私が依存症サポートワーカーをしているカナダのBC州で、2023年1月から三年間、18歳以上による2.5g以下の違法薬物である覚醒剤、オピオイド、コカイン、MDMAの所持を非犯罪化する事が発表されました。

前々からBC州の警察は政府に対して、単なる所持使用で逮捕を繰り返していても依存症の根本的な解決にはならない、裁くより支援を増やそう、と政府に訴えかけていました。

なぜかと言うとBC州は暖かいのでホームレスが多く、カナダではホームレスの依存症が非常に多いので、ホームレス人口に比例して依存症人口も多いのです。よってBC州はバンクーバーのDowntown Eastsideに代表される様に、世界的に見ても依存症対策が進んでいる地域です。

そのような場所で長らく現場で働く警察官は、現実として、逮捕を繰り返しても依存症は治らないと言うことを肌で実感してる訳です。

それで前々から政府に刑罰より治療とサポートを、と訴えていたのが正式に認められた形です。

ただ、あくまで正式にということであり既に今までも現在も、所持使用だけでは逮捕はしていないのが現状です。もし逮捕してたら、ほとんどの私のクライアントは逮捕になってしまいますが、今現在所持使用のみでは逮捕されてません。同じチームには警察官もいますが、もちろん彼らもそのようなクライアントを逮捕はしません。

もしも違法薬物を所持している人を全員逮捕したら、多すぎて司法のリソース(警察官、刑務所、裁判官等)が全然足りずにパンクするからです。

そして、彼らは逮捕されないから私たちの提供する治療やサポートに結びついていられる。逮捕の危険があったら逃げてしまい、サポートさせてくれないでしょう。犯罪化しないことで治療や支援に繋がる道を開く事。それが大事な事なのです。

なので今回の非犯罪化は、刑罰より治療と支援を、という現場の警察官をはじめとする支援者の声を政府が正式に認めたという事ですね。

この非犯罪化は、スティグマを恐れて治療を躊躇する人を救うため、隠れて一人で薬物を摂取してオーバードースで死亡するのを防ぐため。決して、薬物を容認しようとしてる訳ではありません。

何しろカナダでは一番の問題はオピオイド特にフェンタニルによるオーバードース死亡です。フェンタニルのオーバードースによる死亡数の上昇は非常に深刻な問題であり、それにストップをかけたいというのが政府の一番の目的です。

一番重要なのは、非犯罪化には、治療やサポートの確立がセットだと言うことです。サポートシステムなしに非犯罪化しても無法地帯になるだけです。カナダはサポートシステムも同時に増やしています。それでも足りない、追いつかないと言うのが現状です。更なるサポートシステムが必要ですし、政府は対策を続けるでしょう。

もちろん、今回の非犯罪化に対しては、市民からの反対意見も少なからずあります。

先日のブログでも書きましたが、非犯罪化、ハームリダクションの現場は、日本の皆さんが想像するよりもずっと過酷なものだと思います。特に近隣に住む人にとっては、依存症に更なるサポートが必要だとは理解していても、綺麗事や理想だけでは割り切れない。

犯罪率が上がり、子供達に近寄らせたくない場所が増え、自分の税金はどんどん依存症やホームレスのサポートに使われ、薬物も犯罪もしていないまじめに働いている自分たちの生活は経済的に苦しくなるばかりなのに、それは政府はサポートしてくれない。

そういう中で不満が挙がるのは当然かと思います。


それでも非犯罪化というハームリダクションに舵を切ったBC州。三年間でどのような結果がでるか、私また現場の一員として見ていきたいと思っています。