(つづきです)
沈黙を破ったT君。
「やはり、納得できない。K先生の好意を踏みにじるような真似はやめて、問題を返し、実力で試験を受けるべきだ」
真っ直ぐな正論に、最前列グループはバツが悪そうに黙り込みました。
しかし、どうやって返すのか? 正直に話せば彼らの人生は終わる。
クラス全員が昨日黙認した以上、そこには連帯責任のような重苦しい空気が流れていました。
その時、H君が割り込んできました。
「俺に任せてくれないか。K先生とは仲が良いし、丸く収めてくる」。
誰もが尻込みする火中の栗を拾う役を、H君が引き受けてくれたのです。
そしてT君もまた、共に責任を背負うべく、盗んだ問題用紙を持って2人で職員室のK先生のもとへ向かいました。
二人は先生を呼び出し、真っ直ぐな目でこう言ったそうです。
「先生、昨日、廊下に試験問題が1枚落ちていました。これがその問題用紙です。拾った生徒がこれを他の人にも見せてしまったんです。だから、問題を作り直してほしい」
K先生は、呆然と問題用紙を見つめながら「そんなはずはない」と反論しました。
自分がそんな大事な問題用紙を落とすわけがない、と。
しかし二人は「実際、拾った者がいて、みんなが見てしまったんです」と、同じ言葉を繰り返しました。
絶対にそんなことはあり得ない、先生も引き下がりません。
数分間の押し問答のあと。
すべてを察したK先生は、静かにこう言ったそうです。
「……君たちがそう言うなら信じよう。問題は作り直す」
若気の至りが招いた、危うい事件。
あの時、勇気を持って声を上げたT君と火中の栗を拾いに行ったH君。
そして、すべてを理解した上で、生徒の未来を守るために「騙されたフリ」をしてくれたK先生。
冬の冷たい空気の中、墓前で思い出したのは、そんな青臭くも、人間の温かさに触れた大切な記憶でした。