スウェーデンから帰国した後、無理して休みを取っていた為 俺のスケジュールはぎっしりと深夜まで詰まっていて…
次にキョーコと会えたのはそれから約一週間後だった。
俺の家にご飯を作りに来てくれて…2人で一緒にまたオムライスを作って食べた。
俺が…また味わいたかったから…。あの時の”幸せな味”を もう一度――…。
だけど…久し振りに会えた事が俺は凄く嬉しくて堪らないのに…何だかキョーコはとても緊張して固まっていた――…。
「…どうしたの…キョーコ…ずっと緊張して…?何かあったの?」
『あ…い…いえっ…何ていいますか…その”敦賀蓮”スタイルだと…どう接していいのか…なんだか緊張してしまってですね…////』
「……………………………。」
俯きながら…顔を真っ赤に染めて…恥じらいながらそんな事言うの…?キョーコ…。もう…今すぐ…抱きたくなるじゃないか――…。
蓮は愛おしくて堪らない表情でキョーコを見つめた後、軽く彼女の唇にキスをして微笑んだ。
『……………//////』
「…キョーコに見せたい物があるんだ…おいで…?」
蓮はそう言うとキョーコをお姫様抱っこして、ゲストルームの方へ歩き始めた。
『えっええ…ちょっと…つつ敦賀さん……?!』
「……………。」
「”久遠”か”蓮”って呼んでよ…キョーコ――…。」
そして蓮はキョーコを大切に抱きかかえたまま例の”お姫様ベッド”の天蓋カーテンを開いてそこに彼女を静かに座らせ、自分も隣に腰を下ろした。
『…あの…このベッド…』
「うん…。覚えてる…?カインとセツカの時にキョーコが見とれていたベッド…。」
「…あの時…つい…内緒で買ってしまったんだ…。キョーコに使って欲しいなって思って――…。」
セツカの仮面が一瞬 剥がれるくらい…君はあの時このベッドに夢中になっていたから――…。
『…内緒で…ですか…?』
「うん。どう…気に入ってくれた…?」
『え…?あ…。はい…』
ん…?その割には反応がイマイチだな…。もっと驚いて喜んでくれると思っていたのに…。
「…微妙だった…?」
『いっいえ…そうではなくてですね…あ…あの………。実は…私も内緒にしていた事があるんです…。』
「…え…?何…?」
『私…実はこのベッドが…ここにある事 知っていました…。』
キョーコは少し言いにくそうに、俯きながらぼそぼそと喋り始めた。
『…敦賀さんが…高熱を出した時…お粥を作りにこの家にお邪魔して…その時に見ちゃいました…。』
『…私の為に用意してくれたベッドだったんですね…。嬉しいです…とても…! ありがとうございます…////』
キョーコは少し照れながら微笑み、そして蓮も安心したように笑顔を見せ…横に座っている彼女の髪をそっと梳き始めた。
「あの時…俺は熟睡していて君が来てくれた事には気付けなかったんだけど…お粥はとても美味しかったよ…ありがとう」
本当に…あのお粥のおかげで…俺の身体は直ぐに元気になった――…。
「…そうそう…それで…あの時 とても”幸せな夢”を見たんだ…!」
『え…?”幸せな夢”ですか…?』
「うん…。君が…涙を流しながら…俺の事”好き”って言ってくれて…キスしてくれた夢。」
『えっ…っえええっ…あっ…あのっっ/////』
その言葉を聞いた瞬間、キョーコは顔を真っ赤に染めて慌て出した。
ん…?何…この慌てたような反応――? ま…まさか―…?
「………………………。」
「え…何…?もしかして…夢じゃなくて…現実だったの…?」
『………………………///////』
『…すすす…すみません…!!あっあの…///////////』
キョーコは真っ赤にした顔を隠すように…自分の両手で顔を覆って俯いた。
…もう――…。本当にこの子は―――…!!
蓮は感激して…キョーコを ぎゅっと…ぎゅっと力強く抱き締めた。
「ねぇキョーコ…もう俺 耐えられない…。抱かせて…?…またキョーコとたっぷり愛し合いたい――…。」
本当に…一体君は何処まで俺を虜にするの――…?
キョーコは相変わらず顔を真っ赤にしたまま、静かにコクンと頷いた。
「…ありがとうキョーコ…。優しくするから――…。」
蓮はゆっくりとキョーコをお姫様ベッドに寝かせ、そして…2人の甘い…幸せな愛の時間が始まった――…。
また…愛し合った後も 蓮はキョーコを離す事が出来なくて…暫くは生まれた姿のままシーツに包まって…
腕枕をしながら抱き締めるように…キョーコの頭をずっと撫でていた…。
* * *
その後 2人はお風呂に入り、リビングのソファーでゆったりとした時間を過ごしていた。
『そういえば…カインとセツカで過ごしていた時、コンタクトはどうしていたんですか…?』
蓮はキョーコを自分の膝の間に座らせて、後ろから抱き締めたままキョーコの耳元で囁くように口を開いた。
「あ…それが…実は結構大変だったんだよね…。そのまま寝ちゃった時もあったし」
『えぇ…!それは良くないですよ…。目に悪いです…!唯でさえ着けている時間が長いのに…』
キョーコはそう言うと自分の身体を横向きにして、蓮の瞳を じーっと見つめ始めた。
「ん…?何…キョーコ…どうしたの…?」
『これから私と2人でこの家に居る時は…目を休める為に外して下さい…!』
キョーコは蓮の膝から降りて、彼の腕を引っ張りソファーから立たせた。
『さぁ…早く!』
「え…?今…?」
『はい!そうです…!』
そうして…キョーコの気遣いで、今後 俺の家で2人で過ごす時は…コンタクトを外す事にした。
『ふふふ…”コーン”の瞳だぁ…!』
しかしそれが切欠で…また ”Hidden Enemy(見えざる敵)”にこれから悩まされる事になるとは…この時 俺は思ってもみなかった――…。
『…またコーンに代わってもらえますか…?』
キョーコの甘えた可愛い”おねだり”が嬉しくて…俺は特に深い事は考えずに、その後も偶に”妖精コーン”を演じて楽しんでいた。
そして数ヶ月が経ち…”敦賀蓮”といる時は”先輩”という意識がどこか強いのか”対等”ではないな…という事に少し違和感を俺が覚え始めた頃――…。
”コーン”をまた彼女の前で演じていて…その時にふと思った。
何だか…コーンの前ではやけに自然体でリラックスしていて…楽しそうにしているな…って。
言葉も敬語じゃないし…ありのままに遠慮せず色々とわがまま言って…甘えてくれるし。
(”俺”にはコーンに代わってという時以外は…そんなに自然に甘えてくれない)
普段も敬語は必要ないよって言っているのに…”俺”に対しては今だにそうだし…。
何か…何でまた俺がコーンに嫉妬しないといけないんだ…?
正直な所…その”対等”っぽい距離がとても羨ましい――…。
更に…彼女は”妖精コーン”は実在していて、たまに俺の身体に降りてくると信じ込んでいる事が最近分かった。
あの神秘的なオーロラを見た時に…そのオーロラの中に妖精の国があって、俺の身体に”妖精コーン”が降臨して来た…という事らしい…。
彼女曰く…俺が”神のチョウジ”だから…そうなったらしいんだけど…。
忘れていたその言葉の意味を携帯で調べてみて…俺はその漢字を見て驚いた。
”神の寵児”
”寵” 可愛がられる・気に入られる・(寵愛)
”児” 子ども
――”神”に”可愛がられる” ”愛されている” ”子”――…??
…ねえキョーコ…君は…一体”俺”の事 何者だと思っているの…?
まぁ…そんなメルヘン的な所も可愛いんだけどね…。
だけど…コーンと同じ位…俺も君とは”対等”な関係になりたい――…。
ライバルが自分って…。
何でコーンにまた嫉妬しなきゃならないんだ…?
一体どこまで”コーン”は ”見えざる敵”なんだ…俺にとって――…!
その後も…”見えざる敵”と暫く戦う羽目になった蓮であったが…それでも幸せな日々は続いた――…。
* * *
そして…それから数年後――…。
都内のあるプラネタリウム近くの公園で…
仲良く遊ぶ走り回って親子3人組の姿があった――…。
『ぱーぱーー!!』
「ゆりちゃん…ここまでおいでーー!パパが抱っこしてあげるから」
『じゃあ…ゆりあちゃん…ママとどっちが速いか勝負しようかー?』
『準備はいーい? よーい…ドン!』
『きゃーーーーー!!ぱーぱー!!』
「ゆりちゃんの勝ちだねー!それ抱っこーー!!」
『きゃはははーーーー!!!』
蓮とキョーコはあの時デートで買ったお揃いの指輪を着けて…思い出のこの公園で親子3人 楽しい一時を過ごした――…。
特にこの時…蓮は自分があの時に願っていた夢が叶って…とても感動して胸が一杯になっていた…。
そして…遂に”クオン・ヒズリ”としてハリウッド映画出演が決まり、来月にはアメリカへ家族で引っ越す事になった。
『…アメリカへ渡ったら、まずリックさんのお墓に行きましょう…?』
そう蓮に話をしながらキョーコは…ずっと時が止まっていたままになっていた”リックの腕時計”を蓮に内緒で修理に出していて…
止まっていた時間は完全に動き始めた――…。
【第1部 完】
スキビ☆ランキング
* * *
ここで第1部は終了です。
2部はアメリカ・リックとティナ編になります。
35話までお付き合い頂きありがとうございました。