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ちゃいのブログ

ライブの感想等気が向いた時に更新します。

今回のライブレポは、メタルイベントの雰囲気を重視して〝敬称略〟とさせて頂きました(*´ω`*)ゞ


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2017年4月1日 川崎クラブチッタ。
1981年の結成以来、36年の長きに亘り日本HMの牙城を守り抜いてきた偉大なる正統派メタルバンド、SABER TIGERが主催するメタルの祭典『牙音』。
本日その栄えあるイベントに、この度見事復活を遂げた我らがALSDEAD−改め『AllS』が出演する。
周りを見渡すとさすが、メタルの正装の色である黒に身を包んだ人ばかりだ。
後ろの方ではイカツい(失礼!)体格の男女が腕組みし、鋭い視線でステージを見守っている。

この状況下で、2015年10月9日のワンマンより約1年半の活休期間を置いた彼らがどんなパフォーマンスを見せてくれるのか?
〝ビジュアル系〟という枠組みを越えバンドが今後どのような音楽性、コンセプトで臨んでいくのか、その方向性は今日どんな形で示されるのだろうか?
ともかく、その復活を夢に見るほど待ち望んできたファンとして彼らの幸先良い再スタートを心から願わずにいられない。

午後5時半を回り、タイムテーブルに記されたAllSのスタート時間が刻々と近づく。
暗幕の向こうからギター、ベース、ドラムの、耳に馴染んだフレーズが聞こえてくる。
喜び、期待、そしてわずかな戸惑い…。
複雑な感情が入り混じり、じわじわと胸一杯に広がっていく。

転換中のBGMはさすが伝統あるメタル・ミュージックの祭典だけあってメタラーには馴染み深い歴史的名曲が次々と流されている。

ふとその時、懐かしいイントロが耳に飛び込んできた。

“Gangland”( TYGERS OF PAN TANG 1981年 )
今聴いても瑞々しい輝きに満ちた良い曲だ。

思えばこのTYGERS OF PAN TANG(通称タイガース)、代表作『SPELLBOUND』アルバムの頃に限って言えばALSDEADと共通する点が多々あるバンドだった。

美しいルックスとテクニックを兼ね備えたボーカリストとギタリストのニ枚看板を擁し、その楽曲は力任せの一本調子で押すタイプのバンドが多かった当時のNWOBHM勢の中にあって、高度な演奏力に裏付けられながらコンパクトにまとめられた親しみやすいメロディーに荒々しい攻撃性を併せ持ち、ヒットシングル向きのコマーシャル性を備えた期待の大型新人バンドとしてDEF LEPPARDとはまた違った独特の存在感を放っていた。
これから始まるAllSライブのプロローグとして気分を心地よく鼓舞してくれる。


午後5時40分。照明が暗転しついにその時がきた。
駿馬が時の流れをリズミカルに駆けて行く様が想像されるような美しいSEとともに暗幕が上昇していく。

ステージ上はおぼろげな青い光に包まれている。
上手からまずは陽佑が、足早に下手に向かうと手早く黒い4弦ベースを構える。
続いてNIKKYが張り切った様子でドラムセットに向かい、沁は平常心の面持ちでストラップを肩に掛ける。
少し間を空け、ボーカルのMAKIが颯爽と登場、ステージ中央に立つと左手で何かサインをつくり、高々と頭上にかざした。
ステージ前を陣取ったファン(オルサー)たちから一斉に歓声が上がる。

メンバーのルックスは、事前にオフィシャルサイトに画像が上がっていたので分かってはいたもののやはり実際に目にすると“わぁー!”という感じだ。
ずっと彼らのビジュアル系らしいコスチュームやメイクを見慣れてきただけにその新鮮な衝撃は2012年の『MODALITY』発表時以上かもしれない。

ライブの開始を待ち切れないかのようにNIKKYの鋭いハイハットのカウントがSEに割って入り、SEは強制終了。
続けて沁のギターが歯切れのよいリフを刻み始める。

“IN BLOOM”―。
今日この日の彼らの姿の原点といえるその『MODALITY』から、希望の春、新たな旅立ちの時を迎えるにあたりまさしく打ってつけの選曲である。
MAKIが雄叫びを上げる。
〝さぁ、来い―!!〟
それを合図に重量感あるベースとドラムが被さってくる。
ALSDEAD時代から馴染み深い楽曲に即座にオルサーたちの身体が反応し、皆リズミカルに拳を振り始める。
ここにきてやっと彼らが復活をした実感が湧き、少しばかり目頭が熱くなる。
活休後約1年半の時を越え、私たちオルサーの身体は戸惑いなくごく自然にあの〝乗り〟を取り戻している。

バンドとしては久方ぶりのライブとなるがそんなブランクは全く感じさせない。
それどころか、各々の演奏に安定感があり、意気込むよりもむしろ丁寧に楽曲を再現しているように見える。
事前に相当入念なリハを行なってきたことが窺える。

MAKIのコンディションはとても良さそうだ。
声量も十分で張り、艶とも申し分ない。
沁も足腰のバネを効かせまるで軍鶏のように軽やかに、そして攻撃的な動きだ。
陽佑、NIKKYはビジュアル系ライブの時よりむしろ伸び伸びとプレイしているように見える。
沁のギターはワインレッドの6弦のストラトタイプ。
この曲の叙情的なギターソロが今日はとりわけ心に染み渡る。
同期も何か一層情感の増したアレンジに変わったような感じだ。

オルサーたちの歓喜のざわめきの中、オルスの復活ライブは上々な滑り出しを見せ、この時には私の心からもセンチメンタルな感情は消え失せて、以前通りのオルスのライブの参戦モードにすっかり切り替わっていた。
バンドも1年半の空白を一気に埋めてしまおうとするかのように、矢継ぎ早に畳み掛ける。
「始めようかー!
イケるかお前らー!
FLASH―! BACK――…!!」
MAKIの語尾を思い切り伸ばしたタイトルコールが響き渡る。
曲名のイメージ通り激しい白色ライトの点滅にステージ全体が包まれ目を開けていられない。

やはりこの曲は気分を一気に高めてくれる。
オルスのまさにキラーチューンと言えるこの曲を聞けば会場がどこであろうと、メンバーの外見がどう変わろうと、もう全く関係ない。
沁が下手、陽佑が上手へと入れ替わり、上手では陽佑が嬉しそうに客席に笑いかけ、下手ではMAKIと沁が寄り添って笑顔を浮かべる。
MAKIのボーカルスタイルはビジュアル系のライブよりも、やはり今日のこの会場の空気の方がよく似合っていると私は思う。

沁のギターは以前にも増して表情豊かに、よりテクニカルになった。
活休後いくつかのセッションに参加してきたが、ストイックな沁のこと、人目に触れない中でも抜かりなく研鑽の日々を送っていたのだろう。

NIKKYのまるで閃光のような凄まじいドラミングも健在だ。
そのシンプルなセットからは想像もつかない、実にバラエティーに富んだ小技を目にも止まらぬ速さで曲に滑り込ませる。
彼が持つこの独特の「間」、鋭いフィルインは曲の緊張感を一層高めるようだ。
このNIKKYのドラミング、他に似たタイプを挙げようとすると浅学で申し訳ないがSANTANAなどで活躍したマイケル・シュリーヴとか、ROBIN TROWERでの情熱的なプレーが記憶に残るビル・ローダンあたりが思い浮かんでくる。
そう考えれば、なるほど〝魂のギタリスト〟との相性はバッチリな筈だ。

この“FLASH BACK”でも同期が美しくドラマチックにアレンジし直されているようだ。
加えて陽佑のコーラスワークが以前よりフューチャーされ曲の中で重要性を増しているように思えた。

終盤のサビでMAKI、沁、陽佑3人が一緒にドラムの前で思い切り気合いの入ったジャンプ。見ている方も思わず拳に力が入る。
エンディングのヘドバンと折り畳み。
久し振りに味わう爽快感だ。
MAKIがデスボとすさまじいシャウトを交互に聞かせながらのエンディング。
〝イェイイェイイェイイェーイ!!〟
〝フゥーッ!〟
曲が終わってしまってからも根っからのメタル戦士NIKKYは勢いが止められないのか〝物足りねーよ〟と言わんばかりに中々撃ち方を止めようとしない。
そんな闘志満々のNIKKYにファンから声援が飛び、NIKKYはそれにダダダダン!ズダダダン!とバスドラの連射で応える。
少し離れた場所にいた黒いTシャツ姿のグループの男性がそのメンコールを聞いてニヤリと笑う。
メタラーたちにとってその名を耳にすればたちどころに親近感を覚えてしまうのは当然のことだろう。

ここでMAKIによるMC。
「改めまして『AllS』です!イェーッ!
我々この4人は、2015年から約1年半の間活動を休止しておりましたが今日、このSABER TIGERさんの主催イベントで、こうしてステージに立つことができたということを心から感謝しています。
これも関係者の皆さん、ファンの皆さん、そして今この会場にいらっしゃる皆さんのおかげだと思っています。
本当に、ありがとうございます!(拍手)
そんな事でせっかく活動再開するので、さっそく5月30日、『高円寺HIGH』でワンマンをやります。イェー!
(歓声、そして一段と大きな拍手が湧き上がる)
…そしてもう一つ、今日お知らせしたいのは5月3日、カオスなメタルバンドたちとガチで対バンしようと思っています。たぶん全バンドが僕らよりもメタルで、激しくて、ウワーッ!って感じだと思いますけど、そうね…今までちょっと違う畑でずっとライブやってきたんですけど、僕ら自身、そういう違う畑だからどうの、あのジャンルがどうとか、このジャンルがどうとか、そういうの自体がもうしょうもない事で、そういうものに縛られてた自分たちがほんとにもうナンセンスだったな、と今は思っているんで、これからはどんなジャンルのイベントでもガッツリ出ていこうと思っています。(語気を強めて)どのバンドの、どんなイベントに出ても、俺たちがいちばんROCKしてると思うんで、お前たちもそのつもりでしっかりついて来いよ!いいかーッ!」

ガーン…!!と耳をつんざく楽器隊の轟音。

「誰よりもROCKしようぜ!
イケるか、お前ら―!」
「OK!Let's go、 c'mon!新曲、“Hunter”!」
MCの間に沁はギターをダークブラウンの逆さヘッドの7弦に、陽佑は赤の5弦ベースに持ち替えていた。
初めて耳にする曲でもオルサーたちは自然と拳を振っている。
NIKKYが叩き出すストレートな8ビートが爽快だ。

生まれ変わったオルスの、記念すべきスタートライブで披露された新曲第1弾。
しかしそれはいかにもオルスらしい、攻撃性と疾走感とキャッチーなサビを持ち、そしてどこかLAメタルを彷彿させるような僅かに甘酸っぱさを漂わせるコーラスハーモニーが魅力だ。
拳、折り畳み、そしてまた拳を振る。

激しいヘドバンに続いて沁のギターソロだ。
この曲のギターソロを聴いて年季の入ったロックファンはAllSというバンドの本質、真価を感じ取ったのではないだろうか。
正統派ハードロック/メタルの王道を往くスピード感と、ドラマチックに展開していく華麗なギターソロ。
DEEP PURPLEやNIGHT RANGERのギターソロに胸を高鳴らせた者にはその興奮を再び呼び起こされずにはいられない、まさに沁らしい心憎いほどツボを押さえたギターソロだ。

この新曲で、やはりコーラスワークが今まで以上に重視されている印象を持った。
オルスの音楽性の幅が拡がり、今後楽曲制作、ライブともに陽佑の存在感が増していくのではないだろうか。

そして尚も切れ目なく猛攻を仕掛けるAllS。
MAKIが一言ずつ念を押すようにタイトルをコール。
〝ア、ド、レ、ナ、リ――ン…!〟

彼らが活休前に出した、現在のところ最新のアルバム『IDEA』(2015)からの人気曲だ。周りのオルサーたちも完全に過去と現在が繋がった様子で思い切りヘドバンし、嬉しそうにジャンプしている。
メンバーの方もすっかりヒートアップしたと見え、MAKIが着ていたロングカーデガン(かな?)を脇に脱ぎすてる。
オルサーみんな全力でヘドバンし、拳を振り、飛び跳ね、手拍子をする。

私はビジュアル系の「振り」の強制は嫌いだがオルサーたちの自発的な、オーディエンスの側の感情を素直に爆発させているようなこういった激しいアクションは、なかなか良いものだと思う。
むしろ、このあたりは近頃少し行儀が良すぎるメタラーたちにもぜひお薦めしたいところだ。
往時のメタルファンたちはもう目を回して倒れるぐらい派手に、ブンブン長髪を振り回していたものだ。

エンディングはドラム前にMAKI、沁、陽佑の3人が集まり、ギューンと伸びる長いギターのフィードバック音に合わせて一斉にジャンプ。
続いて、NIKKYが繰り出す軽快なビートに乗せてMAKIのコール&レスポだ。
まずはステージ前方あたりに向かって
「楽しんでるかー、クラブチッターッ!」
すかさずオルサーたちが返す。
〝イェー!!〟
ほぼ女子ばかりの声。
MAKI、今度は目線を上げ会場全体に向かって
「楽しんでますか、クラブチッタァーッ!」
〝ウェーイ…!〟
野太い男性の声がいくぶん混じる
「俺の予想では、今日の会場ならもっと男たちの声が大っきいイメージで来たんですけど…」
と会場のメタル男子たちを挑発するMAKI、あらためて声を張り上げる。
〝楽しんでますか、クラブチッタァァ―ッ!!〟
“ウォーーーィ!!”
会場からのレスポンスはかなり多くの男の声で占められてきた。
「俺たちの後もまだ3つ、イカツいバンドが残ってます。ここら辺でみんな、心の中のエンジンを全開にしていかないといけないと思うんで、我々がここで皆さんとコール&レスポンスをしたいと思います。
大きい声で、大きい声で、自分の持ってる最大限の声を届けてください。
いきますよ、いいかい?」
〝ワーイ、ワーイ、ヤイヤイヤーイ!〟
さらにオクターブを上げて
〝ワーイ、ワーイ、ワイワイヤァーッ!!〟

ものすごいハイトーンシャウト。
ビジュアル系でライブしている時とはやはり声の高低差が格段に違う。
上手で沁も耳に片手をあてながら観客を指差したり、来い来い、というようにちょこちょこ指を動かしている。
会場のメタラーたちもだんだん熱くなってきたようだ。
〝ワーイ、ワーイ、ワイワイヤー―!!〟

「…なんだよー、いい声出るじゃん!
もっともっと、もっともっと、おじさまの熱い太い声も聞かせてください!
いきますよ?」

〝ワーイ、ワーイ、ワイワイイェーッ―!〟
〝ワーイ、ワーイ、ヤイヤイヤァーッ―!〟

V系の暴れバン時代からの太い声でのコールとハイトーンのシャウトによるコールを交互に繰り返し、汗だくになりながらほぼ完全に会場の意識を掌握したようだ。

「はーい、だいぶ温まってきたね。
もう一回、最後大きい声で、もっとこの会場をひとつにしましょう!いいかーい!?」
〝ワーイ、ワーイ、ワィワィ……ワーイ!!〟

MAKIお得意の、ちょっと意地悪な早口コールが容赦なく飛び出す。
負けじと会場から返される声は、もう完全に太くゴツいものに変わっていた。
〝ワーイ、ワーイ、△◎✕☆※ー…!!〟

全力のコール&レスポで少し息を切らしながらも、満足げに笑うMAKI、
「OK、じゃあ次の曲いきますよ。
“IntoThe Void”―!」

沁と陽佑はそれぞれまたワインレッドの6弦ギターと黒い4弦ベースを構えている。
「オーライ!さあ来い、お前ら―!」
「カモー――ン!」
オルサーたちが猛烈に頭を振り始める。
その向こうに黒Tシャツの男性たちが首だけをゆっくり前後に動かしている姿が見える。
だがその眼は先ほどまでとは段違いにステージに喰らいついているようだ。

Into The Void―。
虚空に飛び込む、みたいな意味だろうか。
しかし曲名にダブルミーニングを持たせる場合が多いオルスのこと、もっと別の思いが込められているのかもしれない。
この曲を聴く度、私はある種の感慨を覚えずにいられない。

ビジュアル系バンドとしてデビューし、2年間を過ごした事務所をある決意をもって離れた彼らが、自分たちで全てをこなしながらリリースした最初のシングル。
過去のインタビューでも度々語られているように、それまでの闇系ビジュアルバンドのスタイルを脱して真に自分たちの目指す音楽の具現化にチャレンジし、その後の『MODALITY』の制作思想に繋がった、引いては彼らが今日のこのステージに立つこととなる原点であり、バンドの歴史に於いて言わば記念碑的な意義深い曲だ。
次の“Life Of Sorrow”とともに、今日のこの舞台で最も演奏されるべきナンバーなのだ。
曲名とは裏腹に何か吹っ切ったような、前向きで希望の力に満ち溢れた曲調は、当時の彼らの決意と心境が反映されているからかもしれない。

拳、折り畳み。
シンプルな振りが余計にこの曲の血気盛んな勢いを感じさせる。
MAKIも沁もその頃に返ったようにはつらつとした動きを見せる。
そしてMAKIが「ギター!」と叫び、長く辛苦をともにしてきた盟友にソロを促す。
讃えるようにオルサーたちの両腕が高々と掲げられる。
この曲でもやはりコーラスが以前より厚く、清涼感あるものに変わったように思える。

終盤近く、息の合ったブレークと連係プレー、これが今の4人のチームワークだ。
また激しいヘドバンで終了に向かい、そしていよいよラストスパートの時を迎えた。

「ラストーーッ!
ラストー!! いけるかーいっ?!
Life!・Of!・Sorrowー―!!」

オルスの輝かしい再出発、そして記念すべきメタルイベントへの初参戦ライブという、この歴史的な舞台のトリを務めるのは誰が何と言おうと、このナンバー以外にない。
メタル一色に染まった今日のイベントの空気感の中でもこの曲の持つ狂気、暴力性は際立っている。
ステージ上は真っ赤な煉獄の炎で覆い尽くされた。
圧倒的なリフ。
ステージからの音圧が何か一気に上がった気がする。
目には見えないが、何か恐ろしく強固な意思の塊がこちら目掛けて押し寄せて来るようだ。
襲い来るものをヘドバンと鉄拳で迎え撃つ。
沁と陽佑が目まぐるしく上手、下手と入れ替わり野太い掛け声で会場のボルテージをぐんぐん高めていく。

オルサーたちの狂熱ぶりが最高潮に達した時、敢えて焦らすようにMAKIがここで再びコール&レスポを入れる。
〝ウォーイ、ウォーイ、ウォーイ、Yeah―!〟
〝ワーイ、ワーイ、ワーイ、Yeah―!〟

〝拳を上げて、来ーいっ!〟
MAKIが手綱を離し、再び激しい真剣勝負。
ドラムセット左右に配置された黄色のライトが巨大な生き物の眼となって“お前たち、そんなものか?”とばかりにこちらをカーッと照らしつけ挑発する。
〝バンギャをナメるな―!〟
オルサー全員が気持ちを一つにして立ち向かう。
沁がステージ最前まで歩み寄って来てマイクを通さず生声で歌詞をガナっている。

思い返せばこの人との出会いは鮮烈だった。
   
ALSDEADのステージに初めて接した時、特にギターの沁の、殺気に満ちた形相と闘争心むき出しのプレーには、こちらも本気で応戦しなければ本当に殺されるのではないか、と思った。
そこいらのヤワなV系暴れバンとは桁違いのその迫力に本物のメタルミュージシャンの狂気をみて、引き摺られるようにしてこのバンドに付いてきたものだ。

だが狂気と言えば、今日のオルサー女子たちも以前にも増して振りが激しい。
その勢いは終盤になっても全く衰えず、本当に狂ったように頭を振り、拳を突き出し続ける。

ステージ後方に飾られたイベントドロップが波打っているのは激しく打ち振られるたくさんのロングヘアーの風圧のせいだろうか?
それが決して大袈裟でないほど今日のこのバンギャルたちのヘドバンは、この場に居合わせたメタルファンたちの度肝を抜くものだった。

ヴォーイ!ヴォーイ!ヴォーイ…!

〝Life Of Sorrow!〟

〝Life Of ―――…!〟


そしてようやく壮絶な闘いは終わりを告げる。

NIKKYの2本のスティックが今一度力一杯スネアに振り下ろされ、そして止まった。

「ありがとうございました!『AllS』でしたーーっ!!」
楽器隊がオルサーたちの健闘を称えるように、最後に一斉に礼砲を轟かせる。
NIKKYが立ち上がり、荒れ狂ってドラムセットを思い切り引っぱたいた。

メンバーがステージ上手に消え、暗幕がゆっくりと下降していく中で沁のかき鳴らすギターの長い咆哮が響き渡り、スイッチオフで静寂が戻ったその時だった。
後方から拍手とともに
〝ウォォォーーーッ!〟
という男たちの声が上がった。
振り返ると、ライブが始まったばかりの時は遠巻きにしていた黒い集団の輪が、いつの間にかすぐ近くまで迫っていた。



2012年11月、ALSDEADは池袋EDGEに於いて9日、11日の2日間に分けたワンマンを開催、1日目では初期の楽曲中心にバンド結成から現在までの歩みを、2日目で未来に向けた今後のバンドの方向性を、それぞれ実際のライブで描き出してみせた。

その1日目、このバンドの初期の姿を体験しておらず、勿論メンバーの音楽的土壌など知る由もない私は初期ALSDEADのコンセプトやコスチューム、その音楽性に接して大きな衝撃と胸のときめきを覚えた。

それは多くの闇系ビジュアルバンドの類型的なスタイルを取りながら、何故かその中に遠く70年代初期のブリティッシュ・ハードロックに通じるエッセンスを随所に感じさせ、そのあたりのロックが大好物でありながらリアル体験のない私にとって一つの疑似体験に近いようなものだったからだ。

喜び勇んでライブレポを書き出した私だったが、書き進めるうち、だが別の思いが頭を持ち上げてきた。

当時のALSDEADは“Puzzle”を発売した頃で、ビジュアル系の暴れバンドとして一定の活動基盤を保っていたが、その前に発表したミニアルバム『MODALITY』のクリアな音楽性と、またその制作意図に合わせた〝音楽も衣装も一度余分な物を一切削ぎ落とす〟というコンセプトのもと、控えめのメイク、Tシャツとジーンズ姿というカジュアルな出で立ちで臨んだライブが多くのV系ファンの理解を得られず、結果その実験的な試みはおよそ成功したとは言い難いものとなってしまった。

その後起死回生の名曲“FLASH BACK”を放ち、再度美しく華やかなメイクとコスチュームによって人気を挽回、その同じ流れの中で“Puzzle”に至るわけだが、その事実によって彼らのカジュアル衣装時の記憶はファンの間ではバンドの〝迷走期〟という位置付けで半ば封印されてしまい、またその煽りを食う形でこの意欲作『MODALITY』も、一部その後のライブの定番となる人気曲があるにしても、そのアルバム自体の評価は、残念ながら殆どのファンの間ではALSDEADの歴史に於いてごく一時的な「実験的作品」という程度に留められるのみだった。

だが、そんな大方の真性V系ファンの見方に反して音楽のジャンルにあまり拘りなく他のメタル系、J-ROCK系などに広く間口を持つファンの間ではこの『MODALITY』に対する評価は非常に高いもので、私も当時V系知識のない友人たちにALSDEADの作品を聴かせてみると皆がこの『MODALITY』が一番好きだ、と口を揃えた。
オールマイティーに音楽を愛するロックファンにとってこの『MODALITY』は実は〝隠れた名作〟という扱いなのだ。

話は戻り、この2DAYワンマンの段階に於いてALSDEADは再び中堅のV系暴れバンドとしての地歩を固めつつあったが、先述の事を踏まえ私には何か釈然としない思いが強くなっていった。

―彼らは、本当に今の方向性のまま進んで良いのだろうか?

彼らの本質である広く一般の音楽ファンの共感を呼ぶような、まさにジャンルの壁を越えた多様な音楽性を、ただのバンドの音楽的素養、引き出しの一つとして埋没させて良いのか?
“Into  The  Void”から『MODALITY』にかけて意欲的に取り組んだ、バンドの新たな可能性への挑戦を単なる一時的な実験、回り道で終わらせてしまうのだろうか…?

だが翌々日、バンドの未来と今後の方向性を指し示した2日目のワンマンで、彼らはそんな私の心配をいとも簡単に吹き消してみせた。

そこで披露された新曲“フライト”は音楽のジャンル分けなど小さな価値基準など悠に超越した素晴らしい楽曲だった。

私の杞憂をよそに彼らは誰よりも自分たちの特性をよくわかっていて、間近の状況に惑わされることなくバンドとしての目標をしっかり定め、それに向かって私たちの目に触れないところで着々と準備を進めていたのだ。

今日この『牙音』のステージに立ったオルスの新たな出発点は、“フライト”を制作した時から、いやもっと以前の“Into The Void”の頃から彼らが心に決め、目指してきたものだ。

『MODALITY』発表当時の試みがうまくいかなかった点について、後にメンバー自身は「どこかファンの気持ちを置き去りにしていた部分があったのかもしれない」とやや反省の弁を口にしていたが、今回は違う。

活休の間にも沁は数人のミュージシャン仲間と、〝「振り」に頼らずにどれだけファンを楽しませることが出来るか?〟をテーマとしたセッションライブを開催し、MAKIはソロで開いたアコースティック・ライブでJ-POPを中心に音楽全般に対する幅広く深い知識、嗜好をファンに披露した。
地ならしは十分で、ファンは彼らが今後進むであろう方向性について何らかのメッセージを感じ取っていたはずだ。

そして彼らは2015年発表のアルバム『IDEA』の制作に於いて、
「〝ビジュアル系〟という一つの括りの中で自分たちのやりたい事を最大限の形で盛り込んだ」と語っていたが、その言葉通りこのアルバムに収められた楽曲はビジュアル系の外面的なスタイルをとりながら実質的にはハードロック/メタル、プログレッシブ、サイケデリック、ラウドなど様々なロックの要素を縦横無尽に駆使して構築されており、ロックミュージックへの並々ならぬ探究心と、そこから自分たちの考えるハイブリッドなロックを産み出そうと努力を重ねてきた彼らだからこそ創り得た作品『IDEA』は、まさにロック史に残る傑作だといえる。

ビジュアル系という市場に於ける様々な制約の中で総力をあげたこのアルバムをALSDEADとしての〝卒業制作〟とし、彼らは新たなスタート地点に立った。
目指すものはメタルだのJ-ROCKだのという小さな次元に収まるものではない。
MAKI、沁、陽佑、NIKKY。
この4人の力を結集して創り上げる、世界で唯一無二の、言うならば『AllSロック』なのである。



末筆ながら今回の『牙音』イベントではAllS以外の出演バンドのファンの皆さんにも、場所の交代に快く応じて頂いたり広いスペースを必要とする〝振り〟に対しても温かく接して頂くなど、いろいろとお気遣いを頂いた。

そしてまたオルスの復活を信じて我慢強く待ち続け、ビジュアル系とは全く畑違いのイベントにも駆けつけて懸命に応援するオルサーたち。
彼らの音楽と技術の素晴らしさを理解するこれだけのコアなファンが付いてきてくれている。
ビジュアル系での7年間は決して遠回りではなかった。

音楽をジャンルなどで仕切り、ファン同士垣根を作ってしまうのは本当に勿体無いことだ。

AIISにはぜひ、そんなつまらないジャンル分けを超え、音楽だけでなくファン同士の架け橋の役割を担ってもらいたい、と願う。


             −終わり−


《SABER TIGER presents[牙音act.2]》
2017.4.1 Sat  川崎クラブチッタ

−AllS  SET LIST−
1.ln Bloom
2.FLASH BACK
3.Hunter (新曲)
4.Adrenaline
5.lnto The Void
6.Life of Sorrow


★――――――――――――――――――――――――☆


【AllS LIVE SCHEDULE】

2017.5.16 Tue 渋谷  REX
ZERO MIND INFINITY presents「ONE MIND Vol.2」


2017.5.30 Tue 高円寺  HIGH
AllS presents「KILLING MY IDENTITY」
《AllSワンマン公演》


2017.6.8 Thu 東高円寺  二万電圧
「JILUKA vs AllS」