以前そういえば、Musicshelfという音楽サイトの方から、「伊藤銀次のルーツをひも解く10曲」というテーマの取材を受けた記憶がある。僕の作る曲やギターの弾き方などに影響をあたえてくれた、ありがたい10曲を選んで、それについて自由におしゃべりさせていただいたことが ... 。
「そういえば」とか、「記憶がある」とか、書き出しから、なんていいかげんな物言いなんだと思った人もいるかもしれない。確かに自分でもなんてはっきりしない物言いだと思うのだが、正直はっきりしないのには理由があるのだ。

その取材をうけた頃、ぼくは恥ずかしながらインターネットをやってなかったので、取材されたものをネットで見ることができなかったのである。編集の方からゲラみたいなものを見せていただきそれにOKを出したところまでで、そこから先は、この「伊藤銀次のルーツをひも解く10曲」というものは、ぼくの世界には存在しなかったも同然の状態になっていたのである。

それがちょっと前のこと、そのMusicshelf編集部から僕のもとに200ページほどの本が送られてきた。
「5000 SONGS」と名付けられたその本は「プレイリストで楽しむ私的名曲セレクション」とサブタイトルがつけられているように、約500人のアーティストや著名人が、さまざまなテーマでセレクトした曲のリストが5000曲以上紹介されている名曲ガイドブックで、なんとその中に、まさかのあの僕の「伊藤銀次のルーツをひも解く10曲」が載っているではないか。


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ネットの中で自由に閲覧できる連載が、やがてまとまって書籍化することがあるが、これもその一例なのだ。実に多ジャンルのアーティストがさまざまなテーマでセレクトしているので、なかなかの読み応え。じっくり1ページ目から順に読んでもいいしどこから読んでもかまわない。どちらかというと辞書や電話帳に近い。ぱらぱらとあてもなくめくって、気になるところで楽しむこともできる。

巻頭に佐野元春のインタビューと彼のオールタイム・ベストが載っていた。もともとこのMusicshelfは、彼のラジオ番組「元春レイディオ・ショー」の雰囲気をウェブで表現したいという思いから始められたらしい。彼の選んでる10曲はなるほどのラインナップだが、スキーター・デイヴィスはちょっと意外だったね。ロッカーとして見てばかりいると見逃してしまう、彼のソングライターとしての顔がここに顕われているような気がする。





たくさんのセレクションの中でも、やっぱり知り合いのアーティストのがどうしても気になるものだ。
おっ、杉真理君のセレクションも出ているぞ、どれどれと見てみると、これがまた杉君らしい「気絶する寸前に聞きたい曲」というテーマだ。
思わず「杉まさみち」ではなく、「杉まさしく」と言いたくなるような、まさしく杉君ならではのテーマじゃないか。
もちろん、ほんとうの気絶のことではない。杉君一流のエンタテインメントな言い方。疲れて家に帰ってきたときに、緊張を解いてふわーっと気を失うようにリラックスするということらしい。

その選曲の中に、コリーヌ・ベイリー・レイの「Butterfly」が選ばれていた。杉君もコリーヌ・ベイリー・レイとか聞いてたんだね。こういう共通のCD体験の発見はなかなかうれしい。この曲の入った彼女のアルバムは、一時期僕の愛聴盤だったから ... 。


コリーヌ・ベイリー・レイ/コリーヌ・ベイリー・レイ

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コリーヌのButterfly、なかなかのかわゆいライブ映像です。


いまやiPodなどの中にデータとして収納されることの多い音楽。
でも僕はいまでも、知り合いになったミュージシャンの家に行くと、まずそのレコード棚やCD棚を見させてもらう。そのコレクションの背表紙を通して、彼をうかがい知ることができるからだ。
Bookshelfが本棚なら、Musicshelfは音楽の棚。
「5000 SONGS」は、いろんなミュージシャンのお家にうかがってそのCD棚をのぞかせてもらってるような気になる本である。


杉君がいうところの「気絶」を、僕は「火をおとす」と呼んでいる。閉まりかけのラーメン店にかけこんで「やってますか?」と聞くと、「お客さん、すいません。あいにく火をおとしちゃったもんで ... 。」というときのそれだ。僕が火をおとす時に聞くのは、だいたいゆるめのジャズだ。

おやおや、もうこんな時間になってしまった。それじゃ、Quiet Kennyでも聞いて火をおとすか...。


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