昨晩、新入りの渡部さんに4人の来客があった。渡部さんは、よくあるパターンで、ここに来るまで1カ月を緊急総合病院で無駄に過ごし、体力を全身から抜き去られてきた。ここでは、2週間が経つ。
利き腕(右)側の半麻痺ではなく、右脳をやられたため当然、半麻痺が出る場合は左側が主流になる。
一見すると、同じ半麻痺ならば、利き腕の側を残してほしいと思えるかもしれない。が、そういうネゴ(交渉)はできないわけだからね。テロリストや金銭目的の拉致や誘拐のほうが話は早い。ネゴの余地もあるし。
渡部さんはテレビ局の部長である。1カ月と2週間前の、夜中、家で倒れた。過労だろうか。つきあいのための深酒かも知れない。体格はしっかり鍛えられており、服装にもそれなりのセンスが感じられ、テレビ局の部長らしく、かなり庶民に威張っているから他の患者は近づきがたい。
1時間半ほど歓談が続いた。麻痺や言語障害の程度はかなり重く、私の満2カ月目よりはずっと軽い。
が、例によって病識(自覚)がない。渡部さんの話が、他の同僚たちに聞き取れなかったのも、それを渡部さんが察知しなかったのも、疑いがない。優しい上司や部下たちは、そんなことは気にもしていないという風情で、大いに笑っていた。なんだか偽善的なかおりがするなあ。テレビ局が得意な二枚舌?
歓談の場所は、私の部屋の前。そこは開放的なミニ・ロビーの一つになっている。たまたま用事があり、部屋を出てナースとエレベーターに乗ろうと待っていたところ、ニコニコと渡部さんを交えて内輪で談笑していた4人が、そこに来て言った。上司「完全に使いものにならねえな」、部下「どうしょうもないっすね」。
私たち患者は、目に入らないらしい、彼らには。外に出るまで我慢くらいできないのか?
感動の闘病ドキュメントなんかを、どの顔で作っているのだろうねえ。
麻痺した腕や脳梗塞のリハビリ本を、パラパラと見ることが多い。ストレッチや、部屋でのトレーニングで「逆効果」をするのは切なすぎる。5冊の良心的(笑)な本――たとえば『脳卒中マヒが改善する!
腕と指のリハビリ・ハンドブック』(講談社)や、『きょうの健康
脳卒中』(NHK出版)など――に、麻痺した腕がそのまま動かなかったり、一時期かなり良くなったのに家庭に帰ってから使い勝手の良い腕に頼って、麻痺側の腕を結局ダメにするケースも少なくないのだが、そのような手を平然と医学用語で「廃用手」と書く――。
なんなんでしょうね、この無神経さ。
続きはこちらで

利き腕(右)側の半麻痺ではなく、右脳をやられたため当然、半麻痺が出る場合は左側が主流になる。
一見すると、同じ半麻痺ならば、利き腕の側を残してほしいと思えるかもしれない。が、そういうネゴ(交渉)はできないわけだからね。テロリストや金銭目的の拉致や誘拐のほうが話は早い。ネゴの余地もあるし。
渡部さんはテレビ局の部長である。1カ月と2週間前の、夜中、家で倒れた。過労だろうか。つきあいのための深酒かも知れない。体格はしっかり鍛えられており、服装にもそれなりのセンスが感じられ、テレビ局の部長らしく、かなり庶民に威張っているから他の患者は近づきがたい。
1時間半ほど歓談が続いた。麻痺や言語障害の程度はかなり重く、私の満2カ月目よりはずっと軽い。
が、例によって病識(自覚)がない。渡部さんの話が、他の同僚たちに聞き取れなかったのも、それを渡部さんが察知しなかったのも、疑いがない。優しい上司や部下たちは、そんなことは気にもしていないという風情で、大いに笑っていた。なんだか偽善的なかおりがするなあ。テレビ局が得意な二枚舌?
歓談の場所は、私の部屋の前。そこは開放的なミニ・ロビーの一つになっている。たまたま用事があり、部屋を出てナースとエレベーターに乗ろうと待っていたところ、ニコニコと渡部さんを交えて内輪で談笑していた4人が、そこに来て言った。上司「完全に使いものにならねえな」、部下「どうしょうもないっすね」。
私たち患者は、目に入らないらしい、彼らには。外に出るまで我慢くらいできないのか?
感動の闘病ドキュメントなんかを、どの顔で作っているのだろうねえ。
麻痺した腕や脳梗塞のリハビリ本を、パラパラと見ることが多い。ストレッチや、部屋でのトレーニングで「逆効果」をするのは切なすぎる。5冊の良心的(笑)な本――たとえば『脳卒中マヒが改善する!
腕と指のリハビリ・ハンドブック』(講談社)や、『きょうの健康
脳卒中』(NHK出版)など――に、麻痺した腕がそのまま動かなかったり、一時期かなり良くなったのに家庭に帰ってから使い勝手の良い腕に頼って、麻痺側の腕を結局ダメにするケースも少なくないのだが、そのような手を平然と医学用語で「廃用手」と書く――。
なんなんでしょうね、この無神経さ。
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