病棟八景(2) | 食道がんと闘います

食道がんと闘います

66歳食道がんサバイバー。
初発は2013年、ステージ3aリンパ節に転移。
手術で切除し抗がん剤治療。
しばらく無事でしたが2016年に肺転移、切除手術。
以来、異常なし。
定年退職後、大学で医療系を学び卒業、再度就職するも3か月で解雇、その後開業するも2年で廃業。

2.同意書へのサインを渋る人

同意書へのサインを渋る人、これがいるんですね。

同意するとどういうことになるのか、たぶんよくわかっていない。

同意するとよくわからないことを自分が認めてしまったことになり、その先の結果が予想できないので同意しない。

必要なことであっても、できれば医療側の判断で行なってくれれば、後から「自分は認めていない」と言い張れると思っているわけです。

必死で逃げ道を残そうとしているとも言えます。

例えば、おじさんが造影CTを撮るために同意を求められる。

プレーンのCTを撮った時には同意書への署名を求められなかったのに、「造影」が付いたら同意を求められる。

何かある、何か医療側の責任を回避するために自分に同意させようとしている、とおじさんは考える。

このおじさんはCTを撮るのにプレーンと造影の意味の違いをよくわかっていないわけです。

何週間か前にCT撮ったじゃないか、また撮るのか、前回はなかったのに今度は同意書にサインせよというのはどういうことか。

看護師も説明し説得するのですが、はたで聞いているとどうも説明がうまくありません。

看護師さんもよくわかっていないのではないかなあと思ったりもしますが。

おじさんは技術的、医学的なことはよくわからないので、どちらかといえば「ことばじりを捕えて」的な応戦を試みます。

「そんなことを急に言われても」とか「何度もCTをやる(しばらく前にプレーンで撮ったことを指して)というが前のCTは失敗したのではないか」「同意書にサインしないと治療しないというのはおかしいのではないか」とか。

手練れの看護師さんは「うんうん」とうなずきながら繰り返して説明し、おじさんが根負けするのをじっと待ちます。

決して怒ったりしませんし、おじさんの主張に反論することもありません。

おじさんが「もしかしてワシはなにかおかしなことを言ってるのだろうか」と弱気になるのをじっと待っています。

で、見ておりますと(実際にしげしげと見ているわけではなく聞こえてくることから察するに、ですが)だいたい5分もすればおじさんの抵抗は尽き果て、あきらめてサインするようです。