佐野君の他の2曲についてはまた終盤で語るとして、少しちがう角度からお話を進めよう。
なに?ひっぱり過ぎだって? いやいや、お楽しみはまーだまだあるから、急ぐことなくゆっくり行こう。



言うまでもなくこれがオリジナル。ポールがリトル・リチャードを得意としたように、ラリー・ウィリアムズはジョンの十八番だった。スペシャリティーの二大シャウターを二人で分け持っていた。



僕のギター弾き語りツアー「I Stand Alone」をごらんになったかたで、ギターに心得のあるかたならきっと、僕が独特の押さえかたをしていることに気づかれたかも知れない。

開放弦を使わないFの押さえかた。ふつうは左手の人差し指で6本の弦を全部べたっと押さえる、「セーハ」とか「バレー」と呼ばれる押さえかただ。この場合の6弦は人差し指でおさえることになるのだが、僕の場合は、ネックの上に出した親指をぐにゅっと曲げて6弦を押さえる弾き方なのだ。

まだGSブームが本格的になる前のことだった。スパイダーズをテレビで見ていたら、かまやつひろしさんがこの押さえかたで弾いていた。左手で握る込むようなナチュラルな押さえかた。
どこか固く生真面目に見える「セーハ」に比べて、なんだか大人っぽくで小粋でヤクザな感じがした。

「いいか坊や、ギターってのはこうやって弾くもんだぜ。」

くわえ煙草をくゆらせ ... てはいなかったが、画面の向こうからそんなかまやつさんの声が聞こえるようだった。

そんな押さえかたをしている人は今まで僕のまわりにはいなかった。
他人とちがうことをする人を僕はすぐに尊敬してしまう。
その世界感に憧れてマネをしているうちに、いつのまにか、Fの形のコードはいつも6弦を親指でおさえるやり方になってしまった。



ひたすら、かまやつさんの運指にご注目を。カポタストを使わず、Bmまで親指ぐにゅっで弾いておられる。


木崎さんに導かれて、渡辺プロダクションの会議室に入っていくと、かまやつさんが会議室で曲を作っておられた。
憧れのスパイダーズのかまやつしろしさんがそこにいる。おっと江戸っ子でもないのに。「ひろし」が「しろし」になってしまった。それぐらい興奮したということだ。
ちょうど出来上がり、テープレコーダーに歌を録音しておられるところだった。

ギターを弾くかまやつさんの左手に目をやると、おお、これだ。憧れの「親指ぐにゅっと6弦弾き」。
なんと元祖が目と鼻の先に ... 。じっとおとなしく聞き入っているようなふりをしていたが、内心は大騒ぎだった。

そのときの曲が「G. S. I Love You」に収録されている、「午前3時のエレベーター」だった。
今録ったばかりのデモテープをその場で通して聞かせてもらい、すぐにアレンジの打ち合せに入った。

かまやつさんの曲は、まるで黒人のリズム&ブルースから影響を受けた60年代のブリティッシュ・バンドが作った曲みたいだった。ある時は、カーティス・メイフィールドが作った、メジャー・ランスの「Um Um Um」だったり、





ある時は、コースターズの「Poison Ivy」だったり、





またある時はアーサー・アレキサンダーの「Anna」だったり、





いろんな曲のイメージが僕の中につぎつぎと顕われ、わくわくどきどきしてしまった。

自分のルーツはカントリーとモッズなんだよねとおっしゃっていた。
ルーツがモッズというのが曲者だ。僕なんかの世代がビートルズやストーンズに憧れて、その音楽的ルーツの黒人R&Bを後から聞き始めたのとはちがって、ジョンやポールや、ミックやキースと同じようにリアルタイムで聞いてこられたから、彼らと同じポジションに立っていた数少ない日本人だと思う。

スパイダーズでかまやつさんが得意としていた曲の「Ya Ya」好きだった。これが何ともかっこよくて ... 。だけどそのときはオリジナルが誰だかわからなかった。のちに70年代にニューオリンズ・ミュージックにはまったとき、なんとそれがアラン・トゥーサンの作品とだと知ったときの驚き。一粒で二度の驚きだった。いくらなんでもおしゃれ過ぎ。ギターだけじゃなかった。





「午前3時のエレベーター」で、ひさびさのまぎれもないかまやつ節に再会。かって「ノー・ノー・ボーイ」や「リトル・ロビー」で僕らのポップ心をきゅんきゅんさせた、あのかまやつ節だった。






スパイダースのムッシュかまやつが書いた曲を、タイガースのジュリーが歌う ... 。
歴史を知っている音楽ファンには、まさに奇跡のような出来事だった。

いかん、ちょっとノリ過ぎて長くなったのでアレンジやコーラスのことまで話せなくなった。
明日話すことにしよう。スマンの涙である。

最後はやっぱりジュリーの艶姿でしめていただこう。






まだ教則本やコピー集なんか影もかたちもなかった頃、G. S. のテレビでの演奏は何よりもよき先生だった。
ビートルズのイントロは、「ザ・ヒット・パレード」に出演していたブルー・コメッツの三原綱木さんの手元をみて覚えた。ヴィデオもなかったから、とにかく一瞬も見逃すまいと必死で見たものである。

ちなみに「セーハ」はスペイン語である。
はじめて「セーハ」という響きを耳にしたとき、てっきり「正把(せいは)」という立派な日本語だと思ってしまった。なんか「正しい押さえかた」みたいな ... 。
一度そういう刷り込みが入ってしまったものだから、いまだに「セーハ」と聞くととっさに「正把」が浮かんで、「押忍」とか言いたくなるのである。

    つづく