首都高ランナー!!越えろ!!350km/h!! 破れざる者たち!! | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

敗れざる者たち。意味

●(本):野球選手やボクサーなど、才能に恵まれながらも栄光をつかむことのできなかったスポーツ選手たちの姿を追う。

●負けて悔しくてどうしようもないこと。 できることならもう一度あの瞬間に戻りたいなどと、叶わないことを心で願ってしまうこと。 すべてかけがえのない貴い意味がある

●『敗れざるもの』は、敗れないという意味を持つ表現です。この言葉は、困難な状況においても精神的な強さや不屈の姿勢を示すものとして解釈されます。物理的な勝利ではなく、精神的な勝利や教訓を得ることの重要性を象徴しています。

 
という事で、ここのブログはラストの意味を使います。
 
  首都高ランナー!!越えろ!!350km/h!! 破れざる者たち!!(小説Ver.)
 
 
 
「愚かな男だ。俺は。」
「また、あの世界に舞い戻ってきてしまった。」
 
 初老の 進藤 幸 は自虐的に鏡に映った自分を見て笑った。
 
 3年前、首都高の湾岸線に多くの走り屋たちが異常に集まり始め、その熱気は多くの若者たちを虜にした。
 
 多くの若者たちがそうであるように、多額の金額をかけて、各々のマシーンのチューニングを行い、その最終馬力は840馬力にも達していた。
 
そしてその中のほんの一握りの特別な走り屋たちは、首都高ランナーと呼ばれていた。
 
 進藤 幸(しんどう ゆき)もその一人であった。
 
 若い湾岸の走り屋たちは多くの人がそうであろう、高速道路を300km/hオーバー走り切る狂気の世界の無意味さに気が付き、数年でその世界を降りて行った。
 
 しかし、進藤は違っていた。
 
 彼はいわゆる、遅れてきた首都高ランナーであった。
 彼は多くの走りに憧れる者とは違った。
 
 あの日、妻が助からないと知った時、彼の行き場のない怒りと悲しみの矛先が、彼を走りの世界に向けたのであった。
 
 時速300km/hオーバーのすべてを忘れてフラットアウトになる世界は、麻薬のように彼の心を蝕んでいった。
 
 そして彼のマシーンGTR R35もたちまち、皆と同じように840馬力に達して、最高速度は347km/hを叩き出していた。
 
 当時の湾岸の最高速は340km+α。彼もまた、最高速を出した一人であった。
 
 それが彼の終焉であった。
 
 その日を境に新藤のGTR R35の姿は、首都高から消えて行った。
 
 2024年12月。
 
 ネット上で一つの奇妙な噂が流れだした。
 
 首都高の湾岸コースで、350km/hをオーバーした車がいると言うのだ。
 
 その車は金色のカウンタック・アベンタドール。
 記録はメーター読み351km/hを指していた。
 
 当時、首都高ランナー達がどうしても350km/hの壁を破れなかったのを、そのアベンタドールで破ったのである。
 
 偶然、その記録を目にした進藤の心はざわついた。
 
「何をいまさら。」
「湾岸はもう充分だ。」
 
一度は否定する進藤。
 
 しかし、その日を境に彼の心は、その動画に虜になっていった。
 毎夜、毎夜、彼はその動画を見つめていた。
 
 そして、3年間眠り続けていた、彼の愛機、GTR R35は長い眠りから覚めた。
 
 まずは自分のリハビリと、GTR R35のメンテナンスだ。
 当然、彼のGTR R35を湾岸で走らせるために、金が湯水のごとく流れた。
 
 そうして数週間後、彼は再び湾岸の最高速アタックを開始した。
 
 時間は一般車が少なくなる、早朝。
 
 時間にして1周1分弱の4周。たった4分にすべてが決まるのだ!!
 
アタック開始!!
 一瞬にしてスピードが300キロに跳ね上がる。
そして340km/hに達した時、R35の速度は止まったように感じた。
 1km/h、1km/hとジリジリと上がるスピードメーター。
 
 その時、R35は路面のギャツプを拾って大きくバウンドした。途端に失速したR35。
 
「ダメだ。この車では勝てない!!」
 
大きく失望した進藤。
 その時のスピードは348km/hを達していた。
 
 
「やはり勝てる車は、あの車か??」
 
 数か月後、R35を売り払い、多くの借金を抱え、彼の愛機はカウンタック・アベンタドールに替わっていった。
 
 そして再び戦えるマシーンにするために、アベンタドールを840馬力迄上げていった。
 付けていたウイングも、最高速を狙うために、小ぶりに変えていた。
 
2025年、2月20日早朝。
 進藤は再び、あの湾岸線東回りコースに立っていた。
狙うは350km/h越え!!
 
「さあ、行くか!!」
 
  これは他人から見たら愚かな行為であるが、 彼にとっては長年の心の澱(おり)を取り除く行為なのだ。
 
 スタートが始まった!!。
 
 ぐんぐん加速していくアベンタードール。最初のコーナーでアベンタードールは大きくアウト側にはらんでいった。
 
「チッ!!しくじった!!ぶっかるなよ!!アベンタドール!!」
 
 アベンタドールは大きく外に膨らみながらも、ぎりぎり外壁にかすりながらコーナーをきりぬけていった。
 
「よしっ!!ラッキー!!」
 
 ここからはアクセルはフル!!
 
 コーナーは数ミリのハンドル操作のみで、切り抜けていくのだ。
 
  幅広い3車線の真ん中を使って、走り続けるアベンタドール。
 
340lm/h台から車が静止した状態と化する。
 1km/h、1km/hとじりじりと加速するマシーン。
 
 その時、路面のギャツプを拾ったアベンタドール。
 
「頼む!!失速するなよ!!」
 
 R35のと違って飾り程度の小さなウイングでも、超弩級の高速ではそれなりにも効果はある。
 
 少しバウンドしたアベンタドールではあったが、再び加速し始めた。
 
4分後、湾岸線を走り終えたアベンタドールの最高速度は349km/hを指していた。
 
 
 走り終えた進藤の表情はさばさばしていた。
 
 この湾岸にチャレンジした多くの破れざる者たちへ!!
 
 多くの人々が君たちのこの行為を、愚かな行為だと笑うであろう。
 
 しかし、決してそれは間違いではないのだ。
 
 君たちのその想いは次の世代に繋がっていくのだ!!
 
 そう、思いながら進藤のアベンタドールは、静かに首都高を去っていくのであった。
 
  首都高ランナー!!越えろ!!350km/h!! 破れざる者たち!!
     -完-

 PS:さてさて、実際はGTR R35もアベンタドールも249km/hどまりでした。
 
 やっぱりオヤジは一流になれない、ド・三流でした。(笑♪)