『・・・・・・・・・コーン!!』
「・・・・・・・・・キョーコちゃん・・」
コーンである俺に…思わず抱き付いて来てくれた君――…。
久し振りに感じる…柔らかな君の温もり――…。
君は感情が高ぶって…涙が次から次へと溢れ出てきて…止まらなかったね…。
暫くの間…俺は彼女を抱き締めたまま…そっと背中を優しく擦っていた…。
その後…涙が止まって落ち着いてきた君は…”コーン”である俺の顔をじっと見つめて…髪を撫で始めた。
『…本当に…コーンなのね…?この輝くような金髪と…そして…この瞳の色……!』
優しく微笑みながら俺の髪を撫で続けてくれた君…。
『…嬉しいわ…ずっと…ずっと私はもう一度貴方に会いたいと思っていたから…。』
君のその言葉が嬉しくて…自然と俺の口元が緩む――…。
「俺もだよ…。キョーコちゃん…。手帳に…俺へのメッセージ沢山書いてくれてありがとう」
『…あ…うん。でもアレは今考えるとかなり恥ずかしい内容だから…ちょっと…忘れて…欲しい…かな…/////』
そう言うと…君は恥ずかしそうに…顔を真っ赤にしていた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?!』
そして…そのまま暫くすると…君の瞳が見開いて…動きが止まった…。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
『…え…?なんで…?…どういう事……?』
とうとう最上さんは…”俺”の正体に気付き始めたようだ――…。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・。つるが・・・さ・・ん・・・?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
俺は…そっと彼女を抱き締めていた腕を放して…ソファーの方へと歩き始めた。
「…キョーコちゃん…こっちにおいで…座って…。君に…しっかりと伝えたい事が沢山あるんだ――…。」
固まって…動けなくなった彼女の手を引っ張って暖炉の傍のソファーに座らせて…俺も彼女の横に座った。
…先ほどまで沈み掛けていた太陽は完全に姿を隠し、窓の外はすっかり暗くなっていた――…。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
『・・・・・・・・・・・・敦賀さん・・?敦賀さんですよね・・・?』
『・・・・・・敦賀さんが・・・コーン・・・?・・・え・・・?』
「・・・・・・・うん・・・・・そうだよ・・・・今まで黙っていてごめんね・・・。言えない事情があったんだ・・・。」
…とうとう…本当に話す時がやって来た……。最上さん…どうか…俺を拒絶しないで――…。
「…まず何から話そうか……。」
俺は…そっと静かに深呼吸をして…話をし始めた。
「…11年前の…蒸し暑いあの日…京都の小川で俺は泣いている君に出会った…。…君は…俺の姿を見て…”妖精”と勘違いしたけどね…」
『・・・・・・・・・・・・・・・・うそ・・・!』
そう…今思えば…あの頃が俺の初恋だったもかもしれない…。
結局…いつでも俺が”恋”をするのは…”君だけ”なんだ――…。
『…コーンは…妖精じゃない…の…?』
「…ごめんね…?あの時は…妖精を演じていたんだ――…」
君の心の支えだったコーンが俺だった事を知っても…君はそれを…受け入れてくれる…?
「俺の…本名はクオン…クオン・ヒズリっていうんだ…。幼い頃の君は…”クオン”の発音が聞き取れなくて…俺の事を”コーン”って呼んでいたけど」
本当の…”俺自身”を見て…接してくれた…幼い頃の君…。
『・・・・・・・・・クオンって・・・まさか・・・』
「そう…。俺の父親はクー・ヒズリ。…母親は…ジュリエナ・ヒズリだ…」
真実を知っても…これから先…君には本当の”俺自身”を見て欲しい…。
『…え…?…でも…クオン少年は…亡くなったんじゃ…?』
「・・・・・・・・・・・・。そう父さんが言ってたの・・・?」
…確かに…そう思われていても…可笑しくないのかもしれない…。親孝行どころか…親不孝しかしていないし…。
「俺は…小さい頃から父さんの仕事に憧れて…自分も役者になりたいと…子役として同じ世界に入り込んだんだ…」
そう…いつでも…どんな時でも…俺にとっての”ヒーロー”は父さんだった…。
「だけど…皆 俺の事は”クー・ヒズリとジュリエナ・ヒズリの子”としてしか見てくれなかった…。」
・・・リックと・・・そして・・・・・・・・。
「…キョーコちゃん…君以外は――…。」
「どれだけ俺が努力して実力で役を手に入れたとしても…親の七光りだと思われて…嫌味を言われたり…」
「…逆に…”クーの息子が出演”と話題集めの為だけに、後から付け足したような…意味のない役にオファーが来たり…」
「両親の事は尊敬していたし…愛されているのが分かっていたから…だから…余計にあの頃は自分の辛い本音を伝える事が出来なかった…」
…悲しませたくなかったんだ…。俺が七光りで辛い目に遭っているなんて…そして…知られたくもなかった――…。
…俺はそっと…彼女の頬に手を伸ばした…。
「…あの時…君は”本当の俺自身”を見て…接してくれた…。」
あの頃から12年経って…髪型は変わっても…顔をよく見てみれば面影がちゃんと残っている――…。
『・・・・・・・・・・・・・・・・。・・私が・・・?』
「うん…。あの夏は家族で京都へバカンスに来ていたんだ…。」
「あの時は…俺を妖精だと思った君の為に”妖精コーン”を演じていたんだ…。そして…純粋に演じる事の楽しみを味わっていた…”役者クオン・ヒズリ”として」
彼女の瞳から涙が溢れ…静かに頬を伝っていった…。俺はそれをそっと指で拭い…優しく頬を撫で始めた…。
純粋無垢で…穢れを知らない…美しい君の涙――…。
この先の…俺の”罪”を告白したら…一体どうなってしまうのだろうか…?君が…俺から離れて行ってしまうのが…何よりも怖い…。
だけど…もうこれ以上俺自身が逃げる訳にはいかないんだ…。
…君との…未来の為にも――…。
「…その後…”俺の存在”自体が気に入らない奴らに目を付けられて…俺の役者人生への道を彼らは裏から手を回して邪魔するようになって来たんだ…」
「最初は無視していたけど…次第にどんどんエスカレートしていって…とうとう俺は荒れ出して…殴り合いの激しいケンカを繰り返すようになっていった…。」
もしあの頃…俺がもっと我慢して奴らを無視していたら…誰も悲しませる事は無かった…?…もし…俺さえ存在していなければ…?
「…そんな荒れた俺を…リックはいつも心配して…止めに入ってくれていた…」
『・・・・・”リック”さん・・・・・・?』
「うん…。俺の家の隣に住んでいた…2歳年上の…俺にとっては本物の”兄”のような存在だった…」
「俺は生まれて…物心ついた頃から既にリックとはずっと一緒だった…。両親が忙しくて家に居ない事が多かったから…余計にその分…リックを慕って…。」
「リックの後をよく付いて行っていたのを覚えている…。本当に…掛替えのない…大切な…大切な親友だった…。」
あの頃の思い出がとても懐かしいよ――…。
…リック――…。
そう…俺にとって…リックの存在は…本当に大きな心の支えだった…。
―俺が5歳くらいの頃――…。
「う…っ…うっ…ふぇ…っ…どうして父さんも母さんも…ずっと家にいないの…?…さみしいよ…!」
あの時は…2人とも海外ロケで二週間くらい家を空けていた…。
『あぁ…クオン…お前さみしいんだな…おいで。こっち来てクーのビデオ一緒に観よう』
『…なぁクオン。クーもジュリも…ほとんど家にいなくてお前はさみしいだろうけど…でもこんなカッコイイ仕事をしている親がいるお前を、オレはうらやましいと思うぞ…?』
『最高にクールで…尊敬できるじゃないか…!家にいない分は…オレが代わりに一緒にいてやるから…』
『だから…泣かずにクーとジュリを応援してあげようぜ…?それなら少しはさみしくないだろう…?』
「…本当…?…リック…!」
『もちろんだ…!…約束してやる…!!隣の家だし…すぐにいつでも来られる!!』
俺が…役者を目指す切欠になったのも…リックの言葉からだった――…。
『なぁクオン…。お前がいつもやっているクーの真似の演技ごっこって…マジでうまいよな…。もしかしたらお前も役者になれるんじゃないのか…?』
「…そう…?そうかな…?」
『あぁ!!…オレはそう思うなぁ…!お前に向いてると思う――…』
* *
『何だぁ…クオン!お前また奴らと揉めたのか…?傷だらけじゃないか…!!来いよ手当てしてやるから…。』
『…なぁクオン…お前もう…あんな奴ら相手にするな。結局奴らは…容姿が良くて演技の実力もしっかりとある上に、両親がスターのお前に…嫉妬しているだけなんだから…』
『相手にするだけムダだ…。お前は…本当の”お前自身”を見て…接してくれる人間だけと付き合っていけばいいんだよ。』
『…なぁ…そうだろ…? …クオン・ヒズリ――…。』
* *
「…本当に…。本当に掛替えのない…大切な親友だった・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・・・。・・・”だった”・・?』
「・・・・・・・・・・・・あぁ・・。リックは・・・7年前に・・・死んだんだ・・」
「・・・・・・・車に轢かれて・・・・。」
「・・・俺が・・・俺が殺した・・ようなものだった・・・・・・・・。」
そう…。どれだけ俺が願っても…もう彼が蘇って来る事はない…。
…人生最大の…俺の”罪”――…。
…リック……。
今でも…俺は鮮明に覚えている…。
ティナの悲痛な叫び声と――…。
そして…
身体から…大量の血が溢れ出して…
――動かなくなった…お前の姿を―――…。
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