XX年前 某所・・・ 

教授「あなたの運営している組織は、

 死亡率の高い危険な職場だと認識しているが。」 

■■■「私は大勢の中の一人であり、たまに方針に口出しする程度だよ、 

 それにその言い方だと職員を蔑ろにする様な誤解を生む。 

 確かに結果だけ見ればそう見られても仕方が無いが、 

 最初から死地と理解していて送り出してはいない。」 

教授は身を乗り出して話した。 

教授「実はこちらに在籍している中条という学生なんだが、 

 あなたの組織で引き取ってもらいたい。 

 そして仕事中に・・・どうだろうか?」 

■■■「私の組織では無いのですが、少し物騒な要望ですね。 

 理由を聞きたい、納得できる理由があれば受けましょう。 

 ・・・組織は慈善団体ではないのでね。」 

教授「これを見て欲しい、彼の論文を要約したものだが・・・」 

そう言うと教授は■■■に論文を渡した。 

目を通した■■■に教授は話しかけた。 

教授「見て理解したと思うが彼は危険な思想の持ち主だ、 

 ただの夢想家なら問題無いが思想を現実にする頭脳と行動力がある。 

 確実に人類の脅威となるだろう・・・

 私は沢山の学生を見てきたが彼は異質すぎる。 

 あなたの組織は人類の脅威と戦っているのだろう、

 手遅れになる前に手を下して欲しい。」 

■■■は教授の話を聞きながら思案していたが頷いた。 

■■■「良いでしょう、彼が自分の意思で来るならですが。 

 そしてこちらからは一つ、条件を出します。」 

教授は顔を強張らせながら言った。 

教授「金か?」 

■■■は首を横に振った。 

■■■「組織が最も重要視するもの・・・それは人材です。 

 彼を受け入れる対価として優秀な人材・・・もちろん説得も教授がする事。 

 ・・・取引しますか?」 

教授「うぅむ、それなら●●●を出すか・・・」 

■■■「人材はこちらが指定します、一と言う人物が所属していますね。 

 彼以外を指定するならこの話は無かった事に、教授自身で手を下してください。 

 その場合、あなたの残りの人生を対価にする必要があるでしょうね。」 

教授は唸って考えた末■■■の提案に従う事にした。 

■■■は教授に別れの挨拶を済ませると外で待っていた車に乗り込んだ。 

運転手が車を発進させると■■■に話しかけた。 

運転手「■■■様、これで日本での予定は全て終了しましたので

 このまま空港に向かいます。 

 それにしても分刻みのスケジュールなのに

 わざわざ時間を作ってまでお会いになる程、 

 この大学が重要だったのですか? 

 失礼ですが■■■様がお立ち寄りする程では無いと思っておりました。」 

■■■「私が少し寄るだけで・・・

 スカウト何か月分の労力が短縮出来るならば問題ではないさ。 

 組織のスカウトリストの中の二人を入手したからね。 

 優秀な人材は沢山居て困る事は無い、他の団体に奪われる可能性もある。 

 光の中では異質に見えても、闇の中では色を失う。 

 教授の懸念していた彼だって、闇の中では只の一個人だ。 

 でもそれなりに危険な作戦は与えるように取り計らおう、

 約束したからねフフフ・・・」 

そして■■■は次の目的地に旅立っていった。 

その後、教授は中条を組織へ就職内定させた後一を呼び出した。 

教授「・・・すまないがそういう事情だから、 

 中条君と同じ場所に就職して欲しい・・・。」 

一「教授には父の代からお世話になっていますし、 

 幼い頃に父を亡くした後もずっと助けてくれていました。 

 今の私があるのは教授のおかげなんです、 

 その場所へ就職する事が少しでも恩返しになるなら喜んで行きます。」 

教授は目を細めて一を見た。 

教授「君の父は立派な研究者だった、

 彼の大学時代を共に過ごせた事は今でも私の自慢だ。 

 彼を自分の息子の様に思っていたし、彼も私を慕ってくれていた。 

 彼が亡くなって私は目の前が真っ暗になった。 

 彼の家に最後の別れに行った時、 

 君と君の母親が必死に悲しみに耐えているの見て気が付いた。 

 彼が息子なら彼女と君は娘と孫に等しい、 

 彼の愛した彼女と君を支える事が彼への一番の供養になるに違いないと。 

 そして君と接しているうちに君が彼の様な研究者としての資質があると発見した。 

 君を研究者にする事が私の生き甲斐になり、 

 君が研究者を目指してくれたから私は夢の続きを見る事が出来たんだ。 

 本当に感謝している。 

 それなのに・・・孫の様に大事にしている君を、 

 あんな所に就職させなければいけなくなって本当に申し訳なく思っている。 

 中条君が居なくなったらすぐに戻って来なさい、

 君の居場所はいつでも用意してある。」 

一「・・・私の役目は就職先で中条君が下手な事をしない様に監視する事ですね。 

 どこに所属しても研究は出来ますし心配しないでください、 

 教授・・・いままでお世話になりました。 

 体調に気を付けて健やかに過ごしてください。」 

一は教授に深く一礼すると部屋を出てそのまま外へ出た。 

雲一つない青空が一の心を逆に曇らせた。 

一はため息をつき呟いた。 

一「同じ年齢、同じ研修者の筈なのに・・・片方は大事にされ片方は死を願われる。 

 何だかやりきれない気分になるな・・・」 

一はもう一度ため息をつくと吸い込まれるような空を見上げた・・・ 

 

中条博士「・・・博士?一博士起きているかい?」 

一博士がハッとして目の前を見ると中条博士が机で書類を見ながら声をかけてきた。 

一博士「大丈夫です、少し考え事をしていたんですよ。 

 そう言えば彼女達は一命を取り留めたと言う認識で間違いないですか?」 

中条博士はにっこり笑って頷いた。 

中条博士「まぁ今の所は様子見だけどね。」 

ふと疑問に思った事を一博士は口にした。 

一博士「そう言えば彼女達の意識はいつ頃戻るんですか?」 

それを聞いた中条博士は少し悲しそうな表情をした。 

中条博士「身体の設計図は存在するけど魂の設計図はまだ発見されていないんだ。 

 私が出来る事は研究され発見された答えを参考にしてアレンジする事、 

 再生医療・クローン技術・遺伝子操作・救命措置などアレンジして使う。 

 いつか魂のメカニズムが解明されて設計図が発見されるかもしれない・・・ 

 そうしたら今回の事案がまた発生しても

 身体と魂を同時に再生できるかもしれないね。 

 ただ現状で出来る事は身体の症状に合わせた対処療法のみ、 

 とりあえず脳は異状ないから活性化を促して自己回復に期待するしかない。 

 何年か何十年後になるか分からないけどね・・・ 

 何年後と言えば・・・

 君は来年度の何処かでLV4に昇進するらしいね、おめでとう!!」  

一博士は驚いて中条博士に質問した。 

一博士「私はまだ聞いていませんが、どうして知っているんですか?」 

中条博士はにっこり笑って答えた。 

中条博士「まぁ色々あってね、それぞれの思惑が一致したのさ。 

 教授は君に安全な場所に居て欲しい、

 昇進すれば危険な事を直接扱う事は少なくなるしね。 

 例の人に頼み込んだんじゃないかな。 

 組織は君が責任感が強いのを理解している、 

 重要な役職に就けておけば仮に私が消えても組織に留まると思ったのかもね。 

 そして私としても友人が安全な場所に配置されるのは純粋に喜ばしい事だ。」 

一博士は呆然とした後こめかみを押さえた。 

一博士「すみません、情報量が多くて少し頭痛がします・・・

 帰って仮眠しますよ。」 

中条博士は嬉々として棚から薬瓶を取り出した。 

中条博士「それなら頭痛に効く試薬を作ってみたけど、試してみないか?」 

一博士は首を横に振った。 

一博士「薬は辞退します・・・ですが服用後の経過を聞いても良いですか?」 

にっこり笑って中条博士は頷き、 

薬瓶を一博士の目の前に持ってくると楽しそうに説明を始めた。 

中条博士「良いとも!!まず服用後・・・ 

 口内の皮膚に付着し周辺の毛細血管に吸収される・・・ここまで1秒。 

 次の1秒で有効成分が脳に到達、更に薬が効いて頭痛が治まる。 

 ここまでの経過時間3秒、そして4秒目に脳が破裂・・・で終了だ。 

 頭痛から永遠に開放されるよ。」 

一博士「・・・残りの人生からも解放されそうですね。」 

一博士はため息をつくとお休みの挨拶をして研究室を出て行った。 

中条博士は組み木細工の箱を机の上のPCの横に置いて新たに報告書を書き始めた。 

 

作戦終了報告書  

 

異常存在NO,156の保管方法について

危険物収容ロッカーに鍵をかけ24時間監視してください。 

説明 

異常存在NO,156は2つの組木細工の箱です。 

中にはそれぞれ対となる粘液が入っています。 

粘液が人間に触れると鉱石にして彫像を作るので

実験する場合は担当の博士の許可が必要です 。

 

トンと言う音と共にエンターキーを押すと中条博士は独り言を呟いた。 

中条博士「今までの報告書の差し替えと削除完了。 

 元々エージェント樋川と私しか見られない設定にしていたから問題ない、 

 ・・・これで終わったな。」 

中条博士が伸びをすると、窓の方からバサバサと言う羽音が聞こえてきた。 

中条博士が目を向けると窓の側の止まり木に鷹が止まっていた。 

止まり木の前に置いてあるケージの中に

鷹が捕ってきたと思われる野鼠が入っている。 

中条博士「おはようテッペン、もう朝食の時間かい?

 えーっと今日のドレッシングは・・・」 

中条博士は棚の中から例の薬瓶とあと何種類かの薬瓶を取り出した。 

中条博士「ちょっとブレンドしてくるから少し待っていてくれ。」 

にっこり笑って研究室の奥の部屋に入っていった。 

朝日が差し込むこの部屋には計器の機械音と野鼠の動く音だけが響いていた 。

                                                                                                          fin