厚生労働省が新方針。今朝の日経は最も敏感に反応し、1面を飾った。「過剰なリハビリ削減へ」。脳卒中などの患者でリハビリが1日1~2時間と2時間超で機能回復に差がない、との根拠なき推量に基づく暴力的結論。Why


 まず言っておきたいのは、厚生労働省の日本語力についてである。「リハビリ削減へ」と方針をさらに悪化させることには、たいていの教養ある国民は「どうして?」程度には思うだろう。厚労省が発する「過剰なリハビリ削減へ」は、否定を前提にした修飾語「過剰な」が冠せられているので、多くを騙せると思っている幼稚さ、または世論を舐めているのは相変わらずである。
「夫婦の過剰な性交渉回数は反少子化に逆効果――と厚労省」とかね。「過剰な飲酒は」やら「過労は」などときたら、「推進」のような肯定語は続かない。減らそう、という結論が先にある場合に、過剰な、が後付けされる、その典型だ。日経はスクープで独走したものの、厚労省の小学4年生なみの詐術を、疑問なく引き受けてしまった国語力には問題が残る。

 リハビリは、過剰なのか。私は現場にずっといる。普通は入院というわけだが、国の役人の訪問はゼロであり、たとえば年金詐欺大事件で、公務員以外の民間人会社勤務のデータを捏造し超大金を横領していたのと同様に、いろいろやってくれますなあ。

 朝食のときにご一緒した森本さんは高次脳機能障害ゆえ外見は健常に見えるものの、彼の目に映っている世界は独自なのである。階段と廊下の区別もついていない。リハビリに5~10カ月はかかる。衣川さんは、左側をメインとした身体麻痺と、言語障害と闘っている。なんとか聞き取れる機会が激増したが、リハビリ病院に1カ月半前(加えて急性期病院に1カ月いたのは、よくあるパターン)に来て、これから確実に伸びる時期だ。来たときはまったく話せなかったし、車椅子にも乗れず、左手も動かなかった。48歳である。いまは、少しずつ着実に改善してきた。
 3時間(トリアタマの厚生労働省が一律に決めた20分×9コマ)しかないので、言葉の障害については言語療法、手の快復は作業療法、歩行の獲得には理学療法が不可欠である。2時間以内と3時間に大した差がないに決まっているから、入院中のリハビリ時間をもっと減らせ、療法士の人員も減らせ、と言っているわけだ。患者は家に閉じこもって、ゆくゆくは寝たきりになれ、と。

 これでは、厚生労働省にとって、予算削減になるわけはない。むしろ増える。
 朝食時にもう1人ご一緒した田代さんは、大型船の技術者だった。御歳75歳を超えている。1日3時間のリハビリは「苦しい」派だったものの、やりきることで、今月14日には退院が決まった。心臓の手術の過程で「脳に飛んで」軽い脳卒中になったのだ。リハビリが2時間に減らされたら、暇になって他にやることなどなくなるだけだ。

 1日3時間は必要最低限である。個別には減らすべきケースというより、必要なのに身体がついていけぬ人は高齢者にいないわけではないが、拙者などは3時間だけでここまで改善するのは絶対に不可能であったゆえ、プロの指導のもと自主訓練を合わせて毎日15時間が必要なのである。
 断っておくけれど、「私の立場」でものを言っているのではない。脳卒中が医療費の10%に達していることも承知している。ならば一層、国民病として大局的に検証すべきではないのか。私自身は国の世話にはなっていない。医療費として健康保険に多少援助してもらう建前だが、毎月200万円あまりを支払っており、国の助けなど吹き飛んでいる。

 厚労省官僚のプロは、せめて足か手くらい麻痺になってみろとは言わないけれども、リハビリの現場を見学するのも不可能なのか?
 ならば、莫迦げた屁理屈をこねてアホな結論を我田引水するのはやめたほうがいい。

 日経1面には、こうある。ちなみに、日経を含めて私が新聞を毎日音読しているのもリハビリのためだ。
「厚生労働省は病院での過剰なリハビリの削減に乗り出す」とあり、この記事が正しいならば(正しいのだと思われる)、乗り出す、という結論は出ているということになる。全体のデータや個人差の実態に迫っているゆえなのか、大いに疑問がわく。

 記事には、こうもある。
「厚労省はまず今年4月から一部の病院に脳梗塞や骨折などの入院患者のリハビリの効果を集計させる」

 なぁにぃをぉ!
 結論が出ているのに、これから少々調査をさせる?
 この記事はスクープではなく、厚労省のリークによる広報記事のようである。

 プロがいないとできない時期や運動は確実にある。たとえば脳が歩き方の指令を出さないために、足がついているだけの状態になったとする。歩き方を再取得するためには、プロの助けが必要なことくらい厚労省のお役人にも理解できるだろう。分からにゃいのかにゃ。
 何の成果もないのが分かりきっているのに膨大な数に膨れあがった、大学のポストにおさまらない東大理学部薬学部大学院修了者用のみにある幾多の研究所群を、ちょびっと見直すだけで、国民のリハビリの機会はマシになるのだよキミたち。あっ、それは分かっているのか。

 何度も言っておきたい。私は、出所(退院とも言う)後、独りで歩けない障害をしばらく抱えることになるらしい。
 かつて2年、縮小されて1年となり、いまでは5カ月(特別な事情があれば6カ月)間しか入院も通院も保険適用にならない。その後は国民皆保険ゆえ、自宅に引きこもるか、民間の理学療法士のいる場に世話になるか、の二者択一しかない。

 私はすでに、プライオリティのトップたる職業には戻っている立場であり、下半身も上半身も高次脳機能障害もずいぶんプロの療法士たちに助けられながら、まだまだ改善の余地がたくさんあるので、出所後は3つの訓練を受ける。厚労省が改悪した入院期間の犠牲者ではあるが、遵法精神だけは日本人として充分にもつので、悪法もまた法なりの立ち位置だ。出所後も絶対に必要なリハビリに3カ所へ通うため毎月200万円はかかる。私にとってほぼ完全な快復という代償から見れば、本当に大した額ではない。が、一般にもそうなのか?

 私は、これらの費用を国にどうにかしてもらいたいとは考えたこともないタイプの者だ。内紛国や戦争下にある国々への入国にあたっても、外務省の世話をしたことはあるが、されたことは1度もない。そういう「省の世話」になるのなら腹を切る。その覚悟はずっとしてきた。

 私は要介護3やら、障害者手帳の交付を受けている者でもある。返却しようと思ったけれども、どうしても今年は制度上、必要であることが分かった。
 高次脳機能障害の、とくに注意欠陥障害のためだ。いまは歩けるようになったうえ、テニス・ラケットも右手で振れるまでになったものの、独りで歩くのは危険らしい。
 年内は、そのリハビリにも励み、お約束しよう。要介護認定も、障害者手帳も、返還する。必要な人たちに、届けてほしい。年金も受け取らない。

 国の予算にとって、どちらがトクか、少し考えていただきたい。重い脳梗塞を患っても、1年以内に120%の快復向上をする者を増やす(年金やら介護保険の使用者を減らす)方向と、リハビリの機会を奪われ、家に閉じこもり、税金を死ぬまで食いつぶす人々を増やし続けるのと、どちらが国策として正しく、また俗っぽく言えばトクか。

 脳梗塞でリハビリ中であることを今年2月に公表し、今度は2度目(1度目は2006年12月、2度目は2015年9月)の発症のためマスコミでは「過去の人」扱いされるにおよんだ現役の衆議院議員たる平沼赳夫さん――養父は総理大臣――も、現在まさにリハビリの日々を再び送っておられる。
 いまとなっては悪法でしかなかったとバレまくりの郵政民営化法案に自民党員として反対した最大の大物政治家として、最後の声をあげてもらいたい。体験者の声は、痴呆化した官僚たちや選挙のことしか頭にない国会議員たちに、まさるものなし、と思うからだ。

 最後に。
 厚労省の担当者にお願いしたい。当然のことながら、脳梗塞にも大きな個人差がある。リハビリによって復活するため入院している我々から、一律に3時間だの2時間だのに減らすなどの、非科学的で怠惰な方針に、いい加減おさらばしてもらいたいものだ。