「社長って、孤独ですよね」

同業の知り合いにそう言われたとき、私は思わず深くうなずいてしまいました。

社員の前では弱音を吐けない。家族に仕事の悩みを話しても、心配をかけるだけ。取引先には、なおさら本音を見せられない。気づけば、会社のことで本気で相談できる相手が、誰もいなかったのです。

先に結論を言います。小さな会社の社長にとって、「相談できる相手」を持つことは、お金や人材と同じくらい大切な経営資源だと、今は心から思っています。

今日は、ひとりで抱え込んでいた私が、少しずつ相談できる相手を持つようになるまでの話と、そこで学んだことを書いてみます。

ひとりで決め続けていた頃

創業してしばらくの間、私はすべての判断をひとりで下していました。

新しい取引先と契約するか。社員を増やすか。設備にお金をかけるか。どれも会社の将来を左右する決断です。夜、布団に入ってからも頭の中で考え続け、眠れない日がよくありました。

ひとりで決めるということは、責任をひとりで背負うということです。うまくいけばいいのですが、失敗したときの落ち込みも全部ひとりで受け止めることになります。

コロナ禍で売上が落ち込んだときは、特にこたえました。誰にも相談できないまま、数字だけを見つめる毎日。今振り返ると、あの頃の私は、冷静な判断ができる状態ではなかったと思います。

相談できなかった理由

なぜ相談できなかったのか。理由を考えてみると、こんなことが浮かびました。

  • 社長が迷っている姿を見せたら、社員が不安になると思っていた
  • 「そんなことも自分で決められないのか」と思われるのが怖かった
  • そもそも、誰に相談すればいいのかわからなかった

特に大きかったのは、3つ目です。経営の悩みは、会社員の友人には話しにくい。かといって、同じ立場の経営者の知り合いも、ほとんどいませんでした。

転機は、商工会の集まりだった

変わるきっかけは、ある日たまたま参加した地元の商工会の集まりでした。

正直、最初は名刺交換だけして帰るつもりでした。ところが、懇親会でとなりに座った年上の社長が、ご自身の失敗談を笑いながら話してくれたのです。

「うちも昔、取引先が1社倒れて、半年くらい給料を払うのがやっとだったよ」

その話を聞いて、肩の力がふっと抜けました。自分だけじゃなかったんだ、と。それから少しずつ、自分の悩みも話せるようになっていきました。

相談相手は「役割」で分けて持つ

いろいろな人と話すうちに、気づいたことがあります。それは、相談相手はひとりでなくていいということです。今の私には、役割の違う相談相手が何人かいます。

  • 数字の相談なら、顧問の税理士さん
  • 経営全般の悩みなら、商工会で知り合った先輩経営者
  • 現場のことなら、長く働いてくれているベテラン社員
  • 気持ちが落ち込んだときは、家族や昔からの友人

ひとりの人に全部を相談しようとすると、相手にも負担がかかりますし、答えも偏りがちです。悩みの種類ごとに相談先を決めておくと、ずっと気が楽になりました。

上手に相談するための3つのコツ

相談にもコツがあると、やってみて気づきました。

1つ目は、悩みを紙に書いてから話すこと。頭の中だけで考えていると、何に困っているのかが自分でもはっきりしません。書き出してみるだけで、相談する前に答えが見えてくることもあります。

2つ目は、「答え」ではなく「考え方」を聞くこと。「どうすればいいですか?」と聞くより、「あなたならどう考えますか?」と聞く方が、自分で判断するためのヒントをもらえます。最終的に決めるのは、やっぱり社長である自分ですから。

3つ目は、相談したら結果を報告すること。「あのときの話、こうなりました」と伝えると、相手も喜んでくれますし、次に相談しやすい関係になります。

社員に相談するようになって変わったこと

以前の私は、社員には迷っている姿を見せてはいけないと思っていました。でも、ある日思い切って、新しいサービスについて社員に意見を聞いてみたのです。

すると、現場を知っている社員ならではの意見がたくさん出てきました。私ひとりでは思いつかなかった改善点も見つかりました。

それ以来、大きな方針は自分で決めつつ、その前に社員の意見を聞くようにしています。社員からも「相談してもらえるとうれしい」と言われました。迷っている姿を見せることは、弱さではなく、信頼の表れでもあるのかもしれません。

相談するようになって、経営の何が変わったか

相談できる相手ができてから、会社にも私自身にも、いくつかの変化がありました。

一番大きかったのは、判断のスピードが上がったことです。以前は、ひとりで何日も悩んでいたことが、誰かに話すと1時間で方向が見えることがあります。自分では見えていなかった選択肢を、相手が示してくれるからです。

たとえば、取引先から大きな値下げを求められたとき。以前の私なら、関係が切れるのが怖くて、そのまま受けていたと思います。でも先輩経営者に相談すると、「値下げの代わりに、支払い条件や作業の範囲を見直す提案をしてみたら?」とアドバイスをもらいました。結果的に、お互いが納得できる形で話をまとめることができました。

次に、失敗を引きずらなくなったことも大きな変化です。うまくいかなかったことを誰かに話すと、「それはよくあることだよ」「うちも同じだった」と言ってもらえます。その一言で、次に進む気持ちになれるのです。

そして、夜、眠れるようになったこと。これは本当にありがたい変化でした。悩みがゼロになったわけではありませんが、「明日、あの人に相談してみよう」と思えるだけで、頭の中がずいぶん静かになります。

相談を受ける側にもなってみる

もうひとつ、意外な気づきがありました。それは、自分が相談を受ける側になると、自分の悩みも整理されるということです。

最近は、後から商工会に入ってきた若い経営者から相談を受けることも増えました。人の話を聞いて、自分の経験を話しているうちに、「あのとき自分はこう考えていたんだ」と、改めて気づくことがあります。

相談は、一方通行ではなく、お互いさま。そう考えると、相談することへのハードルも少し下がる気がします。

相談相手を見つけるための小さな一歩

「そうは言っても、相談できる人がいない」という方もいると思います。私もそうでした。そんな方には、次のような場所をおすすめします。

  • 地元の商工会や商工会議所の集まり
  • 同業者の勉強会や交流会
  • 顧問の税理士さんや社労士さんとの定期面談
  • 自治体などが行っている経営相談の窓口

私の場合は、月に1回の商工会の集まりに、とにかく顔を出し続けることから始めました。最初から深い話をする必要はありません。名刺交換をして、少し世間話をするだけでも十分です。何度か顔を合わせるうちに、自然と本音で話せる関係ができていきます。

今、ひとりで悩んでいる社長さんへ

経営者は孤独だとよく言われます。たしかに、最後に決めるのは自分です。その責任から逃げることはできません。

でも、決めるまでの過程まで、ひとりで背負う必要はないと、今の私は思っています。誰かに話すだけで、頭が整理され、気持ちが軽くなり、判断がぶれにくくなります。

もし今、夜も眠れないほど悩んでいることがあるなら、まずは誰かひとりに話してみてください。それが、会社を守るための一番の近道になるかもしれません。

このブログも、同じように悩む社長さんにとって、ほんの少しでも「自分だけじゃない」と思える場所になれたら嬉しいです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。