実は私、裁判所から呼び出し状をもらったことがあるんです。
何回か。
しかもイタリアで。

別に私が悪いことをしたってことじゃないんですよ。
その反対で私は被害者。

痴漢犯罪の被害者です。
あの時は、本当に怖かった…。


ナポリからプーリアに電車で行くとき。
2つのルートがあります。

1.ナポリ→ベネベント→フォッジャ→レッチェ
2.ナポリ→ターラント

1のルートは本当にしんどい。
ブリンディシまで行くのに7-8時間かかります。
カセルタからユーロスターに乗るって方法もあるけれど。
ユーロスターは高いし、カセルタでの乗り継ぎの時間を考えると、これも時間がかかる(日本みたいに乗り継ぎ時間2分、とかってできないもの…)。

7-8時間って…飛行機で日本からだと東南アジアに行けちゃいますよね…。
マイレージくれー!って叫びたかったもん。

しかもこの電車。
暖房はあるんだけども冷房はない!
何でー!
だからこの電車、5-6月頃から私は乗らなくなる…ってか乗れなくなる。
干からびるもん。
向こうからやってくる電車を30分待つ、何てこともザラで。
そのとき…無風。


そんなときに見つけたのが、ターラント路線。
これはかなり快適。
ユーロスターだと4時間、普通の電車でも5時間で着きます。

冷房がないのは同じだけれども。
裏技があって。
日によっては同じ路線をFSのバスが走ってるんですね。
もちろん冷暖房完備。


私はベンゴシの仕事の都合で、ターラントに夜9時ごろつく電車によく乗っていました。
コンパートメント式の電車。

コンパートメント式ってさ。
私あまり好きじゃなくて。
変な人(ナンパ男とか)と一緒になるとうっとうしいし。

だから、ターラントに近づくにつれ、コンパートメントに私が1人で残されていくと、ほっとしてたんだ。
くつろげるし。
この路線は比較的安全だったし(今まで何のトラブルも起きてなかったし)。


それが覆されたのが1月のある日。
いつもと同じようにターラント行きの電車に乗っていた私。
その日は日本語の新聞を持っていたので、じっくりと読んでいた。

ポテンツァの辺りではもうコンパートメントには私1人で。

…このとき初めて男が通路にいるのに気が付いた。
ずっと新聞を読んでたから、分からなかったんですね。
初めはタバコでも吸ってるんだろうな、って気にしなかったんだけど。
それにしては長い。
そして。
私の方をチラチラと見ている。

「またナンパかなぁ、うっとうしいなぁ」なんて思う私。
…自意識過剰とかではなく、イタリアではよくあることだから。

ベンゴシにメールしたいことがあったんだけど。
携帯を持っていることが分かると「番号教えて」ってなるのが嫌で、我慢する。

早く行かないかなぁ、と思いつつ新聞を読んでいる。
端のほうの記事を読もうとしたとき。
…すごく嫌なものが目に入った。

書くのもおぞましいんだけど。
その男、ズボンのチャックを下ろして…なにやらしている。

…固まりました。

叫ぼうかとも思ったけど。
叫んで近くに人がいなかった場合、どうなる?

もう頭はパニック。

とりあえず新聞読んでいて何も気付かない振りをしよう、って思うんだけど。
新聞なんて、読めませんよ…。

今でも覚えてる。
ピーターフランクルさんの記事だったんだけど。
同じ行を何度も何度も読んで、先に進めない。
もちろん頭になんて何も入らない。

…今でもピーターフランクルさんの名前を聞くと、当時を思い出して嫌な気分になるぐらい。
彼には何の罪もないんですけど。


調子に乗った男はついにドアのところにやって来た。

…この恐怖ったら。

だって唯一の出口をふさがれてしまってるわけで。
このまま中に入ってきたらどうしよう、とか。

新聞を握り締めて、固まるしかできない。


…どれぐらい時間がたったんだろう。
男がいなくなった。

いなくなったけど、近くにはいるのかもしれない。

とりあえずベンゴシに「警察を呼んでくれ」ってメールを打つ。
すぐにかかってくる電話。

男がまだ近くにいて、この会話を聞かれていたら怖いので。
頼むから言った通りにしてくれ、としかいえない。


しばらくして。
足音が聞こえてくる。

あの男以外なら誰でもいいから来てくれ!って。
やってきたのは車掌さん2人。
ベンゴシからの電話で私を探しに来てくれたらしい。

安心して、気が抜けて、もう言葉が出てこない。
車掌さんが私のかばんを持ってくれて。
車掌室に連れて行ってくれたんだけど。
私のコンパートメントの前の廊下は汚れていて。
それを見るだけで吐き気がする。

実は私のコンパートメントのすぐ近くに、女の子が1人いたんだけど。
叫べばよかったって思うのは今だから言えることで…。

車掌室でチョコレートをもらい(イタリア人って、こういうときなぜかチョコをくれるんだ…)。
コンパートメントに1人でいちゃいけない、1人になったら誰かがいるところに移りなさい、と諭される。


ターラントに着くと。
ドアが開くなり私の目に入ったのは警官2人を引き連れたベンゴシ。

怖かったよー。


ここから、事情聴取が始まるのです…。

続く