アルバム「G. S. I Love You」のために曲を依頼された佐野元春は、ザ・タイガースの代表作を聞き込んで、曲作りに臨んだと、当時語ってくれた。
荒々しいライヴ・パーフォーマンスからは想像できなかった、実にクールなアプローチだと感じた。きちんとジュリーとは何かを佐野君なりにデータ化してから、曲を書き始めたのだった。
そのとき「ファンの人たちにとってジュリーは永遠の王子さまなんだ。」というようなことを語っていた。

いっぽうで沢田研二さんのロック性を高める「彼女はデリケート」を書きおろしつつ、もういっぽうでは、タイガース時代の「僕のマリー」や「モナリザの微笑み」などの、甘くやるせないロマンチシズムを、80年代に受け継ぐ、「I'm In Blue」を書いているのである。





ミック・ジャガーというよりジョン・レノンが歌うと似合うような曲調。今までの沢田さんのレパートリーにはなかった曲だが、はじめて聞いたときから何の違和感もなくジュリーだった。
沢田さんの十八番の、甘くやるせない色気をさわやかに引き出している
「かまわないさ 好きにさせて」のくだりの、メロと詞のかみ合いかたが、いかにもジュリーの歌だなという感じがする。
このアルバムでは佐野君だけがただひとり詞曲両方を書いていた。あきらかに異色のタッチで、そのおかげで彼の曲は異彩を放つことができた。





G. S. I Love Youの編曲を引き受けてから、僕は佐野君とは逆に、タイガースなどのGSや、ビートルズやストーンズなどの60年代のブリティッシュ・バンドのレコードをあえて聞かないようにした。
それらは僕がリアルタイムでその時代に生々しく体験した音楽。僕の頭の中にずっと残像として残っている。それをさらに強調してしまわないように、ポリスやクラッシュやXTCなどを浴びるように聴いて、モダンなロック・スピリットを高めるように心掛けていた。


「I'm In Blue」のイントロは、佐野君のデモテープを聞いていて、頭の中に鳴ったものだ。
そのときはそれが何から来ていたのかわからなかったが、のちにそれがビートルズの「Anytime At All」
から由来するものだと気づいた。まさに残像の効果だ。





それに比べると「ヴァニティー・ファクトリー」のアレンジはかなり意図的。コンセプシャルな狙いによるものだった。
もともと佐野君のデモテープではエレキ・ピアノのバッキングによるビリー・ジョエルのようなフィール。
そのキーボード・サウンド特有のAORな響きをギター・サウンドに変えて、今回のコンセプトにどうフィットさせるのかが僕のテーマだった。

加瀬さんが「NOISE」で試みられたストーンズへのアプローチを、僕もベースランで試みた。
それを「彼女はデリケート」の時のような、曲全体をリードしながら歌メロを支えるバックリフにして、GSが持っていたストーンズ願望の証とすることにした。





たぶんロック・ファンならすぐにおわかったことだろう。むしろ多くの人にわかってほしかった。ザ・タイガースがどれほどストーンズに憧れたかということを。


ほんとうはAメロのコード展開、Am-F-G-Am にしたほうが、自然に曲になだれ込めるのだが、細かいフレージングになって印象が弱くなるので、Am-Am-G-G にした。元にしたストーンズがもろに8ビートで躍動感に乏しいので、フレージングの中に16ビートを織り交ぜ、「隠れ16ビート」にした。
建さんがウィリー・ウィークス並みの冴えたプレイで、僕の狙いを見事に実現してくれた。


うれしいことに、沢田さんはその後も佐野君の曲を気に入られて歌っておられるようだ。
佐野君にとって沢田さんへの楽曲提供が、アルバム「SOMEDAY」に向かって飛ぶための強力なカタパルトとなったように、沢田さんにとっても、佐野君との出会いが、ジュリー80年代への再起動に大きな役割を果たしたのではないかと思う。

「G. S. I Love You」秘話も、しだいにエンディングへと近づいてきた。
いつのまにかこの話は、同時に「佐野元春外伝」となっているようだ。

ウーム、毎回濃くて濃くてさすがの僕も疲れてきたが、まだ話していないことがある。
次回は僕のことをちょっと、そして最終回は沢田さんの書かれた曲について話そうと思う。


     もうちょっとつづく