ひさびさにひらめいたので、「寒い国から来た銀次」の第2回である。はたして今日銀次は、いったいどこに出没するのであろうか?そしてその任務とは?





表の郵便箱でゴトンという音がした。新しい指令が届いたにちがいない。

マダガスカル北部から帰ってきたばかりで、まだ泥のような疲れが残っていた。現地で昨年末から大量発生した黒豚インフルエンザ菌の被害にあうマンガリ族の実情とその供給源たる組織名をつきとめたことを本部に報告するためのレポート作成中だったが、その手を止めて玄関へ。

まず扉全体にかけられた電気ショック・バリアを解除し、8重にかけられた錠をはずすと、重い扉を四分の一ほど開け、アパルトマンの廊下の左右を確認した。よし、どうやら誰もいない。おびき出しではないようだ。郵便箱からブツをつかみとるとすぐさまドアを閉め、8個の錠をひとつずつ丁寧にかけ直したら、再び電気ショック・バリアの操作スィッチをONに戻した。

この4階のフロアには俺以外はもう誰も住んでいない。老朽化したこのアパルトマンはまもなく都市計画でとりこわされる。それを承知でここを一時滞在先に選んだ。日々他人とすれちがう機会が少ない方が俺のような稼業には都合がいい。この報告さえすませれば、ここ東十条ともおさらばして、本部が指定してくる次の任地におもむかねばならないのだ。はたして明日はダラスか、はたまたネヴァダか ... 。果てない旅はとこしえに、いや、俺の命の続くかぎり終わることはけっしてない。

梱包を解き、送られてきたCDRをラップトップのトレイに流し込み、ヘッドフォンをかぶってから、ファイルをクリックした。

「おはよう銀次君。今日の指令は、MKのAに出かけそこでMSQと合流してSLHを歌うことだ。君のコードネームはMr. G 。詳細な行動内容に関しては、http://momentweb.blog15.fc2.com/にアクセスしてくれたまえ。
なおこのCDRはトレイからイジェクトした瞬間にエビセンに変るので、確実に処分すること。成功を祈る。」

Mr. Gか...。元CDRだったエビセンをぽりぽりかじりながら、俺は準備を始めることにした。
念入りに「移動銀次」に変身、よし完璧だ。たとえ同じ組織の人間でも俺とわかるまい。
エビセンの最後のひとかけらを胃の中に送り込むと、ふたたび電気ショック・バリアを解除し、8重にかけられた錠をはずすと、重い扉の外へ出て、夕暮れの街をMKに急いだ。