ひさしぶりの三崎は僕たちuncle-jamを温かく迎えてくれた。牡丹のまぐろラーメンもあいかわらず旨かった。
1月30日に三崎の藤沢さんのスタジオにお邪魔して、黒沢秀樹君と僕のユニット、uncle-jamの録音をしてきた。昨日の夜やっと帰ってきて、この「サンデー銀次」を書いていた。
三崎レコーディングについては明日の「サンデー銀次」でふれようと思っている。
とりあえず今日は流れで、I Stand Aloneシリーズのレビュー。いよいよ最新作のvol.4である。


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vol.3と同じく東高根森林公園近くのオアシス・サウンドというスタジオでの録音。ジャケは、おっとシリーズ初のどアップだ。星柄のストラップも映ってて、表情も柔らかくて、好きなジャケだ。

ギターの弾き語りをやろうと決心したのは、ジョアン・ジルベルトの二度目の来日公演を、東京国際フォーラムで見たときだ。大きなホールでたった一人の歌と演奏。でも目を閉じて聞いていると、彼のつまびくギターの中にベースもパーカションもいっしょに聞こえてきて、ギター1本なのに全然物足りなくない、豊かなアンサンブル。まるで小さなオーケストラのようだ。
そうか、弦楽四重奏も、4つの旋律が重なってあの厚みを出している。ただのストロークとしてギターを考えずに、ピアノの右手と左手による演奏のように、低音弦と高音弦のコンビネーションで演奏すれば、ひとりでも自分の曲を過不足なく表現できるのでは ...。それが発端だった。
ただ、そこから知恵を絞っての編曲と、鬼のような練習をしなければならなかった。
70歳を超えたジルベルトが、来日中もホテルの自分の部屋でずっと練習していたというエピソードが、めげそうになる僕を励ましてくれた。







01) Sugar Boy Blues

僕の曲は、どの曲も影響を受けている要素が1つだけということはない。あるひとつの音楽から、連想ゲームのように、芋づる式に繋がって数々のアイデアが出てくるからだ。
この曲も、イントロはメリー・ウェルズの「My Guy」的で、サビはオリヴィア・ニュートン・ジョンの「Make A Move On Me」や、ファウンデーションズの「Build Me A Butter Cup」の香りがするが、やりたかったのはラヴィン・スプーンフルだったのだ。
高校の頃、ラヴィン・スプーンフルが大好きだった。シングル盤は全部持っていた。尊敬するジョン・セバスチャンのYou're A Big Boy Nowみたいな曲が書いてみたかったのだ。





アコギ・ヴァージョンでの問題点は、この曲をこの曲としているベースランを弾きながら歌えるかどうかだった。はじめは、右手と左手で丸と三角を同時に書くようなむずかしさがあったが、ゆっくりと練習を重ねていくうちに歌とベースランが同時にスムーズにできるようになった。I Stand Alone が新しい地平に一歩ふみだした瞬間だった。




02) こぬか雨

弾き語りヴァージョンではかなり前から演っている古株。はじめからなぜかこのアレンジ。ジョアン・ジルベルトを見るまえからボサノヴァ風なアレンジで演奏していたから不思議だ。
昨年の12月30号「On A Special Day ~ 最高の日をありがとう part.2」にも書いたように、ごまのはえ時代に「ガロ」の「美しすぎて」にインスパイアされて作った曲。山下達郎君に聞かせたら気に入ってくれてシュガー・ベイブのレパートリーに。もしシュガーの2枚目のアルバムが出ていたら、たぶん「Windy Lady」と共に入っていたと思う。ライヴでよく演奏していたからね。
彼のヴァージョンはもっとテンポが速く詩も若干ちがう。「Deadly Drive」のときのオリジナル・ヴァージョンでは、ジョージ・ハリソンの「Far East Man」のアレンジ、特にテンポ感を意識してレコーディングした。







03) いつでもここにいる

スピナーズの「I'll Be Around」や「Could It Be I'm Falling In Love」みたいな曲が作りたかった。この2曲を書いたのは「黒人のバカラック」、トム・ベル。大好きなソングライターの一人だ。





録音している時気づかなかったが、vol.4のアコギ・ヴァージョンでは、右手で2拍4拍に無意識のうちにアタック音を入れている。スピナーズのタムタムのつもりだったのか ... 。よく覚えていない。

「Person To Person」のときのヴァージョンのコーラスに、当時の杉真理君のコーラスを3人でやっていた、向井寛さん、後のBOXのベーシストの小室和之さん、その後「ほっとけないよ」の大ヒットを放つ楠瀬誠志郎君が参加してくれた。今から思うとすごいメンツによるコーラスだ。
このレコーディングのあと、須藤薫さんのアルバムをプロデュースすることになり、誠志郎君に作曲を依頼したら「初恋は何度でも」という、とてもかっこいい曲を提供してくれた。作曲のセンスのよさに驚いていたら、あっというまに本人がブレイクしてしまった。僕と薫ちゃんが、その才能の萌芽の瞬間の目撃者だったのかもしれない。



04) ワン・サマー・ナイト

「One Way Ticket To The Moon」の流れをくむマイナー・チューン。確かホール&オーツとゾンビーズを合体させたような曲を目指した。ステージではほとんどやらなかった。オリジナル盤のアレンジが自分であまり好きじゃなかったからだ。シンセの音色も含めて、悪くはないけれど、キターっという感じまでの納得がいかなかった。オリジナル・ヴァージョンが好きなかたには申し訳がないが、僕はこのアコギ・ヴァージョンのほうが断然お気に入り。

僕が書く短調の曲は、ミッシェル・ルグランなどのヨーロピアン的な切ない系。どマイナーではなく必ず長調へ戻りたがる特徴がある。福永恵規さんに書いた「ハートのイグニション」はその典型。
同じマイナーでも「かっこいい」系マイナーというものがあることを知ったのは、アン・ルイスさんのプロデュースがきっかけだった。「ラ・セゾン」や「六本木心中」などを編曲しているうちに、暗くならずにインパクトが強くなるマイナーの曲の書き方を勉強させてもらった。「六本木心中」のカップリング、「イン・プレジャー」はそのおかげでできた曲だ。


竹中尚人(チャー)と後のフェンス・オブ・ディフェンスの北島健二のツインギターが炸裂。
ちなみに作・編曲は不肖私めです。





05) 星を見上げて    

1980年代にJFNネットワークで、僕が7年間DJを務めた深夜番組「FMナイトストリート」のエンディングに使われた。いろんなところで、あの頃この番組を聞いていましたというかたたちに出会う。この曲を聞くとその頃のことを思い出していただけるのではと選曲した。「FMナイトストリート」のエピソードについても話したくなってきたが、長くなるので別の機会に。

2年前、下北沢ラ・カーニャでのハミング・キッチンのライヴにゲストで呼ばれた時、リハーサルでこの曲を歌っていたら、ハミング・キッチンのモモちゃんに「いい曲ね」とほめられたのがうれしかった。そしてなんとなくモモちゃんの音楽観を垣間みたような気がした。


I Stand Alone 2009 では、自分が影響を受けたアーティストのカバー曲も歌った。
その日の気分で日替わりメニュー。全会場にお越しになったかたでないと、どんな曲を演ってたのか全貌はわからない。そこで近々、カバーした全曲をリストアップして、そのよもやま話をしてみようと思う。どうかお楽しみに。