いやー、まいった。目黒線の電車の中から携帯で「コードネームは Mr. G」を確認したら、なんと「寒い国から来た銀次」が「寒い君から来た銀次」になっているではないか。
まったく気づかなかった。これではまるで僕が雪女のところから逃げてきたみたい。携帯から変更を試みたのだが、「記事本文には禁止タグが入力されています」の表示。ということは、武蔵小山のモメカルが終わって自宅に帰るまでこのままなのだと、あきらめるしかなかった。
奇妙な文章で申し訳ありませんでした。帰宅後さっそく直しました。

僕ってこういうのをそのままにしておくのがとても気持ち悪くていやなのだ。本屋でも平積みになっている本の山が少しでも崩れていると直さないではいられない性分なので ... 。
気分直しにフランク・シナトラで「Love Is Here To Stay」でも聞いてみよう。ついこないだブライアン・ウィルソンもカバーしたジョージ・ガーシュインの名曲。アゲイン石川さんのリクエストで、モメカルが演奏していた。僕も大好きな曲。特にシナトラのがね。





1月21日号の「コードネームは Mr. G」の今日の指令というのは一種の謎掛けになっていた。
「MKのAに出かけそこでMSQと合流してSLHを歌うこと」というのは、「武蔵小山のアゲインに出かけそこでモーメント・ストリング・カルテットと合流してShe's Leaving Homeを歌うこと」という意味だった。
なにもそんなことまでしないで普通に告知すればいいじゃないのというご意見もあるかもしれない。普通の人ならそうなのだが、なにしろ昔、タモリさんや坂田明さんとハナモゲラ歌舞伎をやっていたという前科を持つ男である。

昨年BOXとPANのライヴ・レポを書いていたら、たまたま「寒い国から来た銀次」という、想定外のスパイ小説に化けたことから、ブログを書くたびに、あわよくば「移動銀次」を登場させようとする自分がいることに気づいた。これはいかん。時と場合を考えろよと、自分の中のこの獣を檻から出さぬように気をつけていたのだった。
ところが、モメカル(モーメント・ストリング・カルテットの略称)のライヴのシークレット・ゲストに決まり、確認のため直前にmomentのHPをみると、なんとゲストの欄に丸山茂樹、そしてMr.Gとなっているではないか。Mr. G ? うーん、なんか007ぽいなあ...。
その瞬間、突然すべてのストーリーがひらめき、獣が檻から格子を破って飛び出してしまったのである。
スマナサーラさんの話題の翌日に、スパイ小説もどき。驚いたかたもいると思うが、この節操のなさ、よくいえばバラエティーの広さ、これこそ「サンデー銀次」の醍醐味なのだと思ってていただけると実に僕としてはありがたいのだが。


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アゲインでのモメカルのライヴはこれで3回目。他所で見るモメカルとちがって、アゲインの石川さんのリクエストから選曲されるので、ひと味ちがったモメカルが聞ける。さらにモメカルをプロデュースしている寺澤君は、2009年の僕のツアーをバックアップしてくれた人物。そういう関係もあって、僕は1回目からずっとシークレット・ゲストとして出演させていただいている。
今回歌ったのはビートルズのShe's Leaving Home。1967年にはじめてこの曲を聞いた時、まさか本物の弦をバックに歌えるなんて思いもしなかった。ありがとうモメカル。

MCでも話したが、この曲って女の子が家出をしていく歌なのだ。実話をもとにしたらしい。
1番では朝5時にそっと家を出て行く娘の、そして2番では起き出して娘の書き置きに気づいて驚愕する母親の描写が、あのきれいなメロディーにのせて語られる。まるで一編の短編小説。ポールの作品の中でも秀逸の作品だと思う。「ビートルソングス」によるとジョンも詩を手伝ったらしいから、やっぱりこの二人の天才が手を組んだときにはスゴイことが起きるのだ。

サビでポールがshe.... is leaving ..... homeとタイトルを歌う合間に、ジョンが両親の気持ちを歌う
というアイデアがすごい。まるでミュージカルのよう。残念ながら今回はひとりでこの曲を歌うので、二人の重なる所はいいとこ取りで歌うしかなかった。
余談になるが、僕の「Girl In Blue」という作品はこの曲にインスパイアされたものに、ジム・ウェッブの「恋はフェニックス」のスパイスを振りかけたものだ。





出番が来て歌い出したら、なんと客席に風祭東君が来ているではないか。
ちょうど1部と2部のあいだに休憩があったのでひさしぶりに話した。神戸チキンジョージで、今日のゲストの丸山茂樹君と知り合い見に来たら、なんと隠れゲストの僕がいたので驚いたようだ。僕だってびっくりしたよ。

その丸山茂樹君は、どことなくアイドルっぽいルックスなのに、音楽は性根の入った真性シンガーソングライター。MCによれば若いのにアジアのいろんな所を旅している。いいね、男は旅だ。
沖縄の音楽にすごく影響を受けているのがメロディーからもわかった。初めてなので挨拶したら、なんと僕のマネージメント・オフィスとすごく関係のある人だった。世の中はほんとに狭い。きっとこれはまた何かの兆しにちがいない。

休憩のあとは本日のメインイベント、モメカルによる大瀧詠一特集である。今回はファーストとナイアガラ・ムーンからセレクト、そして作家として提供した曲からも演奏されたが、あらためて聞く「ナイアガラ・ムーン」と「探偵物語」が個人的に心に響いた。





あらためて歌ではなく弦のメロディーで聞くと、いかに大瀧さんの曲が「歌」の曲なのかということが反対によくわかる。最近のJPOPのような、快感を記号化して巧みに配置したような旋律ではなく、大瀧さんの肉体から響き出てきた、人の息づかいのあるメロディーなのだ。
そのさわやかさと裏腹な、聞くものの心にからみついてくるようなその粘着性は、誰も真似ることができない。

アゲインは楽屋がないのでカウンターの前のスツール席が、いちおう控え室兼関係者席になっているので、僕だと発見されたご夫婦とお話ができた。村田和人君のファンでもあるらしい。
この日最後にモメカルと演った「幸せにさよなら」がお気に入りのようで、なんと村田君と斎藤誠君が作ってたユニットでカバーしていたことまでご存知だった。ただ僕もご夫婦もそのユニット名が思い出せなかった。
わかりましたよ。それは21。村田君と斎藤君と重実徹さんの3人に山根 栄子さんが加わったユニット。「幸せにさよなら」の入った2ndアルバム「Greeting」は名盤です。
小さな男の子2人を連れたウルフルズ・ファンの若いお母さんとも話せたり、こういうところが下町っぽいアゲインのいいところだ。

この日のモメカルのメンバーは有馬真帆子(第1ヴァイオリン)、木野裕子(第2ヴァイオリン)、郷田由美子(チェロ)、小弥祐介(ヴィオラ)。最近やっと親子ほど年の離れた彼らと気軽に話しができるようになった。きっと最初はこわそうで話しかけにくかったんだろうな。でもそれはアコギによるライヴに余裕がなかったせいで、一生懸命になると顔がこわくなるからなんだ。
もしそういうことがまたあったら、顔はこわいけど一所懸命しっぽをふっているシベリアン・ハスキーを思い出して許してね。