見るとこのジャケットが。
即買いしてしまった。これは当たりでラッキーだった。


Breakfast on the Morning Tram/Stacey Kent

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超オススメです。






そんな、僕にとっては庭のようなくつろぎの空間、タワーレコード渋谷店の5階で、昨日、東芝EMIイヤーズのアルバム・5タイトルのレコ発インストア・イベントが開かれた。



イベントは午後3時からのスタート。まず、今回のリマスターの大発起人であり、大推進者であり、大恩人の、FLY HIGH RECORDS土橋一夫さんと二人で、5階フロアに臨時に設えられた特設ステージに上がると拍手が。おお、ぼくが思っていたよりも多くのお客さんが集まってくれているじゃないか。足下が悪いこんな日に ... 。ありがたいことだ。うれしいねえ。

まず二人軽くを挨拶をしてから、リマスター作業の裏話などを披露した。
ミックスやマスタリングというのは一般の方にはなかなかわかりにくいもの。説明するのもなかなかむずかしい。
そのあたり心得たりと、土橋さんがマスター・テープやサブ・マスター・テープなどの写真を使ってじょうずに説明してくださった。ナヴィゲーターが実にしっかりしていたので、
僕は僕の役割に徹して(?)ときどきチャチャを入れたり、笑いをとったりで、なごやかに時間は過ぎた。

続いていよいよアコギの弾き語りによるミニ・ライヴ。それがいやはや何とも不思議な感じ。
このフロアに来るとどうもお客さんになってCDを見たくなってしまう、くつろぎ銀ちゃんがむくむくと頭をもたげて来る。そいつをエレベーターのほうにけりとばして、きりりと姿勢をただすと、ライヴ・モードの伊藤銀次をしっかりと立ち上げてから、おもむろに演奏に臨んだのであった。

いちおう30分の所要時間をいただいていたのだけれど、せっかくCDを買ってくださって、忙しい中を見にきていただいているのだから、なるべく少しでも多くの曲を聞いていただきたいと、少し多いめに用意してきた。

30分だから、おしゃべりも含めると歌えるのは5曲くらいかなと、予備も入れて用意してきた7曲。結局その7曲全部歌ってしまった。いわゆるノッてしまったわけなのよね。
もちろんそのぶん、いつもよりトークは短めにしたつもりだったけれど、それでもちょっち時間オーヴァーだったかも。スマンの涙です。
セットリストは次のとおりです。


01) Heart Of Garden ( from NATURE BOY )
02) 想い出は止まらない( from 山羊座の魂 )
03) This Love ( from NATURE BOY )
04) Monday Monday ( from DREAM ARABESQUE )
05) ティナ( from GET HAPPY )
06) Wild Dreamer ( from HYPER/HYPER )
07) 7月のオーロラ( from GET HAPPY )


東芝EMIイヤーズの曲達は、2008年から始めたアコギ弾き語りスタイルのライヴでは、ポリスター時代の曲に比べると、とり上げる回数が少なく、まだ十分に体に浸透していないから、僕にはけっこう緊張感のある演奏になった。長いツアーに例えると、何度も経験したあの初日のスリルみたいなヤツ。

まして、アレンジが長年懸案でオキッパになっていた「想い出は止まらない」は、一昨日突然ひらめいて、カポタストの位置とアレンジが決まって、突然やることに決めた曲。なかなか思っていたアレンジどおりに指が動いてくれなかった。しかたなくとっさの判断で、イージー・ヴァージョンに切り替えて、事なきを得た。2009年の場数が僕を逞(たくま)しくしてくれたようだ。
悩んだけれどやっぱり選曲しておいてよかった。歌う前に曲のタイトルを言ったら、手を叩いて歓迎の意を示してくださったお客さんがいらっしゃったからだ。
感触はよし。これを励みに、来年早々に予定しているソロ・ライヴまでには仕込みをしっかりやっておかねば。





なかなかはじまらない秘話。申し訳ないので、先行しておまけのエピソードを。
「想い出は止まらない」はThe The のこの曲を聴いていたらひらめいた曲。だけどメロディーの方向はまったくちがう。僕を刺激したのは曲中のハーモニカだった。このときThe Theのメンバーだったジョニー・マーが吹いてたものだ。
こんなテンポ感で、こんなハーモニカが聞こえてくる曲をやってみたいと思ったのがきっかけだった。
そのままイントロを考えていたら、なんとブレッドみたいなのが出てきた。





ちょっち脱線。それでは Back to タワレコ渋谷5th Floor。
「Monday Monday」のDADGADチューニングなど小技を交えながら、最後は「7月のオーロラ」。やっぱりこれはライヴの最後にはぴったしの曲。間奏に、思わず想定外のアドリブのスキャットが飛び出したのには自分でも驚いた。このフロアに住むジャズの魂がさせた業だろうか?

曲はポップスだけど、弾き語りのときはそのときの気分で長さがちがったり、その時の思いつきでいろんなエンディングになったりと、ヴァージョンが毎回ちがう。どうもぼくの中にはジャズの心がいるようだ。

体から自然に出てくるものを佐野元春は「スポンティニアス」なものと表現して、とても大切にしていた。
自分の表層にある常識や方程式ではなく、無意識が叫んでいるもの、その無意識がさせるものの中にこそ音楽の真実があるのだと僕も思う。

この日の「7月のオーロラ」タワ渋5階ヴァージョンでの、「スポンティニアス」なスキャットの出現で、弾き語りによる「7月のオーロラ」の、今後の進化がぐっと楽しみになってきた。



ライヴ後はサイン会。購入されたCDにサインを入れながら、みなさんとお話ができる貴重な時間。
この「サンデー銀次」の読者のももんがさんや付和雷蔵さん、タルビーさん、ta-chanさんたちもかけつけて盛り上げてくださった。いつも文章でしかお会いすることがないみなさんと直にお話できてとても新鮮で楽しかった。
なんとこのイベントのために、遠く熊本から来てくださった方もおられた。ほんとうにありがとう。
感激でした。

もうひとつうれしかったのは、80年代に「伊藤銀次のコークサウンドシャッフル」の月一収録のために、FM大阪に行くと、いつも会いに来てくださっていた「かしまし6人娘」のお一人で、「サンデー銀次」の読者、♪陽子☆さんのお仲間だったMagaちゃんが尋ねてきてくださったことだ。すっかり大人になっちゃって。しばらく見なかったけれど元気そうでなにより。
Wヨーコさんのお話をしたら、とても懐かしそうに喜んでおられた。この辺りのお話は、7月1日号 「ヒートアップ西宮」を参照のこと。お忙しい中ありがとう、堂島ロール、ゴチでした。

そしてタワーレコードのスタッフのみなさん、ヴィヴィッド・サウンドのスタッフのみなさん、土橋さん、インストア・イベントを組んでいただきありがとうございました。とても温かいすてきな時間をファンのみなさんと過ごすことができました。

最後にもひとつうれしいことが。
サイン会のときの一人の男性の言葉にとても感銘を受けてしまった。
80年代当時、オリジナルの東芝EMIイヤーズの作品達が発売された時には、ポリスター時代のほうが絶対いいと思っていたのに、今回のリマスター盤を聴いたらその意見が180度変ってしまったそうだ。
チカラ強い口調で、圧倒的にこっちのほうがいいと思いましたと言ってくださった。
きっと僕が大人になったからでしょうねともおっしゃっていた。

うれしい。これだけでもう、今回のリマスタリングの意味があったような気がじゅうぶんにした。
よかったなあ、「GET HAPPY」よ、「NATURE BOY」よ、「HYPER/HYPER」よ、「DREAM ARABESQUE」よ、「山羊座の魂」よ。これで僕もはりきって「秘話」を再開できるってぇーものさ。