身体が不自由なのはリハビリの成果で少しずつ動けるようになり、なんとか自分で動けるレベルまできた。

けど、一番困ったのは、呼吸と嚥下(飲み込み)なのだ。
自発呼吸ができなかったので、気管切開で喉に管を通して空気を送り込んでいた。
声帯がマヒして左側が開いたまま固定してしまい、閉じないから声が出ない。
普段は筆談だから常にノートとマジックペンを手元に置いていた。

かすれ声どころかささやき声がやっとだったからな。

飲み込みできないから、つばがたまる。
30分毎ぐらいに、喉に通した管に吸引器を突っ込んで喉にたまっているものを吸いだしてもらう。

これが、めちゃくちゃ苦しいのだよ。

飲み込みできないから、食べ物どころか水すら飲めない・・・
胃ろう(胃に管で、おなかから30cmぐらいのチューブが伸びてるんだよ。)から栄養剤とか水とかを流し込む。

ここでとんでもない事実が発覚。

栄養剤は、薬剤ではなく食品扱いだから保険がきかないとのこと。
ざっと計算すると、ひと月約7万円

なんでやねん(゚Д゚)ノ

健康な状態でもひと月に7万円も食費使わないって!

入院中、当然俺は食事ができない。
食事の時間になると、ひとりベッドの周りのカーテンを閉められ、みんなが食事おわるまで待ってるのだ。
とっても寂しい時間だったのだ。
周りの人たちは、病院の食事がまずいだとか、魚は嫌いだとか言って食事に文句言ってる。

おまえら、贅沢やねん!

食べれるだけありがたいと思え!

いかんな、ひとのことそんなふうに思ったりするのは・・・m(__)m

好き嫌いは誰でもあるだろうに、あの頃は心が狭くなってたな。

もう食べることを諦めていたんだけど、やっぱりいつかは食べたいと思ってた。
だからイメージトレーニングは欠かさなかった。
夜、消灯してからベッドに寝転んだまま、携帯でファミマのサイトでエクレアの写真みて、
エクレア食いて~~
と考えていた。
ううっ、なんてかわいそうなんだ、まさに全米が涙しただな。

入院して、3か月ぐらいたったころ、先生が思い切って気管切開を抜いてみよう、と言った。

最初は苦しいだろうけどたぶん呼吸ができるだろうとのことだった。

たぶんできるって何?

最初は苦しいってどういうこと?
喉に通した管を抜く、上手く呼吸が出来なくて苦しかったらどうしよう・・・、いざ管を抜くとなると不安しかない・・・

手術とかで抜くのかなと思ったら、ある日先生がベッドサイドに来て気管切開の様子を診察して、いきなり引き抜いた。

えっ、ええ~~~???

先生は何もなかったように、もう抜いたよ、と言った。さらに、
穴は半日ぐらいで塞がるけど、指とか突っ込まないでね。

突っ込むかい!気持ち悪いわ!

喉に穴が空いたままだからピューピュー音が鳴る、まさに笛ラムネ状態だった。

しかし、喉にあいた穴って、ほんとにすぐに塞がるんやな。
ガーゼ当ててただけやのに・・・

気管切開取れたけど、やっぱり飲み込みできないし声が出ない。
声帯が開いたままになっているから仕方がないとのことだった。

退院して半年後、何件かの病院を回って、思い切った治療にトライしてみた。

左側の声帯が開いたままで開閉できなくなってるので、思い切って閉じてしまう。

右側だけで話すことになるので、大きい声は出ないけど最低限の会話はできるようになるし、おそらく飲み込みもできるよになるとのことだった。

手術は想像をはるかに超えるもんだった。

喉を横に切って開いて、開いたまま固定している声帯をゴアテックスで引っ張って固定するというワイルドなもんなんだけど、その手術は局所麻酔でされたのだ。
局所麻酔???
いくら麻酔してるからって、意識あるんだぜ!


椅子に座った状態で体縛られて、電気のこぎりみたいなので、喉をひらかれたのだ。

スプラッター映画の拷問かよ。

喉を開いた状態で、声帯を閉じていき、声を出してみて~、と調整していったのだ。
悪夢としか言いようのない手術だった。
二度と体験したくない・・・

手術してから、ささやき声だが会話ができるようになった。
大きい声は出ないし、息が続かないから長い会話はできないけど、日常会話程度はできるようになった。

飲み込みもゆっくりならできるようになった。
あいかわらず、気管に入るので水を飲むのは苦手だけど、よく噛んで、もそもそ食べれるようになった。

食べ物がこんなにおいしいとは思わなかった。
同じころに胃ろうも抜いた。
それも気管切開と同じく、手術とかではなく引き抜いただけ。
穴は半日ぐらいでふさがったが、いまでもおへそが2個あるみたいになってる。

約1年半食事できなかったから、いまは1回1回の食事を楽しんでいる。
食べれることに、ほんと感謝

相変わらず、身体は不自由、身体の痛みやめまいなど、健常には程遠い状態だ。

しかし、一度死んで命をとりとめたものの、医者からはいいとこ車イスまでと言われていたことを思うと信じられない。
いろいろと諦めたつもりだったけど、やっぱり欲が出る。
元の状態には戻れないけど、できる範囲でできることを少しずつ増やしていこうと思う。

いまだたくさんの障害があるけど、病気の振り返りはこれで終わり。
もし大病した人がいても、あきらめたらいかんよ。
案外なんとかなるもんだ。
「もう死にそう」とか言って、ほんとに死ぬやつなんていないからな(笑)

今だから言えるんだけど。
みんな、健康に気をつけような、では
チェケラ