うーん、暑い。まるでインドにいるようだ。昨日の渋谷は、インドには一度も行ったことがない僕ですら、そう確信してしまう、それほどの暑さだったよ。



脳味噌までとろけそうな暑い日にはかえって、スパイシーなカレーでも食べながら聴きたい曲です。


歩きながら「インドには行ったことが、なインドすか?」なんて舞妓さんみたいなひとりツッコミを入れているうちに、目指すシャイ・グランスのあるビルについた。

シャイグランスは土橋一夫さんの事務所。以前は原宿にあったオフィスが渋谷に越してきて、新オフィスへ伺うのは昨日が初めてだった。
ビルの3階のフロアに8つのオフィスが入った寄り合い所帯。サエキけんぞう君のパールネット、元パイド・パイパー・ハウスの岩永さんのクロスフィット、笹塚のテイクワンに居候していた頃お世話になった音楽評論家の前田祥丈さんのエンサイクロメディアなどが同じフロアだと聞いていた。
あいにくサエキ君は食事に出ていたが、岩永さんや前田さんにはほんとに久しぶりの再会。みなさんちっとも変わりなくてうれしくなった。互いの元気は互いを元気にする。曲作りから風知空知ライヴに至る行程でのたまっている疲れが少しとれたような気がした。

いろんなことがあって伸びに伸びていた、僕の東芝EMI時代の5枚のアルバムがやっと紙ジャケ&リマスター、そしてボーナス・トラックつきで、ヴィヴィッドサウンドのFLY HIGH RECORDSからリイシューされることが決まり、この日はボーナス・トラックの選曲と、再発にあたってのインタビューの日であった。おー、いよいよ始まるよ。

土橋さんは、僕のポリスター・イヤーズ、ワーナーでのソロ・デビュー・アルバム「Deadly Drive」の再発を企画し制作を進行してくださったかただ。
あれは大雨の中開かれた2006年10月1日鴬谷キネマ倶楽部での、堂島孝平君とシネマのライヴのときだった。入り口でお会いしたときに、ちょうどその頃杉真理君のリマスターをなさっていたので、それを話題にしたところ、傘をたたみながら、「銀次さんも出しません?」の土橋さんの一言がすべての始まりだった。
そこから4年、EMIイヤーズの作品たちが再発されると、これで僕のすべての作品が21世紀に蘇ることになる。実にアーティスト冥利につきること。
しかもただの再発ではなく、デザインや資料的なものも徹底した作り込み。まるで「ひとりライノ・レーベル」のような、土橋さんにはひたすら感謝感謝なのである。

今回再発されるのは次の5タイトルである。

01) Get Happy (1986)
02) Nature Boy (1987)
03) Hyper/Hyper (1988)
04) Dream Arabesque (1989)
05) 山羊座の魂 (1990)

僕は性格的にテイクは1通りのきめうち。アウトテイクを作らない人なので、別テイクはない。
ボーナス・トラックはライヴ・テイクから、土橋さんがあらかじめ音や演奏のクオリティーで絞り込んでおいてくれたDVDを見ながら選んだ。

うれしいことに、この時期はポリスター時代よりも多くのライヴ・ヴィデオが残っている。僕の手元にあった新宿パワーステーションや、日比谷野音でのライヴなどのVHSから、土橋さんがDVDにアーカイブ化してくださった。自分で持っていたのに、あの時はこんなアレンジだったんだとか、懐かしいものを見るというよりも、何か新しいものに出会うようで新鮮だった。その当時はカッコいいと思っていたことがそうでもなかったり、何気なくやっていたことが、実に斬新だったり、時はいつも魔法使いである。

覚えていたつもりでも、ふだんはいつも「今」を生きているから、すっかり記憶の箱に収納したままになっていた、思いもよらぬいくつかの事実に再びふれることができた。

この時期の銀次バンドはギタリストの変遷が激しい。まず柴山好正さん。あのエキゾティクスの柴山和彦君のお兄さん。そして沼田年則君に代わり、元タックス・フリーの中川進君と引き継がれて行った。



タックスフリーの映像は残念ながら見つからず。その代わり、中川君が沢田研二さんにとてもステキな曲を書いていたことを発見しました。うーん、進ちゃんらしい曲だ。


沼田年則君にはなじみがない人も多いかもしれないが、なんとその後、杉本彩さんと結婚したギタリストということでかなり世間を騒がせた。見た感じ清原選手のようなスポーツマンぽいのに、エドワード・ヴァン・ヘイレン並みのギター・テクニックの持ち主だった。この当時のレビュラー・メンバー、熊倉君 (Drs )とコイさん(Bass)の紹介でメンバーになってもらったのだ。

僕のツアー・バンドの最後のギタリストは意外にも、フェビアンの古賀森男君だったのだが、残念ながらライヴ音源は残っていなかった。





ちょうどこの時期、イギリスのディーコン・ブルーやプリファブ・スプラウトなど、バンドにひとり女性が入っているのがトレンドだった。それがカッコよくて、ちょうど「Dream Arabesque」で金子飛鳥さんのヴァイオリンをフューチャーした「Monday Monday」や「悲しみのグリーングラス」をレコーディングしたあとだったので、「女性でヴァイオリン奏者」をメンバーに入れたくなった。
当時のマネージャーだった永田恵介君がみつけてきてくれたのが、柿原朱実さん。
その後akaという名でニューヨークに在住して活躍している。

さながら、ボートラは、それぞれの音楽の旅路の途中ですれちがった交差点のようで、これを収録することは、本来の「レコード」(記録)という意味が出てきて、意義深いものになりそうだ。

こういったエピソードに加えて、なるべくオリジナルのスタジオ版とアレンジや雰囲気がちがっている演奏を中心に選ぶことにした。そのほうがよりボートラ的かと。

インタビューまで含めると6時間近く,実に濃密な打ち合せだった。それだけ時間をかけただけあって、実にいいセレクトができて満足だ。マスタリング自体は8月23日から始まる。


途中、サエキけんぞう君がわざわざ挨拶に寄ってくれた。彼は「山羊座の魂」で「彼女にヒプノタイズ」という曲の詞を書いてくれた。ああ見えて(?)実に決め細やかな人で、時間をおいてその後にも、もうそろそろ終わった頃だろうと、フルーツゼリーの差し入れを持ってきてくださったけれど、あいにくまだまだインタビューが続いていた。ゆっくりお話ができなくて申し訳ありませんでした。
ありがとう。フルーツゼリ-おいしかったです。