抗がん剤の効果が高まる時:6 | 「あとは緩和」といわれたら

「あとは緩和」といわれたら

少量抗がん剤治療(がん休眠療法)で
元気に長生きを目指す ー

6.分子標的剤の“多様性”

 

 標的剤は,サイトカインに依存して増殖するがん細胞に対して,そのプロセスのどこかを邪魔して増殖を止める薬である.

このことは,試験管内においては明確に示される.例えば,

サイトカインAはその表面にAが結合する分子(受容体:レセプ

ター)を持つ細胞に結合して細胞を刺激すると,細胞増殖する.しかし,別のサイトカインBはそこに結合できず細胞は増殖

しない.

 ところが,がん患者さんにおいて調べると,この関係は必ず

しも明確になっていない.患者さんのがん組織でサイトカインAの受容体を染色して,その程度とサイトカインAの阻害剤の治療効果を調べると,必ずしも平行しないのである.この不一致は

何故だろうか?

 

 ここで再び考えなければならないのは,がんをとりまく環境であろう.増殖のシグナルが適切に伝わったとしても,がん細胞が増殖できるためには,代謝的には酸素とブドウ糖の十分な補給があり,また増加細胞のためのスペースも確保される必要がある.

 

  こういう要素は実は化療剤がその標的とするところの,宿主細胞に依存する癌の生活環境に他ならない.実際のところ,患者さんのがん組織は1つの組織であって,分子標的剤のがんと化療剤のがんは混在して同じ生活環境の中にある.したがって,体内での分子標的剤の効果予測は化療剤の場合と同じく生活環境の

分析によって得られるものと思われる.

 

 

 

 

本書は)化療剤と分子標的剤の性格の違いから,がんの生育環境に注目,その多様性に配慮するがん化学療法を提案している.しかしながら,上に見たように分子標的剤もその体内での効果発現はがんの生育環境に支配されている,とするのが正しい理解のようである.

 そうであるならば,がんの治療は,すべてがんの多様な生育

環境を考慮したものになる.そして,それはがんの種類を超えたものになる.何故ならば,同じがんでも患者さんごとに有効な

抗がん剤が異なっていることが多く,それはがんの生育環境が個々人で異なっていることを意味している.

 

 今は,がんの種類ごとの抗がん剤治療が標準になっている

ので,今後はそこからの治療体系の変換が必要になる.患者さんごとの個別化治療が望まれて久しいが,これがそのきっかけに

なるかもしれないとも思う,どうであろうか?

 

(文責:片岡達治)