幻想雪恋歌 5 | The Lilies And Roses

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自由にのんびりと書きたいお話を載せていきたいと思います。
Laylaの完全自己満足&文章力UPの為の修行場です(´∀`)




「……………………もういい。来い――…。」

そう言われて敦賀さんに包み込まれるように抱き締められた瞬間、私の胸は締め付けられる程に愛おしくて…切ない想いが込み上げてきた。

敦賀さんの…胸の中に…今…私いるのね――…。

忘れかけていた貴方の温もりに心が…そして身体が悦びを感じる。

まるでそれを確かめるかのように貴方の背中にしっかりと腕を回す。

美しい東京の夜景が一望出来るリビングの大窓に…まるで鏡のように映るカインと雪花。

兄さんの逞しい胸に頬を付けた状態で、感激に浸りながらぼんやりとその姿を私は見つめていた。

鏡のように映っている筈のその姿がはっきりと見えないのは、自分の瞳から涙が滲んでいた所為だったのだけど…それに気付くのに私は少し時間が掛かった。


…そうだったわ……。

ここに今いる“アタシ”は“雪花”

…そして…

“アタシ”を大切に抱き締めているのは

彼女の愛しい“カイン兄さん”――…。



幻想雪恋歌 5 ~TRAGIC LOVE~

「…………兄さん…………。」

自分の瞳から涙が収まった後、ゆっくりと顔を上げて甘い声で囁くようにそう言った。

お互い抱き締め合った状態で雪花がカインの瞳をじっと見つめながら機嫌を伺う。

…こんなに近くで…敦賀さんの顔をじっと見つめるのも…久し振り――…。

「…ごめんね兄さん、遅くなっちゃって。ふふふ…でも…見て?このパープルピンクのルージュ、新色なのよ…?」

本当は心が落ち着かなくて…あたふたしているうちに気が付けばゲストルームで30分程時間が経ってしまっていたんだけれど…私はそれ誤魔化すように雪花としてそう応えた。

「……どう…似合うかしら…?」

自慢げに雪花としてそう言いながらカインの瞳に艶っぽく微笑み掛けてみる。すると…彼の機嫌が直ぐに良くなっていくのが判った。

「………………………。あぁ…とても良く似合ってる――…。」

雪花の頬に静かに右手を添えると、カインはそっと優しく親指でその唇をなぞり…静かに瞳を閉じた。

そして5秒程経ち…カインは瞳をゆっくりと開くと、今度は雪花の唇をまるで食い入るかのようにじっと見つめ続ける。

伏せられた貴方の長い睫毛と…滲み出るその艶やかな妖しい色香に私の心臓の鼓動は跳ね上がっていく。

カインから漂う煙草の甘い香りにも溺れそうになる。



そんなカインに対し、雪花としてどう対応したらいいのか…私は戸惑いを感じながらも瞳を逸らせずにいると、敦賀さんの瞳は憂いたような…切ない表情へと変わっていった。

「………………? 兄さん…?」

狂いそうな程に愛おしくて…切ない目線で雪花の事を見つめながら自分の頬と唇をそっと優しく撫でていく貴方の姿に、眩暈がしそうな不思議な感覚に私は陥っていく。

…………敦賀さん……?

「………………………。」

そして…雪花を優しく撫でていたカインの指先が私の顎を抑えた状態で、その動きは静かに止まった。

…え……? う…そ……。

優雅な仕草でカインは自分の顔を少し斜めに傾けると、ゆっくり…ゆっくり…と、まるでスローモーションのように雪花である私の唇に自分の顔を近付けていく。

…このまま…キス…される……?

どうしていいか分からなくなり、動揺した私はきつく瞳を閉じてしまった。全身の血がまるで沸騰するかのように熱く感じられてくる。

…ど…どうしよう――…!!



* * *



しかし瞳を瞑って待っていても…自分の唇に蓮の唇が合わさる様な感触は無かった。

不思議に思った私は恐る恐るゆっくりと瞳を開こうとした瞬間、自分の左頬に衝撃が走った。

「…いっ……いた…い…!!いたい…にいさっ」

カインが雪花の左頬をむぎゅっと引っ張っていたからだった。

「もう…!!痛いじゃない…何するのよ兄さん…!!」

「……………………。俺を30分もほったらかしにした罰だ…。」

悪戯が成功したカインは満足気な表情で妖しく微笑みながら私の額をつん…と優しく人差し指で突いた。

「…兄さんったら…///さっきごめんって謝ったのに…。」

何とか雪花の仮面を被り続けているものの、私の心臓の高鳴りは収まる気配が無い。

「あ…でも…もう9時過ぎちゃってるのね。今からすぐにご飯作るわね」

「………腹減ってないからいい…。」

カインはふいっと目を逸らすとジャケットから煙草とジッポを取り出し、火を点けようとしたが…雪花である私はそれを取り上げた。

「もうっ…!!ダメよ兄さん!煙草とお酒ばかりじゃ……!それはご飯じゃないんだから…!」

「今からアタシが食べやすいご飯作るから、ちゃんとそれ食べるのよ!!」

そう言うと私は敦賀さんから離れてキッチンの方へと向かって行った。

その私の後ろ姿を…愛しくて堪らない表情で貴方はじっと見つめていたらしいけれど、当時の私は全く気付かなかった。







リビングから繋がるキッチンへと入った私は、まだ先程のカインの行動に…動揺が収まらずにいた。

敦賀さんに動揺している事を見破られないように、あの人から顔が見えない位置で料理の準備を進めていく。



…もう……////

キスされるって思ったの…私の勘違いだったのね……。

恥ずかしくて堪らないわ――…!!



だけど…敦賀さんは…私とのラブシーンの事…一体どう考えているのかしら……?

その…一応…私の事を…“好き”って言ってくれてる訳で――…。



「………………………。」

私…こんな様子でこの先ちゃんと演っていけるのかな………。

…さっきの私…、絶対敦賀さんに変に思われた――…。

不安と緊張で薄らと瞳に涙が浮かべながらも…私は食材を包丁で切っていった。





そして鍋でスープを煮込み、もうすぐ料理も出来上がる…という頃になると、リビングの方からギターの音が響き始めた。

歪(ひず)んだ音質のギターコード和音が、激しい速さでリズムに乗って刻まれていく――…。

リビングの方に目を向けてみると、敦賀さんが煙草を咥えながらソファーの上でギターを弾いていた。

その優雅な姿と…華麗なギターテクニックに私は思わず見とれて…そのまま聴き入ってしまった。

複雑な16ビートのリズムを巧みに刻みながら進んでいったパンクロックの曲はギターソロに入っていく――…。

「………………………!」



敦賀さん…ギター凄く上手だわ……!!

コード弾きのリズム感から

一本弾き…ギターソロのテクニックまで――…!

ショータローの傍にいたから…エレキギターのテクニックなら少しは知ってる。



大きな敦賀さんの手――…。

滑らかで丁寧な指運び……。

そして…激しいギターソロの中にどこか感じる優しい旋律――…。



性格が出るものなのね…。

ギターソロひとつにしてもはっきりとした綺麗な音…!

ミスがほとんど無く…安定したリズム感――…。

速さで誤魔化すんじゃない…しっかりとしたテクニック――…。


敦賀さんのギターを弾く姿にうっとりとして、顔を紅く染めながら…そのまま目を離せずに一曲聴き終えてしまった。

その後も…敦賀さんは煙草の灰を落としてから、続けてギターを華麗に鳴り響かせていく。

「…かっこいい……////」

「しかもヤバい…。もの凄くセクシーかも…。煙草咥えながらギター弾いちゃうカイン兄さんとか…。」

「………………………////」

「狡いですよ…敦賀さん……。何をしてもそんなに決まっちゃうなんて……。」

小さな声で私はそう呟いた後、煮込んでいたスープの鍋の火を止めた。



…あれの一体どこが“多少は弾ける”なんですか……?

…敦賀さん……?

めちゃくちゃギター上手じゃないですか――…。


* * *


「…………セツ。なに今更…見とれてるんだ……?」

私の視線をずっと感じ取っていたのか…兄さんは得意気な表情で雪花に向かって話し掛ける。

うわぁ…。どうしよう…凄いドキドキする…/////

「…ふふふ…相変わらず兄さんのギターは最高ね…!大好きよ…。」

「……………………。こっちに来い…セツ」

カインは優しく雪花に微笑みかけると、一枚のCDを掛け始めた。

一本のギター和音から始まったその曲は5小節目からベースとドラムが入り、重低音をリビングに響かせていく。



「…あ……!アタシこの曲知ってる…。“r.o.s.e” よね…?歌詞は曖昧だけど…」

雪花としてそう言うと、カインは私にその曲の歌詞カードを差し出した。

「……………歌ってみろ」

貴方は得意気な表情で私に歌詞カードを手渡した後、CDの曲に合わせてギターを弾き始めた。

敦賀さんのギターテクニックを間近で見ながら…私は雪花の役をしっかりと憑けていく――…。



“アタシは歌う事が大好き――…。”

“兄さんが奏でるギターに合わせて――…。”





「............When I was darkness at that time..........」

私は雪花として歌い始めた。普段から時間のある時にLMEで演技の稽古と同時に歌のレッスンもしている事もあり、伸びやかに歌声がリビングに響いていく。

声質は雪花のイメージに合わせて少しハスキーな雰囲気。

雪花が歌えば…それに合わせてカインのギターの演奏にも熱が込められていく。


「....I need your love....... I'm a broken rose........」

どうしよう…凄く…気持ちが良くて…楽しい――…!!

それに…敦賀さんのギターだと…とても歌いやすいかも――…。



ギターを弾いているカインさんと目線を合わせて

歌いながら愛しい兄さんに触れていくの――…。

この華麗なギターの音は…“アタシ”だけのモノよ――…。



まるで…今この世にはカインと雪花の2人だけしか存在していないかのように、お互い瞳のみで愛を語りながら曲を合わせていく敦賀さんと私。


…もう…このまま時が止まってしまえばいいのに――…。

敦賀さん…好きです――…。

もう…言葉では言い表せない程に貴方の事が――…。


だけど…物語の前半は…雪花もそんな想いを抱きながらも、実の兄妹であるカイン兄さんには伝えられなくて苦しむのよね……。

…今…ここで雪花の切ない恋心と…

私の心の中に秘めた想いが…重なっていく――…。


「.....I was a broken rose.....I wanna need your love......」

雪花の役が完全に憑依した私は…この後も敦賀さんのギターに合わせてそのまま3曲歌い続けた。



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曲のイメージは土.屋.ア.ン.ナさんの「r.o.s.e」です( ´艸`)