中には”リックの死”に対して重たくて辛い部分も出て来ます。
最愛の恋人を突然失ってしまったティナの悲痛な想いも、客観的に優しい目で見守っていて頂ければ…と思います。
憎かった――…。
リックが死ぬ羽目になった…
その”原因”を作った久遠が憎くて――…。
ただひたすらに彼を恨んだ…。
”リックの代わりにアンタが死ねばよかったのに”…と
嘆いた事もあった――…。
それくらい…リックは私にとっての全てで…
”最愛の人”だったの…。
だって…。 だって…私達……
”結婚の約束”をしたばかりだった――…。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
次の日のお昼過ぎ…久遠はキョーコをユリアを連れて…リックのお墓へ向かう事にした。
先にリックの両親に挨拶をしに行こうかどうか少し悩んだ久遠だったが、クーが言うには最近リックの両親は2人とも仕事でかなり忙しいらしい。
有名な一流IT企業の経営している彼らが…このハリウッド内の自宅に戻って来るのは夜遅くになる。
「…それでは父さん…母さん…行って来ます――…。」
「あぁ…久遠。運転手のジョーンに案内するように伝えておいたから…。詳しい墓の場所まで彼は知っているからな…。」
『Then, we're off ! ! ぐらんぱー!ぐらんまー!』(じゃあ行って来ます)
「ふふふ…ゆりあちゃんは本当に英語上手ね!キョーコ?」
クーとジュリエナは3人の頬に挨拶のキスをしてぎゅっと抱き締めた。
「はい////…いつアメリカに移住しても大丈夫なように赤ちゃんの頃から教えて来たので…。それでは行って来ますね…!」
キョーコは綺麗なお辞儀をした後にユリアの手を引いて…久遠と一緒に玄関を出て行った。
その様子をジュリエナはとても心配そうに見つめていた…。
「…………………。大丈夫かしら…久遠…?私達も一緒に付いていった方が……。」
するとクーはジュリエナを優しくそっと抱き締めて耳元で囁いた…。
「…大丈夫だよ…ジュリ…。キョーコがついているし…。」
「それに―――――――したから…。」
「え……………?それ…本当なの……?」
「あぁ…ジュリ…。だから…俺達は静かに様子を見守ろう――…?」
「えぇ…。そうね……。」
大丈夫…今の久遠ならきっと乗り越える事が出来る――…。
クーはそう心の中で思いながら…ジュリエナの腰に手を回し、ゆっくりとリビングの方へと戻っていった。2人とも今日の仕事はオフである。
* *
「ふふふ…キレイなキレイなあおい こーんの石~~♪」
リックの墓へと車で向かっている途中、ユリアはコーンの石で遊んでいた。
「ちょっと…ゆりちゃん…!その石はパパとママのとっっても大切な石だから…そろそろ返してくれる…?」
『 Noooo ! ! ....This is mine....! ! 』
ユリアはリックと久遠の”親友の証”であるコーンの碧い石が昔から大のお気に入りで…1度 手にしてしまうとなかなか放そうとはしなかった。
「こっちの花束持たせてあげるから…ね?綺麗でしょ…」
キョーコはジュリエナが今日の為に用意してくれた綺麗な花束をユリアに渡そうとした。
「お花もキレイだけど ゆりはこの”こーんの石”がいいのー!」
「もう……!じゃあ失くさないように…大切にしっかりと持っていてね…」
「はぁーーい!!」
ユリアは屈託の無い笑顔でそう言った。笑うと本当に久遠の幼い頃にうり2つで、違うのは薄茶色の瞳と…長く伸びた金髪の長さくらいだった。
そして車に乗って約20分が過ぎた頃、リックが眠っている墓地の駐車場へと到着した。
太陽は曇に覆われていて…その姿はあまりよく見えない天気だった。
(いよいよだ――…。遂に…この時が…やって来た――…。)
ドクン… ドクン…
ドクン… ドクン…
久遠の心臓の鼓動はどんどんと高鳴っていった…。また、彼は無意識にリックの腕時計をぎゅっと掴んでいた――…。
「…大丈夫よ…久遠さん…。私がついていますから――…。」
車から降りた後…顔色が良くない久遠をキョーコはそっと抱き締めた。
「………………………。ありがとうキョーコ…うん…俺は大丈夫だよ――…。」
キョーコの気遣いと優しさを感じ取った久遠は…彼女を強く…強く抱き締め返した…。すると不思議と緊張が少しずつ解れていくのを感じた。
「あぁーーー!! むぅーー!ずるい…パパとママばっかりぃーー!ゆりあもーー!ゆりあもだっこーー!」
久遠の膝の下で何回も必死になってジャンプしながらユリアはそう訴えた。
「ふふ…////はいはい…かしこまりました…小さなお姫様――…。」
久遠はユリアを宝物のように大切に抱き上げて、優しい笑みを浮かべた。
「へへ…パパーー!」
「…ん……?」
「パパだいすきーー!!」
ユリアはそう言うと可愛い笑顔で嬉しそうに彼の首にしがみ付き…そして久遠の心は自然と落ち着いていった…。
「…それでは…こちらの方になります――…。」
リックの墓のある場所へと運転手に案内されて…3人は綺麗な芝生が生えている緩やかな丘を登っていった。
十字架の石で造られたお墓が沢山並んでいる場所を進んで行き…そして遂にリックの墓へとたどり着いた。
墓石にはRick(リック)の本名である”Richard”(リチャード)と苗字、生きていた時の年号、その下には”R.I.P”(安らかな眠りを)と彫られてあった。
「………………………。リック………久し振り…」
(…13年――…。 気が付けば…13年も掛かってしまった――…。)
「…やっと……。やっと帰って来たよ……。”久遠・ヒズリ”として…このアメリカの地に――…。」
「……………………………………。」
キョーコは何も言う事が出来ずに…ただ涙ぐみながら…久遠の手をしっかりと握っていた…。
「…紹介するよ…リック…。彼女は俺の…”最愛の妻”のキョーコ…。」
「お前との”親友の証”の石を渡した…あの”キョーコちゃん”だよ…。日本で再会したんだ…俺達――…。」
「…今思えば…再会出来た(彼女だと気付いた)切欠も…あの石のおかげだった…。キョーコがLMEに入ったばかりの頃…彼女は階段からコーンの石を落として…それを偶然俺が拾ったから…。」
(…リック――…。もしかして…お前が引き会わせてくれた…?)
「…リック……。お前が…昔言っていた事は…正しかったよ…。」
「…俺は……自覚していなかっただけで…本当は”キョーコちゃん”に惚れていたんだ…。あの時――…。」
”へぇ…?あれだけ大切に…
「お守り」のようにしていた石を彼女にあげて
…全く後悔していないんだ…?”
”………お前…。もしかして……。”
”惚れたんだろ…?その「キョーコちゃん」って子に…?”
「そして…この子は俺らの可愛い娘の…ユリアだよ…。」
久遠は自分の方に向けて抱いていたユリアの身体を、お墓の方に向かせて…リックに彼女を紹介した。
「……?? パパー? だれとおしゃべりしてるの~?」
まだ3歳と…幼いユリアには”お墓”と”死”の意味が理解出来ない。
「…………………。パパの…大切な”お友達”とだよ――…。」
「ふぅん…??」
どこにその”おともだち”は いるの…?
そうユリアは心の中で不思議に思いながらも…空が晴れて太陽の姿が見えて来た事の方に興味がいき…握り締めていた石を空にかざした。
「…ふふっ…!!こーんのまほうーー!!むらしゃき(紫)いろーー!キレイキレイー!みてーー」
無邪気に はしゃぐユリアの姿に…久遠は自然と心が癒され、また…13年という時の流れを感じた――…。
「………………クス。俺の幼い頃にそっくりだろう…?リック――…。」
「…今まで色々あったけど…これからは…前向きに生きていくから…。だから…お前も…ここから静かに見守っていてくれるよな…?」
「………………………。ティナにも…近いうちに会いに行こうと思ってる――…。」
「今…彼女が何をどう考えて生きているのかは分からないけれど…俺達には話し合いが必要だと思ってるから…。」
すると…突然風が吹き、近くに生えている木々の葉が揺れ出した。久遠の金髪も風に揺られて美しくなびいた。
「…俺達の事を心配してくれているの…?リック…。ありがとう…。」
(俺ならもう大丈夫――…。
この先…何があっても…
乗り越えていく”勇気”を持つ事が出来たし
それに…守るべき家族の存在が…俺を強くしてくれるから――…。)
久遠は瞳を閉じて心の中でそう彼に語りかけた後…穏やかに微笑んだ。
「リックさん…。久遠さんの事は私に任せて…安らかに…お眠り下さいね――…。」
キョーコは持っていた花束をそっとお墓の前に置いた後、静かに手を合わせた。
「…じゃあ ゆりちゃんも一緒にパパとお祈りしようか――…。」
久遠はユリアを降ろし、お墓の前で指を組むように促し…久遠が祈り始めると、ユリアも見よう見真似で静かに祈った。
そして祈りも終わり、何となくその場から動く気になれなくて暫くゆったりと緑の絨毯が続く景色を眺めていると、遠くの方から人が歩いて来るのが見えた。
まさか…と思いつつも、その姿を見た瞬間から久遠はどこかで確信していた――…。
13年経っていても…その姿は…昔の面影がしっかりと残っている…。
(…ティナだ――…。
…ティナが…こっちに向かって歩いて来ている――…。)
リックの腕時計の針は…
止まっていた”時”と同刻の
”2時13分”を間もなく指そうとしていた――…。
スキビ☆ランキング
*補足* アメリカ人は”愛称”で呼び合う事が多いです。
本編ではリックの本名は出てきていませんが、
Rick(リック)、Ricky(リッキー)という愛称の本名は”Richard”(リチャード)です。
(*他の例* マイケル→マイク・マイキー)