抗がん剤が販売に漕ぎつけるまでに,
第 I 相〜第 III 相の臨床試験をと
段階的にクリアしなくてはならないことは,
よく知られることではあるが,
実際,外科医としてメスを振るっていたときは,
第 III 相試験の論文以外に目を通すことは
殆ど無かったと言っていい.
外科医は第 III 相試験で得られた最終結論を
実臨床に取り入れるだけ,という感じ.
正直,薬の“安全性試験”である第 I 相試験なんぞ,
接点を全く感じることのない“別世界”の話であった.
ところが,少量抗癌剤治療なる,
変則治療に関わり始めてから,
第 I 相試験の論文にも目を向けるようになってきた.
内容の詳細は省くが,
第 I 相試験の最終的な目的は,第 II 相試験での
推奨用量を決定することにある.
最初は少ない用量の薬剤投与から開始し,
用量を段階的に増やしていき,
安全に使用できる至適薬剤量を決定し,
第 II 相試験に繋げていくための臨床試験だ.
だから,第 I 相試験では,一般的には
治療効果を見ることは目的にしていない.
ところが,こうした第 I 相試験の論文を
いくつか読んでいると,あることに気がつく.
前述したように,
第 I 相試験なので,治療効果を見ることを
目的とはしていないため,
詳細には書いていないのだが,
論文中の何処かに必ず,
サラリと治療効果についての記載がある.
しかしながら,そのサラリと書かれた,
一見,見逃しそうになる所に,
「アレレ?」という情報が入っている.
結論から言うと,
『薬剤を増量していく途中の段階から,
治療効果のある症例が散見されている』のだ.
例えば,以下のような37人のがん患者を対象とした
ラムシルマブ(サイラムザ®)の第 I 相試験の論文がある.
Jeniffer L. et. al. J Clin Oncol. 2010; 28: 780-787.
本論文では,最終的にラムシルマブの至適投与量を
8mg/kgと結論づけてあるが,
一方で,論文中の
“Anticancer Activity”の項目のところで,
推奨量8mg/kgの
1/4量,2mg/kgで3例の不変症例,
1/2量,4mg/kgで2例の奏功,1例の不変症例が
観察されたとの記載がある.
第 I 相試験故に,副作用がでなければ
投与量を増量していくことになるのは,
その臨床試験の目的・性格上,仕方がないことではあるが,
ここで,ふと考えてみる.
2mg/kgでSD=疾患制御が可能であった患者さんは,
これが臨床試験でなければ,1/4量の2mg/kgが,
この患者さんに適した薬剤投与量ではないだろうか?
せっかく,この量で副作用無く,
がんが抑えられているのであれば,
2mg/kgがこの患者さんに適した投与量で,
わざわざ増量する必要はないのではないか?
臨床試験ではなく,
実臨床の個人の治療とした場合,
2mg/kgで治療を行うことになんら問題はないのではないか?
類似した現象・内容は,この分子標的治療薬に限らず,
他の制がん剤(殺細胞薬含む)の
第 I 相試験の論文を見ても同様に散見され,確認できる.
つまり,推奨用量よりも
少ない投与量でがん制御が得られることは,
決して作り話でも珍しい話でも無く,
昔から今に至る臨床試験の中で,
当たり前のように観察されてきていた
確固たる“事実”だったのだ.
「少ない量では効かない」と言われている抗がん剤.
少ない投与量でも効いている患者さんは,
昔から,間違いなく存在し,第 I 相試験の論文中に
観察事実として散見される.
この事実は,ある意味,個々の患者さんに合わせて
抗がん剤投与量を調節することを
正当化していいとも捉えられるはずである.
というわけで,
最近は,当院の治療ではクソの役にも立たない,
エビデンスレベル・バリバリの第 III 相試験の論文よりも,
第 I 相試験の論文の方が,味わい深〜く感じる次第である.
(^_^)