薄っぺら緩和ケア医 | 「あとは緩和」といわれたら

「あとは緩和」といわれたら

少量抗がん剤治療(がん休眠療法)で
元気に長生きを目指す ー

10年以上前の話になるか・・

進行がんに罹患した知人緩和ケア医がいた.

A医師としよう.

 

A医師は,非常に優秀な緩和ケア医で,当院の多くの患者さん

達もお世話になった.そのA医師の突然の進行がん罹患の話に

皆驚きで声を失った.

 

いずれにしても,がんが見つかった以上,手術,抗がん剤

治療,放射線治療・・と,ひと通りの初期治療が終了した後は

再発がないことを本人もまわりも祈るのみ.

 

初期治療後の経過観察中に,本人の希望で免疫療法の

1つである自家がんワクチン療法を再発予防目的に行った.

 

そして,5年が経過しがんは根治となった.

根治の報告を受けた時は,ホッとして思わずガッツポーズが

出た.そして,A医師は今も元気に診療を続けておられる.

 

さて,とある日の緩和ケアに携わる医師の集まる研究会で,

A医師の闘病体験記を拝聴する機会があった.会場には,

多くの緩和ケア医が参加していた.

 

日常で,多くのがん患者さんの診療に携わっているとはいえ,

実際にがんを経験した緩和ケア医の進行がん闘病体験を聴く

機会なんてそうあるものではない.

 

A医師は,淡々と壇上で自分の病状,その時時の心情などを

語っていき,自分の行ってきた治療内容も包み隠さず話を

進めていった.神社のお守りが沢山増えたこと等のユーモア

を交えた講演であった.

 

そうした講演後の質疑応答で,腫瘍内科医の太鼓持ち系・

緩和ケア医が発言する.

「いやー,でもやっぱりエビデンスのはっきりしない

 免疫療法を医者がやるってのは,どうなんですかねー」と,

暗に治療内容への否定コメント.

 

「自分の闘病体験を通して,免疫療法を他人にお勧めする

つもりも効果があったと言うつもりはありません.

実際自分も,免疫療法って効くのかなぁ・・と思っている

ところはありましたが,いざ自分ががんになったら,

神様含め,頼れそうなものは何でも頼りました.

それだけです.」と

冷静に質疑対応するA医師.

 

がんになれば,医師も一人の患者である.

患者として標準治療・エビデンス以外のなにかに頼ろうと

することのどこに問題があるというのだ?

 

そもそもエビデンスの集合体が臨床の最終形態ではない.

エビデンス,標準治療といった1つの側面から命やヒトの

価値観を論じようとする姿勢は危険である.

 

会場の他の医師がどのような心持ちでこのやり取りを

聞いたていたかは知る由もないが,少なくとも私は,

この薄っぺらい緩和ケア医にA医師の体験談をしたり顔で

批評されたくはないし,自分の患者さんには関わってほしい

とは一切思わない.