気がついたとき、ベッドの周りにはたくさんの人がいた。

あっ、気がついた。

なんか聞いたことがある声だったように感じたし、泣いている人もいたようだった。
ドラマなんかでよく見るシーンやな、となんとなく考えていた。

しかし、身体が動かないし、声も出ない。
なんか状況がよくわからない。

とにかく1週間ぐらい寝てたらしい。

なんとなく意識がはっきりしてきてが、頭の中がぐるぐる回るようなめまいが止まらないし、身体は全く動かない。
首を横に傾けることもできない。
右手がかろうじてちょっと動く。
声は全く出ないので、誰にも何も伝えることができない。

そして、自分に何が起こったのか少しずつ聞かされた。
(返事もできないから、一方的に聞いていただけだけどな。)

いわゆるくも膜下出血、ま、脳の血管が破裂しちゃったわけだが、普通はまず助からないらしい。
倒れたのが病院だったのが幸いして、すぐに処置できる大きな病院に運ばれ、手術してもらえたというラッキーすぎる状況で命が助かった。
出張中だったので、夜ホテルで倒れていたら終わってたな。

手術は10時間以上、手術中に何度も心臓が止まったらしい。
その度に電気ショックとかで蘇生したらしい。

だから俺の胸にはやけど後みたいなのがあるのか。
うーん、何度も死んで生き返ったのか、すげぇな俺、もはや無敵!

脳内の出血を止めるの処置として副次的に脳梗塞を起こしたんだと。
どうしようもない状態で、小脳を半分切除したらしい。
それに伴い、後頭部の頭蓋骨も外した。
(今も後頭部の骨はないので、殴られないように、特におやじ狩りに注意してとムチャなことを言われた。
 たしかに年齢的には狩る側ではなく、狩られる側だ・・・
てか、脳を切除って、脳をけずり取ったわけだろ?大丈夫なのか?
どうせならロボコップみたいにして欲しかった。
自発呼吸ができないので、喉に穴をあけてパイプを通して空気を送り込む、いわゆる気管切開されてた。
声帯がマヒしてるので、まったく話せない。
嚥下(飲み込み)ができないので(水すら飲めない)、胃ろう(胃に穴をあけてチューブを通して、水とか栄養剤とかを流し込む)も作られた。
てな感じ。
なんか悲惨

僕のような症例ではまず命は助からないらしい。
なんとか、一命を取り止めたが起き上がるのは無理だろう、よくて車イスまでだと聞かされた。

いったい、何を言ってるのかよくわからない。
ふ~ん、ぐらいの感じ。でも喋れないから、自分から何も伝えることがででないんじゃよ。

で、はじめての入院生活開始。

まったく動けないので、床ずれができないようにたまに看護師さんが定期的に身体の向きを変えに来る。
これが、地獄。
身体が揺れる瞬間、全身に電流が走り、視界が真っ黒になる。
そして、you dead!というまるでバイオハザードでゾンビに喰われたような文字が目の奥に浮かび上がるのだ。
体位の方向転換がくると恐怖なのだ。

さらにベッドのシーツ交換の時には、看護師さん数人に抱えられて車イスに乗せられ、ロビーに置いとかれる。
これがめちゃくちゃしんどい。
頭のなかがぐわんぐわんして、よだれが口から流れ出るけど、どうすることもできない。
辛かったら呼んでね。と言われたけど、声も出ないし手も動かないのでどうすることもできん。
ただ、涙をボロボロ流しながら、早く迎えに来て~と祈るばかりだったんじゃよ。

2か月ぐらい東京の病院に居たかな。
その後、大阪の病院へ。

病院から東京駅までは、民間医療のマイクロバスで、ストレッチャーに乗せられたまま。

もちろん、新幹線もストレッチャーに乗せられたまま個室で運ばれたんだよ。
看護師さんが大阪までついてくれて、定期的に吸引されながら地元大阪へ。

さらに新大阪駅から病院も、ストレッチャーに乗せられたまま。
いやあ、旅慣れた俺もさすがに辛かったけど、なにも伝えることができんかったのだよ。


そして大阪で転院した病院では、約半年間の入院生活。
ついに本格的なリハビリ開始、地獄の日々の始まりなのだよ。