「社長、それ私がやりましょうか?」

何年も前、社員にそう言われたとき、私は反射的に「いいよ、自分でやるから」と答えていました。今思えば、あのひと言が会社の成長を止めていたのかもしれません。

先に結論を言います。小さな会社の社長にとって一番大事な仕事のひとつは、自分がいなくても回る仕事を増やすことです。そのためには「任せる」技術が欠かせません。

今日は、なんでも自分で抱え込んでいた私が、少しずつ仕事を任せられるようになるまでの話と、実際にやってみて効果があった「任せる3つのステップ」を書いてみます。

なんでも自分でやっていた頃の話

創業したばかりの頃は、営業も経理も現場も、全部自分でやるしかありませんでした。人を雇う余裕なんてありませんでしたから、それは仕方のないことです。

問題は、社員が増えてからも、そのやり方を変えられなかったことです。

見積もりは自分で作らないと不安。お客様への連絡も、自分が直接しないと気が済まない。社員が作った資料も、結局は自分で手直ししてしまう。朝から晩まで働いているのに、会社の売上はなかなか伸びませんでした。

ある日、手帳を見返して愕然としました。1週間のうち、「社長にしかできない仕事」に使っていた時間は、ほんのわずかだったのです。残りのほとんどは、本当は誰かに任せられる仕事でした。

任せられなかった本当の理由

なぜ任せられなかったのか。当時の自分を振り返ると、理由は3つありました。

  • 自分でやった方が早いと思っていた
  • 任せて失敗されるのが怖かった
  • 任せ方がわからなかった

1つ目の「自分でやった方が早い」は、その日だけを見れば正しいんです。でも、毎回自分がやっていたら、1年後も2年後も同じ仕事を自分が続けることになります。最初に教える時間は、未来の自分への投資だと気づくまでに、ずいぶん時間がかかりました。

2つ目の「失敗が怖い」は、裏を返せば社員を信頼していなかったということです。そして3つ目の「任せ方がわからない」が、実は一番大きな問題でした。

ステップ1:仕事を「見える化」する

最初にやったのは、自分がやっている仕事を全部書き出すことでした。

1週間、やった仕事を30分単位でメモしていきます。すると、「毎月の請求書作成」「備品の発注」「定例の報告書作り」など、毎回同じ手順でやっている仕事がたくさんあることがわかりました。

書き出した仕事は、次の3つに分けました。

  • 社長にしかできない仕事(経営判断、大口のお客様との関係づくりなど)
  • 教えれば誰でもできる仕事(定型の事務作業など)
  • 得意な人がやった方がいい仕事(パソコン作業、デザインなど)

2つ目と3つ目が、任せる候補です。私の場合、全体の6割ほどが任せられる仕事でした。

ステップ2:手順と「ゴール」をセットで渡す

任せる仕事が決まったら、次は渡し方です。ここで私は何度も失敗しました。

最初の頃は、「これ、やっておいて」と口頭で頼むだけでした。当然、できあがったものは自分のイメージと違います。そして「やっぱり自分でやった方が早い」に戻ってしまう。この繰り返しでした。

うまくいくようになったのは、手順とゴールをセットで渡すようにしてからです。

たとえば請求書なら、「毎月25日までに、この一覧を見て、このひな形で作る。完成したら私に一度見せてから送る」。ここまで具体的に伝えると、相手も迷わずに進められます。

手順は、紙1枚にまとめておくのがおすすめです。一度作っておけば、次に別の人に任せるときにも使えます。最初の1回だけは、隣で一緒にやってみせる。これだけで、その後の質問やミスがぐんと減りました。

ステップ3:口を出さずに「待つ」

実は、一番難しかったのがこのステップでした。

任せたはずなのに、途中で気になって口を出してしまう。やり方が自分と違うと、つい直したくなる。でも、それをやると社員は「どうせ社長が直すんだから」と考えるようになり、自分で工夫しなくなってしまいます。

私が決めたルールは、「ゴールが守られていれば、やり方には口を出さない」ことです。結果として、社員のやり方の方が効率的だったこともたくさんありました。

もちろん、ミスが起きることもあります。そのときは責めるのではなく、「次はどうすれば防げるか」を一緒に考えるようにしています。ミスを隠さずに報告してもらえる雰囲気の方が、会社にとってはずっと大切だからです。

任せてみて変わったこと

任せる仕事を少しずつ増やしていった結果、会社にはいくつかの変化がありました。

まず、私自身の時間が増えました。空いた時間で、新しいお客様への提案や、これからの事業の計画を考えられるようになりました。コロナ禍を乗り越えられたのも、この時間があったからだと思っています。

次に、社員の表情が変わりました。任された仕事に責任を持つようになり、「こうした方がいいと思います」と提案してくれることが増えたのです。

そして何より、私が体調を崩して数日休んだときも、会社はちゃんと回っていました。以前の私なら、考えられないことです。

「任せる相手」の選び方

どの仕事を誰に任せるか。これも、最初はかなり迷いました。

私が大事にしているのは、「できるかどうか」より「やりたいかどうか」で選ぶことです。経験が浅くても、興味を持って取り組んでくれる人の方が、結果的に早く上達します。

普段の会話の中で、「こういう仕事、やってみたい?」と聞いてみるのもおすすめです。意外な人が手を挙げてくれることもあります。実際、事務担当の社員にSNSの発信を任せてみたところ、私が書くよりずっと親しみやすい投稿をしてくれるようになりました。

また、1人に仕事を集中させないことも大切です。任せやすい人にばかり頼んでいると、その人が休んだときに、今度はその人がいないと回らない会社になってしまいます。同じ仕事を2人ができる状態をつくっておくと、お互いに休みも取りやすくなります。

任せるときに気をつけたいこと

最後に、任せるときの注意点も書いておきます。

1つ目は、いきなり大きな仕事を任せないこと。まずは失敗しても影響の小さい仕事から始めて、少しずつ範囲を広げていくのが安心です。

2つ目は、任せっぱなしにしないこと。任せることと放り出すことは違います。週に1回でも、進み具合を聞く時間をつくるだけで、社員は安心して仕事を進められます。

3つ目は、「ありがとう」を必ず伝えること。当たり前のことですが、忙しいとつい忘れがちです。感謝の言葉ひとつで、任された側のやる気は大きく変わります。

今、抱え込んでいる社長さんへ

「自分がやらないと会社が回らない」。そう感じている社長さんは多いと思います。私もずっとそうでした。

でも、それは裏を返せば、社長がいなくなったら会社が止まってしまうということです。小さな会社ほど、この状態はリスクが大きいと、今は痛いほど感じています。

任せることは、手放すことでも、楽をすることでもありません。社員を信じて、会社の未来に時間を使うための、社長の大事な仕事のひとつです。私もまだまだ勉強中ですが、「任せる」を覚えてから、経営がずっと前向きなものになりました。

まずは今週、自分の仕事を書き出してみてください。その中に、きっと「誰かに任せられる仕事」が見つかるはずです。1つ任せられたら、次の1つ。その積み重ねが、会社を少しずつ強くしてくれます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。